#49 女教皇とサタン
「くっ……なるほど! 私を、かぐやちゃん諸共噛み砕こうってことよね……あなたにこんなに尽くしてくれたかぐやちゃんを、巻き込むの!?」
青夢は自分たちを"噛み砕く"と宣言したサタンに、そう問いかける。
彼女たちがいる旧中央管理ビル変形の頭部口内では。
サタンから授けられた魔法を、女教皇は発動したがその刹那。
彼女たちがいる口内の上下顎に当たる部分に無数の牙が生え、女教皇共々レッドドラゴンは上下の顎の間隔が狭くなり挟まれた状態になっていた。
その牙は凄まじく、青夢がレッドドラゴンに張らせたバリアをも瞬く間に貫き、今にも中の本体に迫る勢いである。
――ははは! 巻き込むというのはまったく違うな……私に尽くす信徒の頭がその女教皇ならば! 死するまでその血の一滴まで捧げるのは当然。だろう?
「うっ……はい、サタン、様……」
「かぐやちゃん……!」
サタンはしかし事も無げにそう言い放ち、女教皇も牙の噛みに苦しみつつもその言葉を肯定している。
――そうだ、これは本望だろう女教皇! 私は貴様が崇めるバアル・ゼブブ様なのだから、信徒たる貴様が身を捧げるは当然だ!
「ええ……ええ、その通りですバアル・ゼブブ様!」
サタンは尚もそう言い放ち、女教皇は更に自分に言い聞かせるように言う。
「……違う! こんなの、本望でも当然でもないよ! こんなの、かぐやちゃんがすべきことじゃない!」
「!」
――ほう?
青夢はしかし、そう叫んだ。
◆◇
その頃、空宙都市電使の玉座と空宙衛星座都市サタン間宙域では。
「hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷溶渦巻! エグゼキュート!」
その空宙都市電使の玉座から発進した法機パンドラと法機レッドサーペント――説明が遅れたが、既にどちらも宙飛ぶ法機型円盤に変化している――は、その中間戦域に布陣する魔男連合艦隊上の宙域に飛来し。
そこから発せられた無数の火線と水蒸気爆発による気流により、同艦隊の隊列は乱れてしまう。
「マージン・アルカナ!」
「ようやく悪魔人艦が見える……ウィヨルとフィダール!」
そのまま宙飛ぶ法機型円盤パンドラの操縦席から、因縁の相手が座乗しているであろう悪魔人艦を見咎めた盟次は。
「hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴 エグゼキュート!」
「くっ……ワープして来ましたか!」
そのまま自ら空間ゲートをこじ開けると、そこをくぐる形で、一気に悪魔人艦艦隊上の宙域までワープして来た。
「hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「空襲とはやりますが……甘いですよ! fcp> get demonwing.hcml……魔王旋風!」
そしてすぐ下の悪魔人艦旗艦を火線にて狙い撃ちするが、ウィヨルとフィダールもその悪魔様人型上半身の如き艦橋部からこれを見咎め、気流を発生させる。
「ふん、貴様らこそ甘いぞ!」
宙飛ぶ法機型円盤パンドラを素早く、上下左右に反転させてこの攻撃を回避する。
「くっ、アルカナめ……ならば直接狙い撃ちするまで! hccps://baptism.tarantism/! セレクト、デパーチャー オブ 直撃炸裂魔弾! エグゼキュート!」
「む……ぐっ! なるほど、対宙攻撃か!」
しかしウィヨルとフィダールが新たに乗艦に下した命令により、その乗艦する悪魔人艦旗艦周囲に直撃炸裂魔弾群が生成され、宙飛ぶ法機型円盤パンドラに襲いかかる。
「なるほど、確かに強力だが……これはどうかな! ……hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴 エグゼキュート!」
「な、何だこれは!?」
しかしアルカナも即応し、すぐさま乗機に命じるや同機の眼前には四角い空間ゲートが生成され。
直撃炸裂魔弾群がそこに吸い込まれたかと思えば、今度は悪魔人艦旗艦眼前で別の同様の空間ゲートが開いてそこより先ほどの弾幕が飛来し。
「ぐ……ぐああ!!」
艦橋は避け、その艦体前部に炸裂したのだった。
「あれは盟次君か! よし、僕も負けていられないな……hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷溶渦巻! エグゼキュート!」
それを遠目に見た、矢魔道も更に奮起し。
宙飛ぶ法機型円盤レッドサーペントを縦横無尽に反転させながら、魔男連合艦隊の上宙域を飛び回り、水蒸気爆発により気流を発生させて隊列を乱していく。
