再・最終話 空宙衛星座都市サタンvsオルレアンの乙女/火と硫黄の池と新天新地
――その光……忘れもせぬ、忌々しき遊星民の光か!
「ええ、そうよ……あなたにとって最も忌まわしい記憶。でもその記憶が、私に根源を見せてくれたわ! この魔法における……真の根源を!」
――真の根源……なるほど、我々バアル・ゼブブなどもはや偽物の根源だとでも言うのだな! 貴様、どこまでも信仰を間違えたか!
空宙衛星座都市サタンと対峙する、青夢が座乗する戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦ラピュセルドオルレアン――光り輝く三段法騎戦艦。
その光は紛れもなく、サタンが忌み嫌う遊星民がこの太陽系に持ち込んだ魔法の光――光量使の光である。
「信仰、ね……前にカロアさんも言ってたけど。私も何か神様に縋ろうとは思わない! 私は……あくまで自分の信念を信じるだけ!」
――ふっ、はははは! 信念か……ならば貴様の所業は何か? 自らの所業は棚に上げて説法か!?
「そうね……でも! あなたこそ、過去の罪と向き合わないといけない。」
――……何?
尚も青夢を責め立てるサタンだが、彼女からのその言葉に空気を一変させる。
――私の罪だと?
「……hccps://emeth.laPucelled'Orléans.srow/、セレクト! オラクル オブ ザ バージン! hccps://emeth.laPucelled'Orléans.srow/GrimoreMark、セレクト 百年戦争の語り部、エグゼキュート!」
――ぬ!? こ、これは!
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……何よこれは!?」
「な、何であって?」
「ま、マリアナ様!」
「これは……?」
「あ、青夢!!」
「な、何やこれは!?」
「あれは」
「ね、姐様!」
「これは!!!」
青夢がそこで、徐に唱えた術句により三段法騎戦艦より夥しい量の光の雨が降り。
サタンのみならず、その器たる空宙衛星座都市サタンとその周囲の空宙列車群・空宙都市電使の玉座・黒客魔ゴエティックデモンズロードバリア内及び各陣に止まっている地球連合艦隊・根源教艦隊及び円盤群・バアルゼブブ艦隊及び円盤群――エリヤ遊星民を除く今時参戦勢力の全員に、その魔法を浴びた影響が及び――
◆◇
「(ん……? ここは……?)」
そんな皆がふと、気がつけば。
そこは自分たちの姿だけが明るく浮かんで見える、その他はただの真っ暗な空間だった。
――こんな物を私たちに見せて何をしようと言うのだ!
「まあ見ていて……これは月面で、あの遊星民の皆さんに見せてもらったものですから!」
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……!?」
サタンからの問いかけに青夢が答えたその言葉には、皆大きく動揺している。
――ふん、遊星民共から見せられたものをか……ならば、尚更貴様は遊星民に毒された魔女だ!
「いいから見ていて。……ほら。」
――む!? これは……
「!? くっ……」
サタンからの言葉も、青夢はさらりと受け流し。
そうして、この暗黒の空間に光が激しく明滅する。
「これは何……え!?」
皆が目をまた開くと、そこには、宇宙が広がっていた。
まさにいつかプラネタリウムで見たような、銀河や星雲が広がる光景。
――本当に何をしようと……ぐっ!?
