#47 ミレニアムの包囲
「着いたわ……ここは」
「魔女木さん、そのVIさんたちはここに!」
「や、矢魔道さーん♡」
「そうだ、行くんだ青夢!」
「……ええ、クソ親父!」
「うっ……」
盟次が開いた四角い空間ゲートより、電使の玉座内部を経由する青夢搭乗の黒客魔レッドドラゴンはVI実体化幻獣機群を率いてやって来て、出迎えた矢魔道と父獅堂にそれぞれ天地の差がある対応をしたのち。
「……さあ、後はこの人たちのことお願いします! 私は行かなくては!」
「ああ、行ってらっしゃい魔女木さん!」
「生きて帰るんだぞ、青夢!」
「ふっ……ええ、きっとね!」
二人との会話もそこそこに、幻獣機群を置いてまた先にある空宙衛星座都市サタンへと通じるゲートへ、青夢はレッドドラゴンを駆り立てる。
◆◇
「えい! ……久しぶりね、この光景は!」
空間ゲートを潜り抜けたレッドドラゴンから、青夢は空宙衛星座都市サタンの中央部を為す空宙都市ルシフェル融合部を見下ろす。
真下に摩天楼群が、さらにその中のいくつかのビルは龍の頭型に変形している。
その中でも。
――よく来たな、魔女木青夢……だが、これまでだ! わざわざ私の懐に入り込もうなどと、飛んで火に入る夏の虫だな!
中央に聳え立つ、あの三段法騎戦艦の原型を止めた艦首部分を下顎にするがごとく変形し龍の頭となった、一際高い旧中央管理ビルからサタンの声が響きレッドドラゴンを見上げている。
「いえ、ここで終わるつもりなどありません……私は、あなたを止めに来ました!」
――止めに、だと? ふん……そんな甘い気持ちで来るとはなあ、だがいい! 何にせよ、差し出された首はしかと断たせてもらうまで!
旧中央管理ビル変形の頭部が、カッと口を開く。
すると下顎部となっている三段法騎戦艦の主砲塔群が垣間見え、その砲口にエネルギーが灯り――
「hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、大蛇殺し エグゼキュート!」
――くっ!? これは空襲……法機マケダか!
しかしその間にも、今尚空宙衛星座都市サタンを守る硫黄火雨砲のバリア上部めがけ。
イザボー・ド・バヴィエールと同じくペイルが保有する、法機マケダにより巨大な蛇のエネルギー体が生成されたかと思えば。
それは徐に細切れとなり、爆発を起こす。
――くっ! おのれ……!
「ありがとう! ペイルも飯綱法も目的はともかく、私を助けてくれて! ……よし。」
空宙都市上空を見上げる旧中央管理ビル変形の頭部は、サタンの感情をそのまま表して歯軋りの表情を浮かべる。
青夢はそんな中でも、その頭部を見つめている。
その口の中に先ほど見えた、今も見える下顎部の三段法騎戦艦の主砲塔群。
彼女は確信していた、狙うならばそこだと――
◆◇
その頃、サタンから受けた命により欧豪と中韓の部隊も、三大企業や自衛隊部隊及びその本拠地たる空宙都市電使の玉座に狙いを定め。
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「hccps://sekhmet.wac/、セレクト 病の火息!」
「hccps://AlUzza.wac/、セレクト 神の権力!」
「hccps://devi.wac/、セレクト 多面の相!」
「エグゼキュート!!!」
誘導弾状の武器や、その他火線や衝撃波やエネルギー波動を欧法機群は放ち。
「hccps://eingana.wac/、Select! 今際の紐解き、Execute!」
「hccps://ungur.wac/!」
「hccps://yurlungur.wac/!」
「hccps://yingarna.wac/!」
「Select, 虹の彼方 Execute!!!」
豪法機群は虹の七色のエネルギー触手やエネルギーを雨状に放つ攻撃を放つ。
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
「hccps://yangguifei.wac/、セレクト 甘美な茘枝 エグゼキュート!」
斬撃と広範囲爆破、エネルギー弾多数落下による爆撃が中国法機群が放たれる。
「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――殺生石 エグゼキュート!」
「hccps://seondeokyeowang.wac/、セレクト 毗曇鎮圧 エグゼキュート!」
「hccps://soseono.wac/、セレクト 始祖誕生 エグゼキュート!」
「hccps://yuhwa.wac/、セレクト 日光感応 エグゼキュート!」
さらに、こちらは韓国代表の法機群より、腐食性攻撃に衝撃波、熱波、光波が放たれる。
「くっ……まずい! あれを喰らったら」
「心配するな、矢魔道! hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴!」
だが、その攻撃を盟次は見切り。
そのまま四角い空間ゲートを広く開き、それら攻撃がその空間ゲートに吸い込まれたかと思えば、現戦域となる地球周辺宙域の真裏となる虚空に出口のゲートが開かれ、そこから吐き出される。
「そうか……パンドラの力で!」
「いや、これは長くは続けられん!」
しかし、盟次は大いに汗をかく。
まずい、このままでは、また次が――
「なら、いよいよソロモン王陛下の出番ね……hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、 神移し エグゼキュート!」
「む……What!?」
「み、ミスターソー!?」
「きゃあ!!」
「な、法機が……強制的に集められている?」
と、その時ペイルが新たに詠唱した術句により。