「あれは法機レッドサーペント……なるほど。」
そんな矢魔道の乗機を見咎めた者がいた。
こちらも魔人艦の一種たる半人半艦の巨大兵器・牛人艦の艦隊、
それを擁する牛男の騎士団でありその団長アベル・レッドラム――すなわち。
「兄のカイン・レッドラムか!」
元はVI魔男であった矢魔道――カイン・レッドラムの弟である。
「忌々しい兄め、撃墜してやるぞ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト 牛棍棒砲! エグゼキュート!」
「む!? く、敵艦から主砲撃! いやこれは雷電を纏う……アベルのか!」
アベルが命じた牛人艦旗艦より、主砲撃が放たれ矢魔道は間一髪でかわす。
「おやおや……うるさく逃げ回る坊やねえ、この私が葬ってあげるわあ!」
そう叫ぶは、鳥男の騎士団団長ウィンダ・フリップ。
彼いや彼女が率いるは、翼を鳥人上半身型艦橋後部より生やした、魔人艦の一種たる半人半艦の巨大兵器・宙飛ぶ鳥人艦複数で構成されている艦隊である。
「砲撃用意!」
「はっ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト 大翼砲、エグゼキュート!」
鳥男の騎士団も動き出す。
その全艦隊は、翼より羽根状パーツを無数に分離させ。
それはエネルギーを纏い、宙飛ぶ法機型円盤レッドサーペントめがけて飛ぶ。
「今だ……あの忌まわしき法機共に我らも砲撃を加える!」
「はっ!!」
魔神艦艦隊では馬男の騎士団長シャルルが、部下たちに命じ。
たちまち、艦上の主砲塔が変わる変わる向きを変え。
「さあ……hccp://baptism.tarantism/、セレクト 人馬弓矢! エグゼキュート!」
その各砲身より、これまたレッドサーペントめがけて無数の矢が発射される。
「こんなに……hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷溶渦巻! エグゼキュート!」
しかし、それを遠目に捉えた矢魔道も即応し。
宙飛ぶ法機型円盤レッドサーペントから、気流を発射する。
すると。
「きゃあっ! な、何なのよこれえ!」
「く……怯むな!」
それは鳥男・馬男の騎士団艦隊から放たれた砲撃を跳ね返したばかりか、隊列をこれまで以上に大きく崩す。
「よし……今だ! hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「ああ、行こう盟次君……hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
「くっ……ぐああ!!」
それら牽制攻撃が、十分に成功したと見るや。
宙飛ぶ法機型円盤パンドラが、両空宙都市並びにゴエティックデモンズロードの双方の戦域に陣取る魔男連合艦隊上宙域に無数の四角い空間ゲートを開き、そこから無数の火線を発射し。
さらに宙飛ぶ法機型円盤レッドサーペントもそのゲートを通じて魔男連合艦隊全てに氷の剣の雨を降らせていく。
「! ここにも空間ゲートが……よし、誘導柘榴弾を発射! そして私も……セレクト! 碧玉一閃! hccps://HermesTrismegistus.wac/GrimoreMark 降り注ぐ宝石! エグゼキュート!」
「ぐ……ぐああ!」
更に空間ゲートが空宙都市電使の玉座の眼前にも開かれると、それに反応した獅堂により同都市から誘導柘榴弾群と無数の宝石状光弾が放たれ、それがゲートを通じてやはり魔男連合艦隊へと送り込まれる。
「く……砲塔が!」
「こ、コントロール不能!」
それらのうち火と氷による攻撃は、直接艦橋を避け艦体に突き刺さったり、または混ざり水蒸気爆発を引き起こしたりし。
更に誘導柘榴弾群と宝石状光弾の雨も、やはり艦橋を避けて艦体に更なる追い討ちをかけて行く。
「おや……そろそろ無力化できそうですよ、ペイルさん!」
「ええ、陛下! hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/、セレクト! 売買領域 エグゼキュート!」
これを見たソロモンにより命じられたペイルは、ゴエティックデモンズロードより術を発動し。
それらは魔男連合艦隊から通信領域を、奪っていく――
「く……いや、まだだ! まだ負けん……我らが主人、サタン様がために!」
が、馬男の騎士団長ペイルはどこまでも刷り込まれた忠誠に忠実に、隙を窺っていた。
◆◇
「マリアナ様、あれは!」
「!? あのゴエティックデモンズロード――マジェスティ・ソロモンに魔男の艦隊が群がっていますわ!」