すると突如、皆その中でも一つの星雲へと吸い込まれるかのような感覚と共に、その中へと入っていく。
「これは……え?」
その吸い込まれた星雲の中でも、一つの恒星系にて。
その主星たる恒星の中に、またも吸い込まれる感覚があった。
その中では、何やら光の粒が分裂や接合を繰り返していく光景が繰り広げられている。
「What……?」
「什么?」
「뭣?」
「な……」
「その光の粒、見覚えあるでしょ?」
それは。
「これは……まさか、光量使!?」
「……いえ、違うみたい……」
そう、光量使。
青夢たち地球人にとっては、エリヤ遊星民がサタンら金星・火星の民に齎し、その生き残りたる対エリヤ諸星同盟バアル・ゼブブを介して母星に齎された魔力そのものとも言えるもの。
だが、以前も青夢が見せられた通りそうではなく。
「これはその元……エリヤ遊星民さんたちご本人よ。」
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……!?」
「私も驚いたわ。まさか……恒星の中で生まれ育った宇宙人だったなんて……」
元々がサタンなどと違って言語ではなく、ビジョンでコミュニケーションを図るなど、明らかに地球人たちはおろかサタンらなどとも異質に感じられた遊星民たち。
そのこともあり今目の前で繰り広げられているビジョンを見て青夢はすぐに確信できたとはいえ、やはり異質すぎて、知った当時の彼女たちも今この空間にいる皆も感情的にも受け入れられるかはまた別物であった。
しかし、やはり皆が戸惑う間にもビジョンの時系列は進み。
「……! これは……」
「遊星民さんたちの故郷?の恒星から、あの円筒型宙飛ぶ魔法円盤艦隊が飛び立つ光景よ……これは恐らく。」
そうして今しがた映し出されたのは、恐らくは彼らの旅立ちの日の光景。
青夢の弁にもあったように、遊星民たちは故地と思しき恒星から、円筒型宙飛ぶ魔法円盤艦隊を発進させていく。
「恐らくは、色んな勢力に分かれて外宇宙に飛び出して行くのね……」
――そうして……なるほど。
その艦隊は複数に別れ、その一部の軌跡を、辿るがごとく。
場所はその恒星系からも、それが属する星雲からも離れ。
やがて、別の恒星系へと辿り着く。
それは、やはりと言うべきか。
「ここが太陽系ね。」
――そうだ……そして、ここが。
太陽系の、金星・地球・火星に辿り着く。
しかし金星・火星は、今彼女たちが知る姿とは違う。
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……!?」
「そう、一見すると地球が三つ……昔の生命に適していた時代の金星と火星ね。」
その姿にまたも、皆驚く。
――その通りさ……ここが滅びたのは奴らが、遊星民共が!
「まあ待って。でも……距離が今より近いでしょ。それで私、思い出したことがあるの。」
――ほう?
「月はいつも、地球に同じ側ばかりを見せているけど、それは裏側にUFO基地があって見えないようにコントロールされてるからだって話。それは迷信だと思ってたけど現に月の裏側には基地があった……ということは。」
青夢はその太陽系の姿を見て、"何か"を閃いていたのだ。
すると遊星民のビジョンも、更に先へと進んで行く。
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……!?」
――な……何だこれは!?
「見てください、皆もサタンさんもしっかりと……これがサタンさんたちの、罪の記憶です。」
そのビジョンはしかし、皆の度肝を抜くものだった。
それは火星と金星から、それぞれ艦隊――現在の対エリヤ諸星同盟バアル・ゼブブが擁する、円筒型・円盤型宙飛ぶ魔法円盤部隊と完全に同型である――が行き来し、両星間の宙域を戦域としてそれらが互いに攻撃し合う様。
また、それら艦隊の背後には宙域に浮かぶ都市――但し地球の空宙都市とは違い、あの月面に遊星民が気づいていた円筒型建造物群がそのまま宙に浮遊したような形だ――が恐らく補給及び攻撃拠点として控えている。
そして戦争はとうとう宙域に止まらず、やがて火星も金星もその大気圏内まで艦隊及び艦載機たる円盤群が侵入し。
互いに地表の都市までも、破壊されていく。
それに業を煮やしたか、なんと。
火星・金星はまたも両星揃う形で、その迫る敵艦隊も移動都市も、逆にその星そのものの方が移動して迫られ艦隊・移動都市共に撃破されるが。
それは自分から移動し、それらに衝突しに行った火星・金星自体の地表も爆発炎上して、どちらも惑星全域規模の地震やその他災害を引き起こし――
◆◇
「What……?」
「什么……?」
「뭣……?」
「な……何よこれは……?」
「な、何であって……?」
「ま、マリアナ様……?」
「これは……?」
「あ、青夢!!」
「な、何やこれは!?」
「あれは」
「ね、姐様!」
「これは!!!」
そこで、皆現実世界へと引き戻される。
皆、大いに戸惑っていた。
――……皆、惑わされるな! これは遊星民と……あの女の陰謀だ!
