#48 それぞれの因縁
「そうね、失礼したわ……女教皇猊下!」
「ええ、その通り……私が女教皇よ……っ!」
青夢の呼びかけに、かぐやいや女教皇は自分に言い聞かせるように答える。
外で魔男連合艦隊が現出している中、この旧中央管理ビル変形の頭部口内では青夢と女教皇が対峙していた。
「そう、私は女教皇……もう一度言うわ、龍魔王! 私たちサタン様のいらっしゃるミレニアムには通さない!」
「! サタンさんはミレニアムに?」
またも自らに言い聞かせるがごとき女教皇の言葉。
しかし青夢はその言葉に、サタンの居場所のヒントを得ていた。
「!? しまったわ……いえ、そんなこと明かしたところでもういいわよね!? そうよ……私があんたを今度こそここで処刑する!」
「処刑ね……私こそここでやられる訳にはいかない! 女教皇猊下、私はあなたも救いたいの!」
動じつつも尚、青夢に対して裁定の旨を言い渡す女教皇に、青夢は逆に動じず臆せずそう言い返す。
「救いたい? ……ふざけんじゃないわよ! 私たちを一度はどん底に陥れておきながらいけしゃあしゃあと……もはや情状酌量の余地もないわ! あんたには極刑すら生温い、息絶えるその瞬間まで至上の苦しみを与えてあげる……!」
「ええ、もう覚悟はできてる……でも、私にとってはあなたたちやサタンさんを救うことこそが刑を受けることになるの!」
その青夢の言葉に怒り心頭に発した女教皇は、更なる裁定を言い渡し。
青夢はしかし、やはり揺るがない。
「まあ何はともあれ……刑を受けるのがお望みなら、その言葉や心の通り裁定を下してあげるわ!」
女教皇の感情に連動するように、艦橋部に妖しく輝く無数の光のラインが更に滾る。
そして。
「hccps://ioanna.wac/、セレクト 女教皇の選択――月、太陽、技! hccps://ioanna.wac/GrimoreMark/、セレクト 食日月技巧 エグゼキュート!」
艦橋部融合の宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナが、術を発動する。
たちまち、周囲は一瞬暗くなったかと思えば。
その艦橋前に出現した光輪から、眩い光が放たれる。
「くっ! ……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト ルーアンの火刑 エグゼキュート!」
青夢はそれに即応してレッドドラゴンに命じ、その自騎を包むエネルギー体を生成し防ぐ。
「ふん、またその手を使うのね! でもいつまでもできると思うべきではないわ……見なさい!」
「!? くっ……通信が!」
しかし、それもすぐに。
突如青夢は、急速に電賛魔法のネットワーク接続が弱まっていくことを悟る。
「ふん、あのペイル・ブルーメや飯綱法盟次の仕業で何とかうまくいっていたんでしょうけど……如何なレッドドラゴン様と言えども、この空宙衛星座都市はサタン様ご自身でもあるんだから! ここではあんたの好きには電賛魔法を使えないわ!」
「なるほど、そう言うことね……」
そんな青夢を見て、女教皇は勝ち誇ったような笑みと共に叫ぶ。
「さあ、これで今度こそ終いよ……hccps://ioanna.wac/、セレクト 女教皇の選択――愚者、吊るされた男、女教皇! hccps://ioanna.wac/GrimoreMark/、セレクト |愚犯への恩赦なき絞首刑 エグゼキュート!」
勢いそのままに、女教皇はヨハンナに命じる。
たちまち艦橋部より、高密度に練り上げられた熱による紐状エネルギー体がレッドドラゴンめがけて投げ縄のように飛ぶ。
レッドドラゴンは、一応この口内から出ようとするという作戦の取りようもあるはずだが、その素振りも見せない。
そのレッドドラゴンを加護するバリアは弱り、突破は容易い――
そう睨んだ、女教皇だったが。
「ははは、さあこれで……な!?」
余裕の笑みは、直ちに焦燥に変わる。
何と、レッドドラゴンのバリアはむしろ勢いを増し。
それによりヨハンナの紐状エネルギー体は、むしろ取り込まれてしまう。
――大丈夫よ、青夢! 私がついてる!
