#46 空宙衛星座都市サタン突入作戦
「皆……」
青夢は目の前の状況に、絶句している。
その目の前の状況とは、双頭の巨人のごとき幻獣機・ゴグマゴグの大群が現出している状況のことである。
――ははは、さあゴグマゴグの民たちよ! 今目の前にしているあの赤い龍こそ、貴様らを惑わした黒客魔レッドドラゴンそのものだ! さあ……貴様らの手で裁定を降せ!
「おお……よし!!」
サタンはその器たる空宙衛星座都市サタンから幻獣機群に呼びかけるや、それらは一斉に動き出し。
そのまま急加速して、青夢の黒客魔レッドドラゴンへと迫る。
「くっ、まずいわ!」
青夢は判断しかねる。
今まさに、周囲の凸凹飛行隊や元女男の法機群をバリア展開により守っている――言うなれば、抱えている状況である。
すぐにでもあの幻獣機に向かって行きたいが、そうなるとこの法機群は――
「魔女木、ひとまずこのバリアを解除しろ! 俺たちなら大丈夫だ、なあ魔法塔華院?」
「ふん……ミスター方幻術、それは本来ならわたくしが言うべきことであってよだけど! 魔女木さん、それでよくってよ!」
「は、はいマリアナ様!」
「青夢!!」
「せやせや!」
「ああその通りさ、なあミリア?」
「は、はい姐様!」
「皆……分かった、達者でね!」
が、そんな不安もその凸凹飛行隊や元女男のメンバーたちにより払拭され。
青夢は先ほどまでの躊躇いが嘘のように、バリアを解除し。
そのままレッドドラゴンは幻獣機群へ、凸凹飛行隊や元女男の法機群は第一陣へと向かって行く。
「さあVIの皆さん……hccps://jehannedarc.srow/、セレクト! オラクル オブ ザ バージン! hccps://jehannedarc.srow/GrimoreMark、セレクト 百年戦争の語り部、エグゼキュート!」
青夢はそのまま、レッドドラゴンに命じるや。
レッドドラゴンから、無数の粒子光が放たれ幻獣機群に降りかかる。
「あ……あれ!? 俺たち……」
「な、何してるっしょ!?」
するとやはり幻獣機群に宿るVIたちに、記憶が戻る。
「皆……よかった」
――ふん! やはり生温いな……硫黄火雨砲、誘導柘榴弾発射!
「!? 皆、レッドドラゴンのバリアで守るわ! hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト ルーアンの火刑 エグゼキュート!」
が、その時だった。
空宙衛星座都市サタンから、無数のエネルギー雨と実弾の多弾頭による弾幕が、レッドドラゴンや周囲の幻獣機群に向けて降り注ぎ。
青夢はそれに即応してレッドドラゴンに命じ、その自騎や幻獣機群を包むエネルギー体を生成し防ぐ。
――ははは……皆、今だ! 今VIたちがあのレッドドラゴンの周りにいる! この機を逃すな、あれら諸共レッドドラゴンを粉砕せよ!
「!? お……応!!」
「VI……? もしかして、リオルも……!?」
サタンのその言葉に、連合軍の皆が活気付く中、ふと何か思い立った者がいた。
――えっと……愛三さん!
――! ジャンヌダルクちゃん……
――いつか、あなたのリオルさんもネットワーク上から必ず取り戻すから!
――! ジャンヌダルクちゃん……うん!
そう、愛三である。
愛三の脳内には、青夢が彼女にネットワーク上に意識をアップロードして死んだ、彼女の親しかった魔男についての話をした時の記憶が去来した――
◆◇
「サタンさん、あなた……!」
――悪く思わないでくれよ、魔女木青夢! 君さえ勝手なことをしなければ、更に腹に一物抱えながらもその幻獣機たちを使わせてくれるなどと約束しなければこんなことにはならなかったのだからなあ……ははは!
「そうね……全部私のせいだわ!」
青夢はサタンの尚も見せる非情さに激怒するが、サタンはいけしゃあしゃあとそんな風に言ってみせ、やましく思うところもあった青夢もそれには感じ入った。
――さあ、早く
「hccps://IsabeauDeBaviere.wac/、セレクト! 売買領域 エグゼキュート!」
――む!? ……ペイル・ブルーメか! 法機イザボー・ド・バヴィエールを!
「ぺ、ペイル・ブルーメ!」
が、その時であった。
いつの間にかどこからともなく現れ、空宙衛星座都市サタン周辺宙域を侵犯した宙飛ぶ法機イザボー・ド・バヴィエールが、行きがけの駄賃とばかりに放った光線を文字通りの代金として周辺宙域の通信領域を強制的に買い取ってしまい。
それにより同空宙衛星座都市を守っていた硫黄火雨砲によるエネルギー雨の弾幕が、はたと途絶える。
「ええ、懐に入らせてもらいました!」
――ふん、よくやった……だが、それも一時的だ! こんな通信妨害など、すぐに解消を
「hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
「hccps://HermesTrismegistus.wac/、セレクト! 碧玉一閃 エグゼキュート!」
――くっ!? これはこれは……お隣の空宙都市からか!