「いいえ、私自身も半信半疑でしたが今事実だと確信しました! サタンさん、あなたたちは遊星民さんが月裏側の基地を、地球側から見えないように月そのものの動き――天体の自転や公転に軌道まで――コントロールする技術と同等のものを持っていた。それで自分たちの内戦を終わらせた結果が、今見た通り……そうですね?」
――くっ……くっ!
青夢の言葉にサタンは、口を噤む。
それは図星を突かれたからとは言うまでもない。
「ほ、本当なんですかサタン様……私は、誑かされていたと……?」
――! おや……女教皇か! ふん!
が、そこへ女教皇から通信が入る。
先ほどの旧中央管理ビル変形の頭部からの、下顎部構成の三段法騎戦艦離脱の際、その艦橋部はレッドドラゴンに挿げ替えられていたが。
元の艦橋部だった宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナも、中の女教皇も三段法騎戦艦艦内に保護されていたのだ。
――ふん……まあVIの魔男共も根源教の奴らももはや使えなくなった以上、やむを得んし地球の奴らを動かす必要もなくなったかならば! 我々自ら、この地球をあの月にぶつけて遊星民共への雪辱を果たす!
「! なるほど……もう、完全に取り繕う必要もなくなったということなのね……!」
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……!?」
「そ、そんなサタン様……」
「サタン様……!!」
「何と……」
「……ふん、分かったか根源教騎士団長たちに猊下も! これがこいつの本性なんだ……」
しかし女教皇にも真意を見抜かれたことで自棄にでもなったか、そこでサタンが自ら明かした真意に地球連合軍や根源教騎士団長たちも混乱している。
――ああ元はといえば地球の者共、貴様らが悪いのさ! 大人しくあの遊星民を滅ぼしてくれていれば、私たちはこの最終手段を使わずに済んだ……だが! それもここまでだな……都市艦隊パンデモニウム、起動! 地球をあの憎き遊星民の本拠地・月に衝突させるのだ……!
「! ……始まったみたいね……!」
遊星民の月面基地を思わせるがごとく、それは地球の地下深くに築かれた円筒型建造物群の様相を呈している都市艦隊パンデモニウム。
それはやはり遊星民の月面基地と同じく、埋め込まれている天体――ここでは地球だ――の自転や公転に軌道までをコントロールし、その月にぶつけることもできるという。
青夢はそのサタンの言葉に、もはや何度目か分からない覚悟を決める。
「ソロモンさんとペイル・ブルーメ! それから凸凹飛行隊と元女男の皆、あとは飯綱法親子に矢魔道さんに……クソ親父。これからは本当に私とサタンさん、二人きりの話をしたいところだから、手出し無用ってことでお願い。」
「ああ、もちろんさ。」
「ふん……ま、勝手にやりなさい。」
「ああ、暴れて来い!」
「魔女木さん、どうか無事で……」
「ええ、どうぞそちらで進めていただけるとよくってよ!」
「マリアナ様の顔にこれ以上泥を塗らないでよ!」
「魔女木、必ず帰って来い!」
「青夢、絶対無事で!!」
「ああ、承知や!」
「行って来な!」
「ふん、まあせいぜいやりなさい!」
青夢が呼びかけるや、凸凹飛行隊と元女男に飯綱法親子、矢魔道や獅堂もそれぞれの反応を示す。
「ありがとう……さあサタンさん行きましょう、私たちだけの世界へ! ……セレクト。炎の吸血鬼、エグゼキュート!」
――ん!? これは……ミレニアムに……っ!