龍魔力の法機グライアイに、法機スフィンクス。
更に法機マリアに内包されている、法機ハルピュイアに法機エキドナ。
王魔女生の法機へカテに、法機マリアに内包されたユーノー・ペルヒタ・ヤドヴィガ。
呪法院エレクトロニクスの法機モーガン・ル・フェイに、法機マリアに内包されているモルゴース・イズン・ヘスペリデス。
中国の法機西王母、及び法機マリアに内包されている武則天・楊貴妃・江青。
オーストラリアの法機エインガナ、及び法機マリアに内包されているウングル・インガルナ・ユルルングル。
自衛隊の法機滝夜叉に、法機マリアに内包されたアマテラス・ウエソヨマ・イザナミ。
韓国の法機九尾狐に、法機マリアに内包されている善徳女王・召西奴・柳花。
更に第一陣のアメリカの法機シルフ――ギガンティックマンドレイクに、法機マリアに内包されているティターニア・イツパパロトル・マヤウェルまでもに加え。
ヨーロッパの法機アンドロメダに、法機マリアに内包されたセクメト、アル・ウッザー、デーヴィー。
それらは急遽、動きを止められ。
今宇宙に出ているものはそのまま、出ていない者はいずれも操縦者が無理矢理乗せられる形で。
各搭載艦や空宙装甲列車より、強制発艦させられ第四陣の位置まで集まって来た。
「いいわ、さあ集まって変じなさい! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……ふふふ……36機の幻獣頭法機ゴエティックデモンたち!」
「やれやれ……中々の荒技を!」
意気揚々とペイルは、盟次の呆れも構わず尚も術句を唱える。
fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> Solomon
PASSWORD:> ********
fcp> cd unlocked
fcp> mput goeticdemonslord.sfbt
fcp> close
dnscmd /recordadd emeth.goeticdemonslord.sfbt A
×××1.×××2. ×××3. ×××4
hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/
コマンドが並び、36機の集められた法機たちは、幻獣頭法機を経てそこから獣人型上半身を生やし、魔人艦ゴエティックデモンとなり。
それらは3機ずつ12段立ての魔法陣のようなものを形成する。
「hccps://Hades.char/、セレクト コネクティング! hccps://Makeda:××××××@ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト、コネクティング! ダウンロード 電使翼機関、エグゼキュート! さあイザボー・ド・バヴィエールにマケダ! 共に法騎になりなさい!」
更にペイルは、自機たる二機の法機を法騎とした。
「法騎イザボー・ド・バヴィエール、法騎マケダ! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……」
そのまま法騎イザボー・ド・バヴィエールと法騎マケダは、それぞれに左翼と右翼を折り畳み。
法機キルケ・メーデイアのごとく双胴機の姿になったと思えば。
それぞれに生やしている上半身を右半身だけ左半身だけとし。
両半身が接合して、やはり半人半機の姿になったかと思えば。
更に各機体胴部よりそれぞれに右足、左足を生やし。
足を垂らす。
「ふふふ……黒客魔ゴエティックデモンズロード!」
それはかつてペイルが、新たな女王と青夢を利用してソロモンを掌握した証であった黒客魔ゴエティックデモンズロードである。
「黒客魔ゴエティックデモンズロード! さあ、行きましょう陛下!」
「ええ、そうさせてもらいますよ!」
ソロモンの意志も黒客魔に宿り、先ほど築かれた12段立ての魔法陣の頂きに、黒客魔ゴエティックデモンズロードがやって来た。
そして。
「hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/、セレクト 大蛇殺し! hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/GrimoreMark、セレクト 悪魔王! エグゼキュート!」
「!? あれは……」
更にペイルも、黒客魔の力を使い。
たちまち自騎と、それ以下36機の法機ゴエティックデモンを自騎象りしエネルギー体で覆う。
――ソロモン……また君か!
「お久しぶりですね、バアル・ゼブブ盟主閣下!」
黒客魔ゴエティックデモンズロードと空宙衛星座都市サタン、バアル・ゼブブと遊星民よりは因縁の歴史は浅いが、やはり幾千年もの因縁を持つ者同士――ソロモン王とサタンがようやく真正面から対峙する。
◆◇
「ま、マリアナ様あれは!」
「ええ……忘れもしなくってよ、あれは黒客魔ゴエティックデモンズロード!」
「復活したのか……分裂した地球連合軍を強引にまとめるために!」
「ま、真白!」
「ええ……パールいえ、ペイルの仕業ね……」
「中々やるやないか!」
「ああ、いい男気じゃあないか!」
「は、はい姐様!」
その光景を見た凸凹飛行隊と元女男は、かつて敵として対峙しただけに複雑な胸中である。
「あれは……あれがソロモン王か!」
「き、きれい……」
「きれい……」
「バカ、何言ってるボリー姉妹!」
「猊下……猊下がまだあの空宙衛星座都市にいるはずだ!」
敵味方に別れて戦っていた根源教騎士団も、絶句する。
――私は少し忘れていたようだよ……この戦いは元々、君のせいで始まったようなものだった! 君があの時、我らが齎してやったこの魔法技術を君らが惑星地球全体に伝播させていれば、こんなことには!
