第1話、花火はずっと綺麗なのに……
「綺麗な花火……」
呟きながら空を見上げる。花火は綺麗なのに、私の心は晴れない。
「来年もまた、来ような?」
彼が私の肩を抱き寄せ、優しく見つめてくる。
辛い、認め……たくない。先週までは確かにここに居たのに。
彼は、そんな私をずっと心配してくれている。彼は優しい。このところずっと、ずーっと、彼は私に気を遣っている。彼が優しいのを言い訳にして、ずっと私も甘えている。このままじゃ駄目だと思ってもまた、彼に甘えてしまう。
自分のお腹をさすりながら、彼を見つめ、無理やり笑顔をつくる。
「うんっ! 今度は、この子も一緒にね!」
あ。困った顔をしてる。そう、だよね? 困るよね……こんなこと言われたらどうして良いか分からないよね? もう、良いよ? 『現実見ろよ! もうお腹にはいないよ』って、言いなよ。
けど、彼は優しい。そんなこと言わない。寂しそうな凄く優しい目をして、私を見つめる。
「ああ。そう、だな。今度は一緒に来れると良いな」
そう言い、私を強く抱きしめる。
「悠くん、どうしたの? 苦しいよ」
分かっているくせに、私はずるい。
「ああ。ごめん、何でもないよ」
彼は、抱き締めていた腕を緩める。
違うの。本当に苦しいのは、私の心。あなたを苦しめてる自分が許せない。彼の顔を見ると、涙が頬を伝っていた。
本当に私、何やってるんだろう……
「嘘! だって、悠くん、泣いてるよ?」
私のせいで、泣いてるんだよね。本当は彼だって辛い。いつも私のことを優先して、きっと、泣くことも出来なかった優しい彼。
「心愛だって泣いているじゃないか」
うん、もう、涙でぐちゃぐちゃ。ごめんね、私を元気付けようとして花火大会に連れ出してくれたのに。
その後は、互いに何も話せなくなっていた。
どうしよう。けど、いつまでも彼を苦しめる訳にはいかない。
彼の服の袖を引っ張る。
「困らせてごめんね、本当は分かっているの。私のお腹にはもう、いないって事を」
そう言うと彼は、少し驚いた様な顔をしたけれど、優しく私の頭を撫で、
「そう、か」
と呟いた。これも精一杯出した言葉、だよね。本当にありがとう……私、頑張る。
真っ直ぐ前を見つめ、決意する。少しでも彼を安心させないと。このままじゃ駄目だ。
「うん。けど、いつまでもこうしてられないよね。立ち直らなきゃ……」
そう言いかけたところで、彼が私を抱き寄せ、キスをする。それはとても深い深いキスで、力強く、それでいて切ない。
彼の気持ちが十分に伝わってきた。
そんな切ない気持ちとは裏腹に、綺麗な花火が二人を照らしている――――
猫兎彩愛です☆
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