「アンヌ……!」
「! なるほど……法機ジャンヌダルクのVIと化した、史実のジャンヌダルクご本人の仕業だったのね!」
レッドドラゴンからネットワーク越しに声が聞こえたことで、原因はすぐに判明する。
アンヌの力で、通信がむしろより強固に繋げられたのだ。
「ふん、今逃げようともしなかったのはその聖女閣下の力を当てにしてたからなのね!」
「いいえ、言ったでしょ? 私は逃げも隠れもしない、この戦いこそが私の刑なんだから!」
「ふん……この!」
艦橋部から女教皇は、レッドドラゴンを睨む。
目障りなほどに、今の言葉を体現した退かぬ構えである。
おのれ――
と、その時であった。
――女教皇! いつになったらレッドドラゴンは排除できるのだ!
「!? さ、サタン様!」
サタンの声が、この口内にも通信により響いて来た。
今も尚、黒客魔ゴエティックデモンズロードや魔人艦ゴエティックデモンらに掴み掛かられたままなのである。
◆◇
「さあさあ皆! 新たな我らが主人・サタン陛下の思し召しだ……これ以上陛下には指一本触れさせまい、無粋な輩は去れ!」
「おお!」
その頃、そんな空宙衛星座都市周囲の魔男連合艦隊では。
魔男の騎士団長ウィヨルが呼びかけ。
それに乗った魔男の艦隊たる半人半艦の巨大兵器群は勢いづく。
「あら……あのVI魔男たち、また動き出しましたわ陛下!」
「おやおや……仕方ありませんね、私が」
「待ってください! それじゃあ魔女木さんの信念に反します!」
「! あら……カイン・レッドラム!」
それを見つけたパールとソロモンは、今抑えている空宙衛星座都市サタンの他にも魔男の艦隊に手を伸ばしかけるが。
それを見た矢魔道が止めかける。
「hccps://baptism.tarantism/! セレクト、業火砲!」
「セレクト、巨人鎚砲!」
「セレクト、宿木弾!」
「セレクト、泡弾!」
「セレクト 虎爪砲 エグゼキュート!」
「セレクト 狼牙砲 エグゼキュート!」
「エグゼキュート!!!!」
が、その隙を突かんとばかりに。
魔男の艦隊たる、やはりというべきか半人半艦の巨大兵器宙飛ぶ悪魔人艦・巨人艦・木人艦・魚人艦・人狼艦・人虎艦からも各主砲撃が放たれる。
「さあ……そうも言っていられない状況みたいだけど?」
「ああ、カイン余計なことを言うな! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「ん……すみません! hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
「hccps://HermesTrismegistus.wac/、セレクト! 碧玉一閃 エグゼキュート!」
しかし、空宙都市電使の玉座側も即応し。
法機の力による火線と氷の剣、光線を放つ。
たちまち両陣営の攻撃はぶつかり合い、まだらな爆発を描く。
「獰猛形態に移行!」
「り、了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 獰猛形態 エグゼキュート!」
雪男の騎士団長グランドの命により、彼らが擁する狂人艦も艦体を蠢かせる。
やはりそれは、魔神艦系統の人上半身型艦橋を持つ半人半艦の巨大兵器だが。
その艦橋が前屈みとなって伸長され、さながら狼の上顎のごとき姿となり。
更に艦体も、下顎の如き牙を生やした形態となり。
艦そのものが、狼の頭部のような形になる。
「魔男の艦隊、一部はこちらへ直進!」
「よし、誘導柘榴弾を発射! そして私も……セレクト! 碧玉一閃! hccps://HermesTrismegistus.wac/GrimoreMark 降り注ぐ宝石! エグゼキュート!」
それを見た獅堂は、こちらも即応し。
電使の玉座からは誘導柘榴弾の弾幕と無数のエネルギー雨が降り注ぐ。
「オオオオ、怯むな者共! この程度何だと言うのだ、光線は耐えろ! 弾幕は噛み砕けえ!」
「オオオオ! はっ、グランド騎士団長!」
対宙攻撃はしかし、今まさに獰猛形態へと変形した狂人艦艦隊により。
降り注ぐ宝石は耐久され、空宙都市へと肉薄され。
更に誘導柘榴弾は艦橋と艦体の両顎により噛み砕かれ、まさしく野獣の如き強行突破され。
攻撃は悉く効かぬまま、突破されそうになる。
「hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴 エグゼキュート!」
「!? な、何だあれは!」
と、その時である。
突如、電使の玉座とその敵艦隊の間に空間ゲートが開き。
「hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷溶渦巻! エグゼキュート!」
「hccps://HermesTrismegistus.wac/、セレクト! 碧玉一閃 エグゼキュート!」