青夢はそうして、サタンと対峙するべく。
三段法騎戦艦ラピュセルドオルレアンから眩い光が発せられ、それに空宙衛星座都市サタンは包まれて行く。
「……さあて。わたくしたちは、あのバアル・ゼブブの艦隊を止めなくてはよね!」
「は、はいマリアナ様!」
「了解!!!」
「……よし。」
「さあ、行くでえ!」
「はい、騎士団長!!」
そうして彼らは、未だ衛星軌道上に止まる円筒型・円盤型宙飛ぶ魔法円盤部隊に目を向け。
凸凹飛行隊や元女男の法機群は、再び戦いに向かう。
「抜け駆けするな!」
「僕らも行くよ!」
盟次や矢魔道も、自機を駆り立てる。
「さあどうする、皆? まだあのサタンに従うか?」
「くっ……」
「それは……」
「それは……」
「む……」
「決まりだな……我々も行くぞ!」
「……応!!!!」
根源教騎士団も、カロアの呼びかけにより。
彼ら自身の宙飛ぶ人工魔法円盤を駆り立て、バアル・ゼブブの艦隊へと向かう。
◆◇
――ミレニアム……ここか。
「そうよ……話すにはピッタリな場所でしょ?」
そうして。
サタンと青夢は、それぞれの器たる空宙衛星座都市・三段法騎戦艦の姿ではなく。
光の人型と生身の人間として、この中世ヨーロッパのような仮想世界ミレニアムへと来ていた。
「単刀直入に言うわ、サタンさん……今すぐ、地球を月に衝突させることを止めてください!」
――ふん……できない相談だな!
青夢の早速の願いだが、サタンからは素気無く断られた。
「サタンさん……もういいでしょう? また火星や金星のように、この地球を変える気ですか?」
――ああ、もはや何でもいい……あの遊星民共を滅ぼせるならば!
とりつく島もないといった具合である。
「何故そこまで、遊星民の皆さんを憎むのですか?」
――遊星民は実際に火星・金星を滅ぼした訳ではないのに、か? ふん……貴様には分かるまい!
サタンはそうして、語り始めた。
――遊星民、奴らは我らが火星と金星に自分たちの技術である光量使を持ち込み、両星の文明を更に加速度的に発達させた……それは事実だ!
「ええ……そしてその技術が地球に持ち込まれかなりのスパンがあったけど……この星の文明も発展した。」
――そうだ……しかしその余波により両星の星間戦争や星内部の分裂による内戦が起きてしまい、半ば自滅する形で両星の文明は滅亡した……分かるか? やはり奴らのせいなんだ、我々が文明を滅ぼされたのは!
「なるほど……それをエリヤが要因と考え、彼らを半ば逆恨みするようになったあなたたちは対エリヤ諸星同盟バアルゼブブを結成して、復讐を決意した。」
だが戦力差は大きく、結果として彼らは敗北し地球に不時着。
それは既に、サタンから聞いていたことだった。
――逆恨みか……まあ、貴様らにとっても他人事ではあるまい! 貴様らの航空戦力たる法機、あれも地球全土に強力なそれが出回りあわや世界大戦に発展しかけた! それを防がんとした魔女木青夢、貴様のおかげで私は目覚められた……!
「そうよ……それが私の主な罪!」
サタンのその言葉に、青夢は少々項垂れながらも毅然と向き合う。
――ならば、貴様らも同じ状況になればいいのだ……私たちと同じく星の文明を滅ぼされ、遊星民共を恨め!
「サタンさん、でもダメ! ならこれ以上は罪を重ねないで!」
――止めるな! これで、終わりだ……っ!
しかし結局、説得叶わず。
そのまま、サタンは尚も地球を動かそうとし――
「hccps://ioanna.wac/、セレクト 女教皇の選択……」
――!? な、これは……!?