「ははは! それは少々言いがかりというものですよ閣下!」
ソロモンへの恨み節をサタンが吐き。
それに言い返すが早いか、ソロモンは黒客魔ゴエティックデモンズロードとゴエティックデモン群包むエネルギー体を駆り立て。
そのエネルギー体の腕でもって、空宙衛星座都市サタンへと掴み掛かり。
――くっ……この!
サタンはひとまず、同都市を守る硫黄火雨砲の勢いを強めて応戦する。
「私たちの王国のあの時代、力とはごく限られた国・限られた――選ばれた者のみが持てばよかったのですよ! まして、あれほどの力とあれば尚更選ばれた者のみが持つべき力! いや、選ばれた者以外何者をも持つべからざる力!」
――そうか……やはり、遅れた野蛮人共に力を持たせたところでただ玩具にするのみか! だが私は待ってやったのだ、その野蛮人共が成長或いは進化するまで!
「それはそれは申し訳ない……でしたらいかがですか、その野蛮人共が成長しあなた方へその与えられた力が向けられるご気分は!」
――ああ……実に不快だ、最悪だねえ!
「ははは、ならば私には愉快ですよ!」
ソロモンは少々匙加減を間違えつつあるのか、黒客魔ゴエティックデモンズロードのエネルギー体腕がズルズルと空宙衛星座都市を守る硫黄火雨砲によるバリアにめり込む。
「よし……父さんに矢魔道、魔女木獅堂! チャンスだ、俺たちも」
「ああ!」
「応!」
これには電使の玉座駐留の盟次たちも意気込む。
――おのれ……認めよう、とんだ誤算だったと! 野蛮人共と手を組もうなどと無理な話だったのだ……
「!? 今よ!」
サタンの苦々しい気持ちと共に開けられた、旧中央管理ビル変形の頭部の口。
その下顎部となっている三段法騎戦艦の主砲塔群、更に奥へと見える艦橋部めがけ、青夢はレッドドラゴンを駆り立て入り込んだ。
――ははは! ならばいいだろう……さあ、忠実なる我が民たちよ! その姿を現せ!
「!? あ、あれは!」
が、それにより業を煮やしたサタンが叫ぶや。
突如、黒客魔ゴエティックデモンズロードと空宙衛星座都市サタンの戦域と、空宙都市電使の玉座の間に。
ヘロディアス艦を彷彿とさせる人の上半身を模した艦橋を備えた艦――さながら、半人半艦というべきものである者たちの大群が実体化する。
「さあ……魔神艦!」
「行くわよぉっ! 宙飛ぶ鳥人艦!」
「狂人艦!」
「あれはまさか……」
マリアナが察し通り。
それらはかつて新たな女王との戦いに際して生み出され、同戦が終わるや封じられていた、魔男の艦隊たる半人半艦の巨大兵器群が再度空宙衛星座都市サタンを守るが如く出現したのである。
――ははは……さあどうする、レッドドラゴンとソロモンよ! ここにいる者たちが何か、分かるだろう? こいつらはかつての魔男の艦隊だよ……。
ソロモンは、勝ち誇ったように言う。
◆◇
「!? な、何ですって、魔男の艦隊が!? そんな……」
一方、空宙衛星座都市サタンの旧中央管理ビル変形の頭部の口内に侵入した青夢にも、それは聞こえており彼女を動揺させる。
「でも大丈夫……中からこの空宙衛星座都市――そしてサタンさんたちそのものを無力化すれば!」
が、青夢はやはり覚悟を新たにする。
目の前には、宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナが融合した三段法騎戦艦の女性上半身型艦橋――その底部はヨハンナの原型を反映してか、襟巻きのような装飾がある――がある。
かつてサタンが器としていたここに、恐らく本体が――
「……よくぞここまで来たわね、魔女木青夢いえレッドドラゴン! 地球の民全てをゴグマゴグとして惑わし、このサタン様ご自身でもあり千年王国ミレニアムを包囲せし大魔王よ……!」
「! その声は……」
が、その時だった。
突如その艦橋部に無数の光のラインが妖しく輝き、ネットワーク越しに声が響く。
その声の主は。
「かぐやちゃんね……!」
「ふん、言ったでしょう? その名で呼ぶなと!」
かぐや――女教皇であった。
かくして、女教皇と龍魔王。
こちらも浅からぬ因縁を持つ者同士の戦いが、再開されようとしていた――




