#45 空宙衛星座都市サタンvsレッドドラゴン
「それがあなたの返答なのね……残念だわサタンさん!」
目の前に広がる光景を搭乗する空飛ぶ駆竜魔実験機より見て、青夢はため息を吐く。
地球の衛星軌道上に鎮座する、多頭と四つ足を備えた龍の首や身体周囲に、ビル群が纏わりついた形に変形した空宙衛星座都市サタン。
対エリヤ諸星同盟バアル・ゼブブの盟主たるサタンがルシフェルと明星、両空宙都市を乗っ取りそこにVIたちを抱えた三段法騎戦艦と自身の元々の器たる宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナを融合させた、超巨大機動要塞が視界を埋め尽くしている。
――ああ、その通りさ……もはやあの月の悪魔と交信した魔女たる君などと話し合うことは何もない! そうだろう……地球・バアルゼブブ連合軍の皆!
「Yes!」
「はい!!!」
「はい。」
「是!」
「네!」
「defo!」
「Oui!」
サタンの意志に呼応するが如く、空宙衛星座都市サタン中央のルシファー部監視台ビルが変形した龍型頭部が口を動かす。
それに対し、地球・バアルゼブブ連合軍の各勢力は沸き立っている。
「皆さん……まあ、仕方がないわよね。」
青夢はため息を吐く。
この状況下においては、むしろ青夢が遊星民のゲート向こう側たる月から出現したということが、サタン曰く彼女は遊星民に毒された魔女という主張に説得力を与えてしまっているのだ。
尤もこれはかつての根源教信者たちでもあるまいに、サタンへの心酔や遊星民及び青夢への一方的敵意では必ずしもない。
「(Well……今私たちの空宙都市ルシフェルがあれに融合してしまっている!)」
「(是……私たちの明星があの空宙衛星座都市サタンに!)」
先述の通り空宙衛星座都市サタンを構成する要素には、米中それぞれの空宙都市も含まれている。
言うなれば、これはそれら自身や傘下の国家を従わせるための人質としても機能しているのである。
いずれにしても、今はやむを得ないとはいえ連合軍の面々は青夢に対して敵意を向けている。
それを示すが如く、元々が連合軍の第三陣担当戦域に展開されていたゲートから帰還し、地球側を向いていた青夢に対し目の前の第四陣から最終防衛線までのみならず。
後方の第三陣から第一陣の全艦全法機、全弾の矛先が彼女に向けられていた。
「仕方がない、か……月の時とは違って、私も戦わないとね!」
青夢がそう言いながら見遣った先には、先ほど三段法騎戦艦が空宙衛星座都市サタンの一部となるに当たり、その艦橋部から弾き出され目の前の宙域を漂う黒客魔レッドドラゴンがあった。
◆◇
「さあ……セレクト、法騎ジャンヌダルク・カルテットセリアン! 空飛ぶ駆竜魔! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……エグゼキュート!!」
――おや……あの魔女め!
青夢がそうして命じるや、黒客魔レッドドラゴンは右半身と左半身に分かれる。
そうして法騎ジャンヌダルクと分離した黒客魔レッドドラゴンの右半身部分は、再びあの魔都バビロンにおける獣型四体の番人たち――カルテットセリアンに更に分離するや。
カルテットセリアンは、空飛ぶ駆竜魔実験機と合体して法騎型になり。
更にそれぞれに左翼と右翼を折り畳み。
法機キルケ・メーデイアのごとく双胴機の姿になったと思えば。
次には、それぞれに龍のような右半身だけ左半身だけとなり両半身が接合して、やはり半人半機の姿になったかと思えば。
更に各機体胴部よりそれぞれに右足、左足を生やし。
足を垂らす。
また、首は八つに分かれ、うち一つは尾として後ろを向く。
それは。
――ふん……どうやら連合軍諸君、彼女は尚も認めたようだ! 自身があの悪魔と交信した魔女……否、悪魔及び大魔王であるとねえ!