ペイルを敵ながら天晴れと褒めつつも、ただちに強制通信回復を図るサタンだが彼を止めたのは。
他ならぬ、空宙衛星座都市サタンに取り込まれなかった三大企業や日本の補給兼攻撃拠点たる、今サタン自身の弁にもあったお隣の空宙都市電使の玉座。
更にそこに格納されている、盟次や矢魔道に青夢父たる獅堂の法機群からの攻撃だった。
――だが、問題はない……外部ネットワークは経由せず内部ネットワークにすればよいこと! 硫黄火雨砲、誘導柘榴弾発射!
「む!? くっ、あちらからも弾幕が!」
が、サタンもすぐに体勢を立て直し。
そのまま空宙衛星座都市サタンから、無数のエネルギーと実弾の多弾頭による雨を電使の玉座に向かい降らせる。
それらはたちまち、電使の玉座からの法機群による攻撃とぶつかり合う。
――ははは! さあ
「なるほど……しかし、甘いです!」
――何? ……くっ、誘導柘榴弾が!
しかし、その程度で終わる法機イザボー・ド・バヴィエールの売買領域ではなく。
実体弾ではない硫黄火雨砲はそのままだが、先述の通り実弾の多弾頭たる誘導柘榴弾は先ほど買収された通信区域を通過するや否やハッキングされ、そのまま転回して空宙衛星座都市サタンへと向かい逆に実弾の雨となる。
「! 今だ矢魔道に魔女木獅堂、一気に押し込むぞ!」
――おのれ……図に乗るな!
「hccps://sphinx.wac/、セレクト 王獣の守護 エグゼキュート!」
――!? な、何!?
「!? え?」
それに勢い付いた盟次たちに、サタンは睨みを利かせるものの。
その直後に若干眼中から外れていたレッドドラゴンのバリア前に新たなエネルギーバリアが構築され、サタンも青夢も困惑する。
「な……め、愛三!?」
龍魔力の姉たちも驚いたことに、それは末妹愛三の仕業だった。
――龍魔力愛三君……何の真似かな?
「駄目だよ……駄目だよサタンさん! VIの人たちだって、人間なんだよ! あのジャンヌダルクちゃんのバリアの中には、私の大事な人だって含まれているんだからあ!」
「愛三……」
「愛三さん……」
だが姉たちも愛三も、この言葉には納得する。
そう、愛三の大事な人は今青夢の守りの中にいるのである。
「気を散らしている場合じゃないぞ!!!」
――くっ、この!
そうしたサタンの隙を、電使の玉座の盟次たちは見逃さず、更に攻撃の手を強める。
いや、もう彼らだけではない。
「…… ギリシアンスフィンクス艦ちゃん! 獅脚主砲に咆哮主砲旋回! 目標、サタンさんのあの空宙都市!」
「愛三……もう! 愛三だけにさせる訳にはいかないわ、私たちも! hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"!」
「お姉様……は、はい! hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ!」
「姉貴……よっしゃ! hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング!」
「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導柘榴弾 エグゼキュート!!!」
龍魔力財団のギリシアンスフィンクス艦と法機群からも攻撃が放たれる。
ギリシアンスフィンクス艦からは主砲塔群からの砲撃が、更に放たれた。
更に量産型スフィンクス艦から放たれたのは誘導柘榴弾であり。
これらがやはり雨となり、側方の電使の玉座からの攻撃と合わせて真正面から降り注ぎ空宙衛星座都市サタンを大いに苦しめる。
――まったく……本当に地球人という奴は! おい、アメリカはあの位置だからアテにならない……欧豪や中韓よ、何をボーっとしている!? 早く、私に対して刃を向ける奴らを討て!
「……是!」
「……네!」
「……defo!」
「……Oui!」
だがサタンも手をこまねく暇もなく、またも強引に通信を繋げ。
それを受けた欧豪や中韓の艦隊や法機群も、動き出す。
先ほど少し見たが、米や根源教騎士団はその根源教騎士団長が一人・カロアの助力を得た凸凹飛行隊・元女男の法機群に苦戦していて動けない模様だ。
だが、これなら問題はない――
そうサタンはほくそ笑んだ。
「hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍 エグゼキュート!」
が、その時だ。
龍魔力四姉妹のみならずサタンに刃向かう形で、今そのサタンより攻撃を命じられた欧豪と中韓めがけて攻撃を放ち、彼らを牽制した者がいた。
「い、尹乃さん!?」
――姫。
「ええ、私よ。」
王魔女生グループの若き会長・尹乃の旗艦ヘロディアス艦である。
「……魔女木青夢さん。私もあなたが電賛魔法システムを終わらせた時、私の愛しき従者・シュバルツと別れなければならなくて寂しかったわ。」
――はい、姫……
「……ごめんなさい……」
尹乃の言葉に、彼女の法機ヘカテーに融合している従者たるVIの魔男、イース・シュバルツと青夢は感じ入る。
「まだ魔女木青夢さん、あなたを信じられる訳じゃないけれど……バアル・ゼブブ盟主サタン殿! あなたに聞きます。あなた、私たちにまだ言っていないことは?」
――ふっ……あれば何だと言うのか? 今はまだ月にいる遊星民共や、それに毒されたあのレッドドラゴン……揃いも揃って忌々しいあの奴らを討て!