「! これって……?」
が、そこでふと術句の詠唱が響く。
この声の主は無論。
「……エグゼキュート!」
「……かぐやちゃん!」
女教皇だった――
◆◇
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……何よこれは!?」
「な、何であって?」
「ま、マリアナ様!」
「これは……?」
「あ、青夢!!」
「な、何やこれは!?」
「あれは」
「ね、姐様!」
「これは!!!」
その頃。
外でもバアル・ゼブブの艦隊が動きを止め。
それと同時に宇宙空間に、巨大な渦巻き――かつて遊星民が奇襲を行った空間ゲートと同じ形だ――が生成され。
そこから出て来たのは、円筒型建造物群がそのまま宙に浮遊したような移動都市――都市艦隊パンデモニウムである。
そして三段法騎戦艦と空宙衛星座都市を包んでいた光も消える。
「地球連合軍及びバアル・ゼブブの皆さんに告げます……今、私は魔法根源教女教皇の力を借りて、バアル・ゼブブのネットワークを掌握・無力化することに成功しました!」
「お……おおお!!」
青夢が電賛魔法ネットワークを通じて地球連合軍に呼びかけるや、彼らは歓声を上げる。
「さて、そして……対エリヤ諸星同盟の皆さん……あなたたちに処分を言い渡します!」
――……ふん。
そのまま青夢はサタンひいては、バアル・ゼブブにそう宣告した。
◆◇
「……あなたたちを地球より追放します!」
――ふん……いいさ、追放など生温い! 一思いに滅ぼせ……!
青夢の宣告に、サタンは自棄とも言える態度で返す。
「いいえ、追放です! 追放先は……火星と金星です!」
――!? な、何?
「……何ですって?」
しかしこの言葉には、サタンのみならずマリアナも驚く。
火星と金星に追放?
それはもしや。
「いずれは月や火星、金星などに移民を送り込むつもりです! しかし手始めに……凸凹飛行隊と共に火星に移住し環境復活と再開拓を行ってもらいます! そう、これは新天新地計画の第一歩です!」
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
マリアナの予想通りというべきか、やはりそう言うことであった。
――私たちを、貴様らの事業に利用しようと言うのか……ふざけるな!
「残念ですがサタンさんたち……あなた方に選択肢はありません! 当然、凸凹飛行隊も……ね?」
「む……ええ、その通りであってね!」
――くっ……!
「……まあ世界の皆さん、かつて世界を混乱に陥れたレッドドラゴンめがこんなこと勝手に決めるのはどうかと思いますが……私たち以外に、このサタンさんたちを追放し見張れる者はいませんね?」
「YES」
「はい」
「はい。」
「是……」
「네……」
「defo……」
「Oui……」
まだ四の五の言う、またはその可能がある者たちを、青夢はあっという間に説き伏せていく。
――それで多少は恩を売ったつもりなのか、お前は!
「いいえ……むしろ私は、あなたたちに恩返しをしたいの!」
――……何?
「地球であなたたちが眠りについていたのはエリヤさんたちへの反乱を止めて、地球が滅ぼされないようにする意図があったのではないかって私思うの。それに、強制的に地球に魔法技術を広めようとはせず発展を地球人に任せたのは自分たちの教訓――精神文明が未熟なうちに発達した技術を手に入れて持て余し自滅する――から地球が自分たちの二の舞にならないようにする意図があったのではないかって思うんだけど……どうかしら?」
――ふん……まあ、好きに解釈するがいい!
青夢からの指摘に、サタンは尚もぶっきらぼうながらも。
どこか笑いの混じった声で、答えたのだった――
◆◇
「さて……それじゃ、行かないとね!」
「ええ、言われなくてもよ魔女木さん!」
「そうよ、命令しないでよ!」
「ああ、行こう!」
「うん、青夢!!」
「ほいな!」
「ほら遅れないよミリア!」
「は、はい姐様!」
地球人類史上初の異星知的生命体との戦争・通称ミレニアム包囲戦争終結より数ヶ月後、青夢が約束通りサタンらバアル・ゼブブを止めたことで、エリヤ遊星民は月を去り。
第一次新天新地計画移民船団が発足。
メンバーは凸凹飛行隊・元女男の騎士団の全員、及び対エリヤ諸星同盟に加え。
「ソロモン陛下、大丈夫ですか?」
「ええ、ペイル殿。あのサタン殿の故地で心機一転できるとはいいですね……」
――あら、遊びじゃないんですよ?