「く、早く行かなければ!」
「ええ、そうね!! 青夢……」
「ほな、行かなな!」
「はい!!」
一方、時はこの少し前。
尚も第一陣で戦いを繰り広げ続けるは、凸凹飛行隊や元女男の騎士団の法機群と根源教騎士団・バアルゼブブの連合円盤群である。
凸凹飛行隊や元女男の法機群は、米の残した空宙列車やウィガール艦隊を足場に敵と戦ったが、遠目にゴエティックデモンズロードのバリア周辺戦域を見咎め改めて救援の意思を持ったのである。
「よそ見をするな! hccps://huster.frs/! セレクト、黒湖の幽閉 エグゼキュート!」
「hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「はい! hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
「hccps://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、凍える炎! hccps://cthugha.frs/GrimoreMark、セレクト 氷の吸血鬼! エグゼキュート!」
しかし凸凹飛行隊や元女男の動きを見て根源教騎士団の円筒型・円盤型の宙飛ぶ人工魔法円盤、及び同型のバアル・ゼブブ方宙飛ぶ魔法円盤部隊も、隙ありとばかりに纏めて攻撃を凸凹飛行隊や元女男の騎士団の法機群めがけて放つ。
「猊下……hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
「くっ……やはりお前か!」
しかし、やはりというべきか。
根源教土の騎士団長カロアが自身の宙飛ぶ人工魔法円盤ツァトゥグアやその配下の円筒型・円盤型の宙飛ぶ人工魔法円盤を駆り立て、通りすがりに腐食エネルギー弾を次々と放ち弾幕を展開する。
それにより攻撃は、防がれる。
「ミス・カロア……」
「行け、凸凹飛行隊に元女男の騎士団! 恐らく魔女木青夢は猊下を救ってくれる……だから、早く応援に行くんだ!」
「……承知しましてよ! 凸凹飛行隊法機群、全速前進! 目標、あの空宙衛星座都市サタン!」
「はい、マリアナ様!」
「ああ、行くぞ!」
「うん!!」
「了解や! さあ行くでえ、皆!」
「はい!!」
カロアに促され、凸凹飛行隊や元女男の法機群は最大速度で空宙衛星座都市サタンの宙域へと迫っていく。
「カロア……貴様! どこまで裏切れば」
「そうよそうよ!!」
「許さん……」
「ああ、許されないさ! 魔女木青夢も……そして私もお前たちも猊下も! サタンもなあ! 皆、この地球そのものを誑かした者たちなのだから!」
「何……!!!!」
当然というべきか通信を通して向けられる仲間たちからの非難も、カロアはしかし真正面から受け止めていた。
◆◇
「喰らうがよい、我らが曲を! hccp://baptism.tarantism/、セレクト 悪魔の交響曲 エグゼキュート! さあ皆よ……この私が指揮者であるぞ、ハーモニーを奏でよ!」
「シャルル殿!! ……hccp://baptism.tarantism/、サーチ……」
「!? こ、これは!?」
「ぐ……きゃあ!!」
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
しかし、現在のその空宙衛星座都市サタン周辺宙域では。
シャルルはペイルに全通信領域を奪われる直前、その通信を通じ管弦楽による騒々しい不協和音が鳴り響き、ゴエティックデモンズロードバリア内・魔男連合艦隊上宙域・空宙都市電使の玉座の全部隊が動きを止められる。
「今だ! 魔男連合艦隊、主砲発射用意! 目標……まずはあの忌々しいソロモン王陛下だ!」
「応!!」
ウィヨルとフィダールの呼びかけにより、今不協和音を一時中断したシャルルも含めて、魔男連合艦隊は損傷する中でも使用可能な全砲門を開き。
「hccps://baptism.tarantism/! セレクト、業火砲!」
「セレクト、巨人鎚砲!」
「セレクト、宿木弾!」
「セレクト、泡弾!」
「セレクト、狂獣人砲!」
「セレクト、波動牙!」
「セレクト 人馬弓矢!」
「セレクト 牛棍棒砲!」
「セレクト 大翼砲!」
「セレクト 竜獄炎砲!」
「セレクト 虎爪砲 エグゼキュート!」
「セレクト 狼牙砲 エグゼキュート!」
「エグゼキュート!!!!」
黒客魔ゴエティックデモンズロードのエネルギー体へと、艦砲斉射を行う――
「hccps://camilla.wac/……セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