「そう……王魔女生艦隊、突撃! 目標、あの空宙衛星座都市サタンと背後の欧豪中韓部隊!」
――はっ!
「は、はい!!!」
尹乃にとっては、そのサタンの言葉だけで十分だった。
龍魔力の艦隊と同じ第四陣から、王魔女生グループのヘロディアス艦隊は動き出す。
「hccps://juno.wac/、セレクト ! 嫉妬監視 エグゼキュート! さあ見えました敵艦が、尹乃様! 華妖、亜魔導!」
「ええ、またもありがとう……hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍 エグゼキュート! 他の二人は欧豪に中韓を攻撃!」
「は、はい!! hccps://perchta.wac/、セレクト 電霊統率 エグゼキュート!」
「hccps://jadwiga.wac/、セレクト 黒き十字架 エグゼキュート!」
王魔女生グループのヘロディアス艦隊と付随する宙飛ぶ法機型円盤群は、今度は空宙衛星座都市サタンめがけて攻撃を多数放つ。
――くっ!? この
「私たちもだ! 今はあの魔女木さんを信じるとしよう hccps://amaterasu.wac/、セレクト 天岩戸 エグゼキュート!」
「hccps://takiyasya.wac/、セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「hccps://izanami.wac/、セレクト 黄泉行軍 エグゼキュート!」
――む!? 日本の奴らもか!
それに加えて、自衛隊に配備されている法機滝夜叉の能力餓者髑髏により強化・宇宙仕様の改造を受けた、骸装ウィガール艦艦隊も。
その直掩に当たる各宙飛ぶ法機型円盤群も、動き出す。
日本は自衛隊の骸装ウィガール艦艦隊や宙飛ぶ法機型円盤群からも攻撃が放たれていく。
「呪法院エレクトロニクス、突撃! 私たちはいつだって、王魔女生や龍魔力に遅れを取ったままじゃいけないわ!」
「はい、レイテ様!!!」
「hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道! エグゼキュート!」
「hccps://idun.wac/、セレクト クルミ変化! hccps://idun.wac/GrimoreMark、セレクト 胡桃弾! エグゼキュート!」
「hccps://morgause.wac/、セレクト 叛逆騎士の母! エグゼキュート!」
「hccps://hesperides.wac/、セレクト 不和の林檎! エグゼキュート!」
これには負けじと、最終防衛線で控えていた呪法院の宙飛ぶ法機型円盤群からも攻撃が放たれる。
――くっ……おのれ、この!!
それにより今空宙衛星座都市サタンを守る、硫黄火雨砲によるエネルギー雨のカーテンには高負荷が掛かる。
「皆……ありがとう! でもほどほどにしないと、あの都市には米欧豪や中韓の人たちが」
青夢がそう言いかけた時だった。
突如、空宙衛星座都市サタンの西端下部――ちょうど衛星軌道が通る位置だ――にて爆発が起こる。
――む!? 何だ、これは
「さあ、もう一度行くわ! hccps://IsabeauDeBaviere.wac/、セレクト! 売買領域 エグゼキュート!」
――くっ!? また法機イザボー・ド・バヴィエールか! 今度は……この空宙都市内部の通信領域を!?
「ええ、その通りよ……さあ、今よ飯綱法盟次!」
「ああ、承知したブルーメ! hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴!」
「!? これは、飯綱法の法機パンドラの穴が!」
その爆発は、どうやら盟次やペイルの策略らしい。
爆発によりできた、一瞬のエネルギー雨カーテン防壁が揺らぐその時を彼らは見逃さず。
すかさず法機イザボー・ド・バヴィエールにより、その間隙から空宙都市内部へ侵入からの、その内部ネットワーク通信領域強制買取りが行われ。
そこに盟次による、都市内部への四角いワープゲート生成が行われその同型の入り口が青夢やVIたちのいるレッドドラゴンバリア付近に形成されたのだ。
「さあ、これは電使の玉座内部を経由してあの空宙衛星座都市サタン内部に通じるものだ! そのVIたちは電使の玉座内部に置き、早くあのサタンの懐に行け!」
「飯綱法……今回の戦いに関してだけは、礼を言うわ!」
「ふん、捻くれた女だ! いいか、あの遊星民の時とは違う、あのサタンは躊躇いなく殲滅しろ!」
「そうね……まあ私の望み通りするわ!」
盟次の尽力に青夢は素直ではない軽口を返し。
続く彼の忠告に多少渋い顔をしつつも、青夢はバリアを解除し、VIたちを率いて四角いゲート内へと入って行く。
目指すは、あの空宙衛星座都市サタン内部だ――