艦内で喋りに花を咲かせる黒客魔ゴエティックデモンズロードに宿るソロモンやペイル、アンヌらVIの者たち全般。
「ウウム、火星トハ大丈夫ナノカ……」
「大丈夫ですわ、陛下。私がいますから!」
「オオ、アリアタン!」
「ほら獅堂さん、急いで!」
「ああ、待ってくれ藍ちゃん!」
「まったく、相変わらずだなあ獅堂!」
タランチュラやアラクネ、青夢の両親に飯綱法父、更に盟次や矢魔道もである。
更に。
「急ぎなさい、あなたたち!」
「はい、猊下!!!!!」
「いや、猊下は余計よ!」
女教皇や根源教騎士団の者たちもだった。
そしてサタンやソロモンが去ることで、地球の電賛魔法も順次新しいものに置き換わること、更にその指揮を取るのが三大企業に加えて飯綱法重工も名を連ねることが決定していた。
「ほら盟次君、急がないと!」
「ああ……」
彼らが今いるのは、かつての空宙衛星座都市サタン。
今はサタンが抜け出たそれは、更に空宙都市電使の玉座も接続させた、まさに国際空宙都市ニューエルサレムとなるべく改築作業中である。
そこには基幹システムの一部として、VIたちを使わないよう改良がなされた、あの仮想通貨イースメラルダとその派生型11種が使われている。
彼らが急いでいるのは、その都市に停泊している三段法騎戦艦ラピュセルドオルレアン――ではなく、三段法騎戦艦レッドドラゴンである。
あの力は、遊星民と接触した際の空飛ぶ駆竜魔実験機を黒客魔レッドドラゴンが取り込んで一時的に目覚めたものだったようである。
他にはバアル・ゼブブの無力化された円筒型宙飛ぶ魔法円盤艦隊も停泊している。
「なあ矢魔道、これは問題の先送りになると思わないか?」
「え!? な、何だい急に……」
盟次はそこで、矢魔道に声をかける。
「……この改築中の国際空宙都市ニューエルサレムも、火星や金星に行く中継基地になると共に。いざ両星に派遣された俺たちが地球に対して牙を剥いた際には、その防衛基地となることになっている。つまり」
「ああ、そうだね……やっぱり、心からバアル・ゼブブの人たちや魔女木さん、更にまだ手に余る技術やその開発者たちをまとめて島流し……という一面もあるだろう。」
「ああ、飲み込みが早いな!」
盟次の真意を、矢魔道は素早く汲み取る。
というよりは、矢魔道も似たような感覚でいたのだ。
まだまだ電賛魔法は人の手に余る。
それは地球人類も、その技術の結晶そのものでもあるVIも、バアル・ゼブブも、更にはエリヤ遊星民でさえ同じかもしれない。
結局は問題そのものを火星という島に先送りしたに過ぎず、また同じような、いやそれ以上の争いが起こるのではないか――
それは同じ技術者として、盟次も矢魔道も感じて自然ではあった。
「……それでも、僕は魔女木さんを信じるよ! 魔女木さんは結果的ではあるけど味方をたくさん動かして、まだ全てではないけれど救ってくれた! ……盟次君も言っていたでしょ? 彼女のそんな夢は青臭いけど、面白いって。」
「……ふっ。まあ、な!」
「ならもう心配はいらないね……さあ、急ごう!」
「ああ!」
しかし矢魔道は、自信をもってそう宣言し。
盟次もふっと笑い、そのまま二人は三段法騎戦艦へと急いだ――
「……第一次新天新地計画移民船団、発進準備完了!」
「了解。さあ……行こう皆! hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! デパーチャー オブ 龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴン! エグゼキュート!」
そうして、皆を乗せた龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴンは、バアル・ゼブブの無力化された円筒型宙飛ぶ魔法円盤艦隊を率いて。
ニューエルサレム前に開かれた渦巻き状の空間ゲートを通り、一路火星を目指す。
◆◇
――まさか、また来るとはな……火星!
