#8 騎士団再び
――飛行隊長命令であってよ……魔女木さん以外、凸凹飛行隊総員戦闘配備! 縦浜でかつて会敵した円盤群襲来であってよ!
「ん……? な、何ですって!」
揚陸艦全艦内に響いたマリアナの声に、青夢は飛び起きる。
皮肉にも、彼女以外に呼びかける艦内放送にである。
「かぐやちゃん、大丈夫!? ……いや、あなたに心配は要らないか……」
青夢は真っ先に隣のベッドで寝るかぐやを見遣るが、やはりと言うべきかスウスウと寝息を立てている彼女を見てほっと胸を撫で下ろす。
「……真白、黒日!」
青夢はそのまま部屋から出ると、すぐに真白・黒日を見つけた。
「あ、青夢!」
「起きたのね……さっきの艦内放送聞いてた?」
「うん! 縦浜のあいつらが攻めて来たらしいわね。」
「そう。ごめん、私たち行かないと!」
「うん、頑張ってね!」
「青夢! 青夢はかぐやちゃんを守るっていう重大な、任務があるんだから! さっきの艦内放送での魔法塔華院さんの余計な一言なんて気にしないでね!」
「あ、ありがとう……」
任務直前ということもあり、三人は慌ただしく廊下で言葉を交わし。
真白は青夢を気遣い言葉をかけたのだった。
◆◇
「……法機ディアナ、アラディア発進であってよ!」
「ええ、分かってるって魔法塔華院さん!」
「言われるまでもないわよ!」
そうして、揚陸艦全通飛行甲板上に乗機諸共迫り上がった真白・黒日は艦橋からの指令にそう刺々しく返し。
「hccps://diana.wac/!」
「hccps://aradia.wac/!」
「サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!!」
法機に命じ、そのまま彼女たちは飛行甲板を発つ。
「何よあいつら! マリアナ様という飛行隊長に向かって!」
「よくってよ、雷魔さん! 先ほどのわたくしの魔女木さんへの言葉が気に入らないのでしょうね。まあ、わたくしがあんな態度に心乱されることはなくってよだから、雷魔さんこそ心乱されてどうするのであって?」
「は、はい! 申し訳ございません……」
その通信内容を見かねて声をかける法使夏だが、却ってマリアナから彼女が叱責を受けてしまった。
「そんなことより……雷魔さん、今はあなたがご自分の任務に集中なさるべきではなくって?」
「は、はいマリアナ様!」
「期待には応えて下さらなくてはならなくってよ、雷魔さん!」
マリアナはその言葉と共に通信を切る。
◆◇
「……さあ、来たわアイ。女教皇様の障害になるであろうハエたちが。」
「来たわ。」
翻って、魔法塔華院艦隊に迫る宙飛ぶ人工魔法円盤の編隊旗機を務めるは双子の魔法根源教騎士団長ターナ・ボリーとアイ・ボリーの座乗する円盤である。
二人ともツインテールの、所謂電波系のような少女たちだが。
「敵円盤群、間もなく会敵! 行くぞ魔導香、井使魔!」
「がってん!」
「任せて!」
「……本当に五月蝿い、五月の蝿共が!」
「蝿共が!」
自分たちの座乗する円盤へと向かって来る三機の法機たちには、吼えるように敵意を露わにする。
「しかし……問うぞ! お前たちは宇宙人なのか?」
剣人は円盤群に肉薄しつつ、相手方へと通信で呼びかける。
敵は場合によっては、話し合いができる相手かもしれない。
どこかそんな期待が、彼をそんな行動へと駆り立てていた。
だが。
「うるさいってえのよ……交渉しようだなんてお呼びじゃないんだから!」
「だから!」
ターナとアイは通信には直接答えず、ただただ自分たちの間だけでそう吐き捨てた。
そうして。
「hccps://myactivity.cthulhu.frs/、サーチ! アクティビティ オブ 凸凹飛行隊! ……見える、見えるわ! あんたたちのこれまでのデータが!」
「データが!」
縦浜でスターがしていたように、アーカイブとして残っていた飛行隊の過去の戦闘データを閲覧した。
「さあ私たちの可愛い部下ちゃんたち……あの法機ディアナとアラディアを襲いなさい!」
「なさい!」
ターナとアイの命を受け、彼女たち配下の編隊構成機たる円盤群は動く。
命令通り円盤群は、真白と黒日の乗機へと迫って行く。
「来たわ、黒日!」
「あいよ真白!」
真白と黒日も反応する。
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音! エグゼキュート!」
その命を受け法機ディアナからは無数の光矢が、アラディアからは動きを止める力場が放たれる。
「くっ、ちょこまかして!」
「ああもう、鬱陶しいわね!」
が、円盤群は(実際そうなのだが)動きを見透かしたように。
それらの攻撃の隙間を縫い、機体を縦横無尽に上下左右反転させながら飛び回り真白・黒日を翻弄する。
◆◇
「交渉は決裂か……なら! お前を旗機とお見受けする、俺が相手だ!」
円盤群が真白・黒日の法機たちを攻撃しに行ったことを受け、剣人は法機クロウリーを翻し唯一不動の円盤――無論、ターナとアイの乗機である――を迎撃に向かう。
「やっぱりあんたが来たのね、なら! hccps://cthulhu.frs/、セレクト ルルイエの沈没! エグゼキュート!」
「……エグゼキュート!」
「!? な……円盤が海の中に!?」
が、ターナも即応し。
その術句を受けた乗機たる円盤クトゥルフを、海中へと飛び込ませる。
それはやぶれかぶれの逃避行か、はたまた――
「あれは雷魔の……法機ルサールカと同じ能力か!?」
「……hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「くっ!? これは、海中からの攻撃か!」
やはり円盤クトゥルフは、法機ルサールカと同じく海中を行くことのできる機体であった。
たちまち法機クロウリーに対し、海中から水しぶきと共に力場のような重圧が襲いかかる。
「あははは! どうかしら、この攻撃はあ!」
「くっ……この!」
ターナはこれに苦しむ法機クロウリーを海中の自機内より見上げて、高笑いをする。
「先んじて私が海中に潜ればあんたの法機じゃ追うことはできない! そうよ……もうあんたたちの戦闘パターンは全て読めているんだから!」
――魔術師――水流波 エグゼキュート!