「hccps://rusalka.wac/……セレクト 儚き泡!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト、アトランダムデッキ! 女教皇――聖女の慈悲!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「hccps://martha.wac/ セレクト! 子飼いの帯 エグゼキュート!」
「hccps://circe.wac/」
「hccps://medeia.wac/」
「edrn/fs/gogmagog.fs?arts=TwinStreamーーセレクト !! ツインストリーム!! エグゼキュート!!」
「な……ぐっ!?」
が、その時。
明後日の方向より無数の攻撃が飛来し、魔男連合艦隊の艦砲斉射は相殺される。
「!? これは……凸凹飛行隊と元女男か!」
「ええ、さあ何をぼうっとしていてよミスター飯綱法! 早く、魔男連合艦隊上空にたくさん空間ゲートを!」
「! まったく、のこのこと来て人遣いが荒いな……hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴! エグゼキュート!」
しかし、盟次も事実を噛みしめる暇もなくマリアナに促され。
彼は即応し、両空宙都市並びにゴエティックデモンズロードの双方の戦域に陣取る魔男連合艦隊上宙域に無数の四角い空間ゲートを開く。
「く……また何か攻撃が来るのか!? ならばまた喰らうがよい、我らが曲を」
「hccps://camilla.wac/……セレクト ファング オブ バンパイア! エグゼキュート!」
「hccps://martha.wac/、セレクト! 処女の慈悲、エグゼキュート!」
「!? こ、これは……くっ!!」
それに戸惑いつつもシャルルは、またも不協和音を発動しようとするが。
それら無数の空間ゲートを宙飛ぶ法機型円盤カーミラは出入りしながら魔男連合艦隊上宙域を最大速で飛び回り、同艦隊にネットワークを繋げて行き。
そのネットワークを通じて、同じく空間ゲートを出入りしながら艦隊上空を宙飛ぶ法機型円盤マルタは、やはり最大速で飛び回りながら波動――幻獣機を従えるものだ――を放ち。
幻獣機の集合体たる魔男連合艦隊は瞬く間に、完全に無力化されてしまった。
勝負はあっという間に決まった。
◆◇
「何、ですって……私がやるべきことよ! 私こそ……私たち魔法根源教こそ、このサタン様に身を捧げるべき者たち!」
「かぐやちゃん違うわ……お願い、心を閉ざさないで! ……くっ!」
――要らんことを言うな、所詮は罪人レッドドラゴンが! 待っていろ女教皇、こんな奴は諸共に噛み砕いてやる……!
「はい……サタン様!」
そんな状況の外とは違い、この旧中央管理ビル変形の頭部口内では未だに女教皇と青夢、更にサタンが舌戦を繰り広げていたが。
既にその口内に生えた牙により、もはや青夢搭乗のレッドドラゴンは噛み砕かれかけ絶対絶命であった。
――猊下、聞こえますか!?
「! あら……裏切りの騎士団長、カロアじゃないの!」
が、その時。
他の根源教騎士団を振り切り、自身も円盤ツァトゥグアで空宙衛星座都市サタンに迫りつつあったカロアから、女教皇に通信が入る。
――ええ、申し訳ございませんが……私たちを元々裏切っていたのは、他ならぬあのサタン自身です! 彼は私たちをただ使い潰そうとしただけなんですよ!
「ふ……そうだとしても、それが何なのかしら!? 私たちはサタン様に身を捧げるべき存在なのよ!」
――猊下……やはり無理ですか!
――ははは! そうさ、無理だ……まったく、外の魔男共も使えなくなったとはなあ! こうなればさあ女教皇、そのレッドドラゴンを縛りつけろ! 私たちで、そいつを火と硫黄の池へと沈めるのだ……!
「はい、サタン様……hccps://ioanna.wac/、セレクト 女教皇の選択……」
「くっ……ぐっ、きゃああ!」
カロアの言葉も届かず。
とうとう牙は、バリアを破り。
そのままレッドドラゴン本体に刺さり、その先端が青夢の肩に刺さった――
◆◇
「(ん……? ここは……?)」
青夢がふと、気がつけば。
そこは自身以外何も見えない、ただの真っ暗な空間だった。
――そ、そうだ! ねえ、魔法塔華院マリアナの機体は、私の機体はどうなったの? 私は、もう死んだの……?
――まあまあ、落ち着きなさい。
――こ、これが落ち着いていられるって言うの!? わ、私まだ、何もしてないのよ?
――えい! ……捕まえた。
――ん!? ……え?