「ええ……ようやく来たわ、火星に!」
程なくして、龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴンは火星周辺宙域へと辿り着き。
そこから移民団メンバーはそれぞれの宙飛ぶ法機型円盤や宙飛ぶ魔法円盤、宙飛ぶ人工魔法円盤に乗り、火星地表へと宇宙装備着用の上降り立った。
そこは地面も空も赤茶けた、分かってはいたが完全なる死の世界だった。
「私たちは火星と金星――今は火と硫黄の池となった場所に降り立った。だけど、ここから始めるの……ここを今度は、新天新地にするのよ!」
――まったく……ホラばかりデカいなお前は!
「ええ、同感であってよ……」
「私もですマリアナ様……」
「もう頑張るしかないだろ!」
「うん、青夢!!」
「ああ、夢はデッカくや!」
「ふふん、腕が鳴るねえ!」
「は、はい姐様!」
「ええ、青夢ならきっとやれるわ!」
「ああ、青夢!」
「そうだな、獅堂!」
「本当に青臭いなお前は。」
「でも、やっぱり面白いだろ盟次君!」
「げ、猊下!!!!!」
「ああもう、だから猊下じゃないって! まあ魔女木青夢。」
「! かぐやちゃん……」
皆が多様な反応を示す中、元女教皇は青夢に呼びかける。
「私はあんたを完全に許した訳じゃないけど。ここで元根源教騎士団はうまく開拓してボロ儲けする! そのために利用させてもらうわ……!」
「うん……ありがとう、協力してくれて!」
「……ふん!」
青夢はそんな元女教皇に笑いかけた。
しかし、それからは。
「まずい、砂嵐と太陽からの磁気嵐だ!」
「く、そうね……拠点に戻るわ! やっぱり、この星の磁場と大気を安定させることが先決ね……こうなったら、惑星の核にあの都市艦隊と同じものを埋め込みましょう!」
問題が次々と起こる開拓事業となり、しばらくは皆から笑顔が消えていくこととなった。
今青夢の弁にもあったように、まずは火星の磁場・大気の安定。
それが済んだとしても、後は雨を降らせてその次に植林を始め――など、やることは山積みである。
そんな中まだ火星も金星も新天新地になりきらない内に、あの国際空宙都市ニューエルサレムは完成した。
これにより地球との行き来は以前よりも容易になる。
「これは、想像以上に難事業ね……でも、私たちだけの代で終わらせられないかもしれなくても。せめて私たちのやったことが一つでも多く、プラスの影響として後世に残りますように――」
青夢は苦しい中でも常に、それだけを願い続けた。
◆◇
「(ん……? ここは……?)」
私はそこでふと、目を開けた。
そこは、何やら周囲に緑が広がる博物館のような所。
「さあご覧ください……ここにありますのが、記念艦たる龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴンです! これぞ地球人類史上初の異星知的生命体との戦争・通称ミレニアム包囲戦争において"全てを救い"、更に火星・金星の開拓にも乗り出し現在まで続く宇宙進出の礎となった英雄・魔女木青夢氏の功績を讃えるものです!」
「おお……すごい! まさに、英雄だ!」
……これは夢かしら、それとも私が死後にソロモンさんみたいに電賛魔法システム内に、VIとして取り込まれたの?
まあいいわ、どちらにしても私一つ願いが湧いた。
サーチ、ハウ ノット トゥー ビー ヒーロー!
……え、英雄になりたくないなんてどうしてかって?
何でそんなこと願うのかって?
だって、英雄って悪魔でもあるじゃない。
だから、次に産まれて来て救世主――私が成し遂げきれなかったことをやってくれる、"全てを救う"人が現れたら、その人に対しても願いたい。
サーチ、アイ ウォント ザ ワン トゥー ビー ア パーフェクト ヒーロー!
どこから見ても悪魔の面がない、完璧な英雄になってくれますようにって。
さあ、私は検索したわ。
これに対する検索結果は、どうなるか。
私がまだ生きているなら一緒に考えましょう。
そうでなければ人任せで済まないけれどどうか、私の代わりに考えてね――
ウィッチエアクラフトシリーズは、これ以降まだ続編を書くこともあるかもしれませんが、完結とします。
色々と手厳しいご意見あるかと思いますが応援してくださった皆様、今までありがとうございました!