――月、水月
そう言うターナの脳内にはかつてのスター同様に先程電賛魔法システム内アーカイブを検索して得た、法機クロウリーの水に関連した戦闘データが浮かんでいた。
「私たちは戦略も技術もあんたたちより上なのは一目瞭然! つくづく負ける理由なんて一つもないわね……本当にダサさの極みだわ、スター!」
ターナは更に、かつて縦浜でしくじった同僚をも扱き下ろす。
「くっ……だが、レーダーからは目を離さないぞ! 魔法塔華院、こちらは会敵中だ! そちらはどうだ?」
「こちらもレーダーから目を離さないようにしていてよしかし、まだ敵方に変な動きはなくってよ!」
剣人は苦しみながらも、旗艦に座乗する飛行隊長マリアナと通信して現状を伝える。
マリアナの法機カーミラの力により飛行隊法機群内では、ネットワークが形成されているのである。
「……しかし、魔導香さんや井使魔さん、ミスター方幻術も苦戦しすぎであってよ! これではあっという間に敵方に押し切られてしまうかもしれなくってよ!」
「……それは!」
「分かってるわよ!」
「まあ、それもそうだな!」
マリアナはしかし、たまりかねて三人を叱咤する。
「だが大丈夫だ! 今はまだ防げている、このまま持ち堪えれば」
「……それはどうであってかしらね、ミスター方幻術!」
「何?」
剣人のその言葉に、マリアナはつい今しがたレーダーが捉えた機影を見る。
それは。
「さあ行かないとないと! ターナやるやるよ、私がこの宙飛ぶ人工魔法円盤クティーラで!」
何と先ほどターナの円盤クトゥルフより分離し同じく海中を進む、アイの専用機クティーラであった。
法機ディアナ・アラディアにあてがわれた円盤群も法機クロウリーに挑んだ円盤クトゥルフも、全てはこのための陽動だったのである。
「円盤一機、旗艦に接近中!」
「ふふっ! 簡単に突破できちゃったちゃった♡」
「そうよアイ、一気にやっちゃいなさい!」
「ちゃいなさい! ……はーい、了解解!」
アイはそのまま猛スピードで、強襲揚陸艦の船底めがけて自機を突き進ませる。
「ん? ……あの法機ルサールカはいないんだ。ま、いいやいや!」
アイはしかしそこで訝る。
閲覧済みのデータによれば、戦時においてはルサールカは本来海中から迫る敵に備えて既に待機していることが多いというがその姿は見当たらない。
が、ないならばないでよい。
恐らくこれから慌ててあの旗艦に備わるウェルドックの扉より、この前縦浜で見た水陸両用戦車に搭載し出して来るのだろうがもう手遅れだ。
「そのウェルドックの扉を壊してあげるげる!」
アイは勇んで、揚陸艦後部のウェルドックを海中より狙う。
よし、このまま――
「飛んで火にいる夏の虫ね……セレクト、デパーチャー オブ 魚雷霆! エグゼキュート!」
「きゃっ!? ……なっ、後ろからから!?」
が、その時。
アイの乗機クティーラを、その後方にいつの間にか出現していた水流内より飛び出した二発の魚雷霆が奇襲する。
その水流内にあるは無論、法使夏の法機ルサールカを搭載し水陸両用戦車である。
「お生憎様であってよ、攻撃者の方々……雷魔さんの法機を載せた水陸両用戦車は強襲揚陸艦ではなく! 潜水聖母艦からの発進であってよ!」
マリアナは揚陸艦艦橋内より、未だ中身が不明な敵円盤群に向けて高らかに宣言する。