――落ち着きなさい青夢さん! ……今あなたは怖がっている。そういう時には自分すら疑いたくなる。でもね、そうやって疑うってことは、あなたは間違いなくここにいるってことなの。
戸惑いながらも青夢の脳内には、かつて法機ジャンヌダルクを授かった際に、当時のダークウェブの女王アラクネに言われた言葉が去来する。
更に。
――人間として生きることを、"あんた"が望んでいるなら。さあ、この法機の力を使って!
――ふっ、ああいいだろう……
――hccps://……なあんてな!
――ん!? な、"あんた"何を!
"あいつ"の器たる黒客魔マスターセリアンは、急に光に包まれて消滅してしまった一回目の最終決戦の際の記憶。
更に。
――本当に、いいんですね?
――青夢、本当にいいのね?
――ええ、いいんです!
かつて、電賛魔法が存在した時。
青夢は全ての元凶たるそれを、終わらせようとした。
そうして、魔法の根源へたどり着いた青夢は。
根源そのものである史実のイスラエル王ソロモン及び、これまた史実のジャンヌダルクにして自機に宿るAIでもあるアンヌにそう聞かれていたのだ。
あの時のこと。
「(これは夢なのかしら……あるいはもう私は、死んでしまって地獄に……? いえ、もしかしたらこれは走馬灯……っ!?)」
青夢が尚も、考えを巡らせていると。
突如、この暗黒の空間に光が激しく明滅する。
「これは何……え!?」
目をまた開くと、そこには、宇宙が広がっていた。
まさにいつかプラネタリウムで見たような、銀河や星雲が広がる光景。
「綺麗……きゃっ!?」
すると突如、彼女はその中でも一つの星雲へと吸い込まれるかのような感覚と共に、その中へと入っていく――
「!? そうだわ、これは……あの遊星民さんたちの記憶! そう、記憶……っ!?」
青夢はそこで、刹那閃きを得る。
そう、記憶――
――ああ……イエス様! そして……真なる王! 私に……私に勇気を! hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! サーチ……
これは、魔法の根源に接続する際に触れたアンヌ――ジャンヌダルクの記憶。
――何でしょうかねえ、これは? 煙を上げていますね……
これはサタンが本格的に活動を開始した際、その遥か昔にサタンと邂逅したイスラエル王ソロモンの記憶。
全てこれら記憶は、何かある度に触れていた。
ならば。
「一度は遊星民さん――バアル・ゼブブの皆さんじゃない、本当の魔法の根源! それに触れたということは、今私は……っ!」
青夢が閃いた、その時だった。
突如、今彼女がいるただの真っ暗な空間に、眩い光が現れ――
◆◇
――ぐっ!? ま、眩しい! ぐあっ!?
「くっ……な、何なの……きゃっ!?」
再び、旧中央管理ビル変形の頭部口内だが。
異変が起きていた。
何と、レッドドラゴンより目が眩むほどの激しい光が生じ。
それと同時にレッドドラゴンを噛み砕こうとしていた牙も折れたばかりか。
なんと下顎部を形成していた三段法騎戦艦は分離させられ、そのまま先ほどの眩い光に包まれて空宙衛星座都市サタンのバリアたるエネルギー雨をも貫通し。
そのまま空宙衛星座都市サタンと対峙する宙域に、鎮座する。
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
「な……何よこれは!?」
「な、何であって?」
「ま、マリアナ様!」
「これは……?」
「あ、青夢!!」
「な、何やあれは!?」
「あれは」
「ね、姐様!」
「あれは!!!」
地球連合軍の面々もまた、その眩い光にただただ圧倒されるが。
やがて、光の中からその三段法騎戦艦の"姿"が浮かび上がる。
それは、それはヘロディアス艦や魔神艦よろしく、人の上半身を模した艦橋を備え。
三連装の主砲塔を艦前部に計三基揃えた、かつての大艦巨砲主義時代の戦艦を思わせる外観も。
艦後部には、その人型艦橋の頂上部にまでかかるほどの高さを誇る三段飛行甲板が備えられている点も、これまでの三段法騎戦艦と同じなのだが。
その人型上半身部が、これまでのレッドドラゴンとは異なり多頭龍ではなく、純粋な女性の姿なのだ。
――何だ……その姿は!?
「戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦ラピュセルドオルレアン! さあ、過去の罪もこれからの罪も背負ったまま、私はただ全てを救う……!」
戸惑うサタンや地球連合軍の面々に対し、青夢はそう強く宣言したのだった――