「ぐ……ぐああ!」
そこから飛び出した無数の火線と光線、更に水蒸気爆発による気流により、艦隊の隊列は乱れてしまう。
「あれは法機パンドラの力!」
「やはりいますか、マージン・アルカナ!」
「悪魔人艦もいるな……そうか、ウィヨルとフィダール!」
その戦いを見て、魔男の騎士団長ウィヨルとフィダールに盟次――かつての魔男の騎士団長アルカナと、その直衛騎士たる両翼の近衛騎士・ウィヨルとフィダールの因縁から互いを感じ取る。
「悪いが魔女木獅堂、ここは頼む……hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「ああ、行こう盟次君……hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
獅堂への挨拶もそこそこに。
盟次は法機パンドラを、矢魔道は法機レッドサーペントを駆り立てて空間ゲートから戦域へと飛び出すのだった。
◆◇
「今のうちに……これからは僕たちのショータイムだよ!」
蝙蝠男の騎士団擁する魔神艦の一種、吸血鬼艦の艦隊。
バルト・レイブン率いる蝙蝠男の騎士団が、その隙を突く形でゴエティックデモンズロードに迫る。
「ソロモン陛下、こちらにも魔男の艦隊が!」
「了解……龍魔力姉妹、お願いしますよ!」
「は、はい! hccps://sphinx.wsc/! セレクト、大いなる謎 エグゼキュート!」
「了解! hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"!」
「hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ!」
「hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング!」
「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導柘榴弾 エグゼキュート!!!」
それについては、魔人艦ゴエティックデモンとなっている法機たちのうち龍魔力姉妹に命じ。
それによりゴエティックデモンズロードのエネルギーバリアの外に、更なるバリアと誘導柘榴弾の分裂する多弾頭による弾幕が展開される。
「ふん、甘いねえ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト 波動牙! エグゼキュート!」
吸血鬼艦艦隊に向けられたそれらの攻撃は、まず誘導柘榴弾が目標到達前に爆発し、更にバリアも大きく乱されることとなった。
「さあ……全艦隊砲撃用意!」
「了解! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ファイヤリング 翼爪砲! エグゼキュート!」
これを好機と見て。
レイブンは全艦隊に命じ、吸血鬼艦艦隊より艦砲斉射を見舞う。
そして、龍男の騎士団長ベリットが率いる半人半艦の巨大兵器宙飛ぶ龍人艦群も。
「遅れるな……hccps://baptism.tarantism/、セレクト 竜獄炎砲 エグゼキュート!」
負けじと宙飛ぶ龍人艦群からも、主砲の斉射を見舞う。
たちまちゴエティックデモンズロードに、猛攻が加えられる。
「くっ! ソロモン陛下!」
「大丈夫ですよ、まだこのくらいは。……さて。あなたをどうしますかねサタン閣下……」
そんな猛攻の中でもペイルはやや動揺するが、ソロモンは落ち着いて見ていた。
今も尚抑えている、空宙衛星座都市サタンを――
◆◇
――ふん、意外にも魔男の艦隊は役に立っているようだが……まずは貴様だ、レッドドラゴン! さあ女教皇……貴様にグリモアマークレットとやらを授ける、さあやれ!
「は、はいサタン様! hccps://ioanna.wac/、セレクト 女教皇の選択――欲望、悪魔、宇宙! hccps://ioanna.wac/GrimoreMark/、セレクト 宇宙様暴食魔、エグゼキュート!」
「かぐやちゃん……」
そうして、再び旧中央管理ビル変形の頭部口内では。
サタンから授けられた魔法を、女教皇は発動する。
「ははは! さあ、これでようやく終わりよ魔女木青夢……ぐっ!?」
「くっ! これは……牙!?」
再び余裕を湛えた女教皇だったが、その時だった。
突如、彼女たちがいる口内の上下顎に当たる部分に無数の牙が生え、女教皇共々レッドドラゴンは上下の顎の間隔が狭くなり挟まれた状態になる。
そう、これは。
――ははは、噛み砕いてやろう、レッドドラゴン! この私自ら、ね……はははは!
「くっ、サタンさん……そのために、かぐやちゃんも巻き込んでいいって言うの!?」
青夢は噛み砕かれかけてもなお、サタンに噛み付く――




