おばけ捜査官達
三人それぞれの、手帳の謎は簡単には解けなかった。
しかし、それとは別に、つまり、手帳がどうして僕らの手元に届いたのか、なんてことは忘れて、僕らはお化け捜査官という遊びを楽しんでいた。あまりにも子供っぽい、そんな自分に呆れながら、でも、心の深い部分では、お化けを探したり、噂の真相をつきとめたりすることが楽しかったのだ。
特にゆきは、天真爛漫に、『お化け捜査官』を楽しんでいるように見えた。
ゆきは四年生だ。僕と聡よりも一つ下の学年である。僕らから見れば、ゆきは幼く、暇さえあれば、くっついてくる姿は、友達というよりは妹に近い存在だった。ただ、時々、不思議なくらいしっかりとした言葉使いをして、僕らを驚かせることがあった。
ゆきが時々妙に大人びた振る舞いをするのは、妹の存在が大きかっただろう。
ゆきには、二つ下の妹がいる。その妹を守るのは自分の使命であると考えているらしく、妹の前では、常に、しっかりものの姉を演じていた。
いや、演じていたというのは、ゆきに対して失礼かもしれない。実際に、ゆきは、しっかり者の姉だった。そして、もしかしたら、その反動なのかもしれないが、僕や聡の前では、すっかり、甘えん坊の妹になってしまうのだった。
ゆきの家は、一本杉のすぐ近くにあった。
一本杉の近くに住むということは、小学校のすぐ近くに住むということを意味した。実際、僕らの教室の窓からは、ゆきの家の屋根が見えた。
「家が近いっていいよな。羨ましい」と言ったら、
「そうかしら」、ゆきはそう言ってちょっと不思議そうな顔をした。
「私は、もっと遠くの方がいいけど」そう言って笑った。
幼い頃から、ゆきの遊び場は当然のように小学校が中心だった。放課後の小学校には、いくらでも遊びのネタが転がっていた。当然、学校の裏山も、ゆきにとってみれば庭のようなものだった。
「それじゃあ、古墳のことも知ってた?」
僕が尋ねると、ゆきはちょっと困ったような顔をした。
「あんまり覚えてないのよね」
「あそこには行ったことがなかったの?」
僕がさらに聞くと、ゆきの困惑はさらに深まったようだった。
「あの場所には何回か行ったはず。でも、あんなところに古墳なんかあったかしら。もちろん、石碑のことも知らなかったわ」
聡はのほほんとした口調で言った。
「おそらく、昔は、今よりも、もっと、深く草に覆われていて見えなかったんだ。それに、記憶違いなんてよくあることだよ。俺なんか、自分の記憶ほど信頼できないものはないと思ってる」
ゆきは、なんとなく、釈然としない顔をしていた。しかし、おそらく聡の言う通りなのだろう。僕も、この町に引っ越してきて、数ヶ月が経ったにも関わらず、時々自分の家の玄関を間違えることがある。僕の住む県営の住宅は、いわゆる団地で、同じような建物が二十件も並んでいるのだ。おまけに、その全ての住所が同じである。
「でも、お化け捜査官としては、あの古墳、やっぱり気になるよな」聡が言った。
「そう言えば、聡のお父さんは、なんか知ってるんじゃないの。お化け捜査官のこと知ってたんでしょ。聞いてみてよ」
僕がそう言うと、聡はちょっと困った顔をして言った。
「それは無理だな」
「どうして?」
「もう親父はいないんだよ。匠と同じだ」
「あ、ごめん」
「別に、慣れてるよ。お前もそうだろ」
「うん」