サタンが歓喜の混じった挑発の言葉を上げる。
それはやはり、もはや何度目かに見る光景である黒客魔レッドドラゴンが宇宙空間に鎮座する姿が現れたからだ。
◆◇
「……よくやってくれたわソロモンさん、ペイル・ブルーメ!」
外で自身に対する敵意が増殖する中、青夢はレッドドラゴンの中でアラクネとタランチュラの身体を借りて、自身不在の中代わりにこの黒客魔ひいては三段法騎戦艦の舵取りをしてくれていたソロモンとペイルに礼を言う。
――ふん、まあこれは本当に貸しにしておくわよ?
――いえいえ、どちらにせよ私たちではあのサタンを止めるには力不足でしたから。
――後私も忘れてないわよね、青夢?
「ええ、あなたを忘れる訳ないでしょアンヌ……これでようやく、また一緒に戦えるわよね!」
ソロモンとペイル、更に古巣と呼べるレッドドラゴン――ひいては法機ジャンヌダルクに戻った同機のVIアンヌも答える。
――さあ、何も来ないならばこちらからだ! 連合軍の皆、動くんだ!
「承知しました……凸凹飛行隊、全法機発進ですわ!」
「応!!」
「はい、マリアナ様!」
――おお、早速動いてくれるか凸凹飛行隊!
が、そんな青夢の隙を突かんとして。
サタンが命じるや、まず動いたのは何と凸凹飛行隊だった。
「ええ、いいわ皆……皆は立場上、私の敵になってくれれば!」
青夢は背後から迫る彼女たちを見て歯軋りしつつ、納得の笑みを浮かべる。
「目標……空宙衛星座都市サタン!」
「!? ま、マリアナ様」
「!? ……り、了解!!」
――……何?
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト、アトランダムデッキ! 女帝――圧政と開放、エグゼキュート!」
――くっ……凸凹飛行隊、何の真似かな?
が、サタンが驚いたことに。
マリアナは攻撃目標を空宙衛星座都市サタンと定め、それに凸凹飛行隊は戸惑いつつも即応し。
宙飛ぶ法機型円盤カーミラからは波動が、ルサールカから泡水流が、クロウリーからはその水流を圧縮・開放する衝撃波が放たれる。
たちまちカーミラの波動は周辺の連合軍艦隊や法機からエネルギーを奪い、圧縮・開放されたルサールカの泡水流が引き起こした水蒸気爆発の気流によりそれら艦や機の隊列を乱して行く。
「hccps://diana.wac/! セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音!」
「エグゼキュート!!」
「hccps://martha.wac/ セレクト! 子飼いの帯 エグゼキュート!」
「hccps://circe.wac/」
「hccps://medeia.wac/」
「edrn/fs/gogmagog.fs?arts=TwinStreamーーセレクト !! ツインストリーム!!」
更に凸凹飛行隊の宙飛ぶ法機型円盤ディアナ・アラディアからは無数の光矢と衝撃波が、元女男のマルタにキルケ・メーデイアからは三本の火線が直接に空宙衛星座都市サタンへと襲い掛かり。
――元女男の騎士団か! 硫黄火雨砲、発射!
それを受けて空宙衛星座都市サタンからも、エネルギー雨による反撃をする。
硫黄火雨砲。
ルシフェルの前身である空宙都市エルドラドが自身を内包するように展開していたバリアより、無数のエネルギーが雨状に飛散するように放たれていた雷雨神砲。
やや濃密な弾幕になった以外には、それと殆ど変わらぬ外観のエネルギー雨を放つ、空宙都市ルシフェルに備わる対宙砲撃である。
たちまちそのエネルギー雨は三つの火線とぶつかり合い、まだらな爆発を宇宙に描く。
――本当に何の真似かな、凸凹飛行隊に元女男の騎士団の諸君?
「ええ、突然の攻撃申し訳ございませんわ、サタン殿。しかし……わたくしたちもこの魔女木青夢と同様、直ちに停戦すべきと連合軍諸氏にご進言いたしますわ!」
「そ、その通りです!」
「ああ、さあ皆! もうこんな戦いは止めるんだ!」
「そうですよ!!」
「ああ、あたしらも同意見や!」
「その通りさ! なあ、ミリアも?」
「勿論です、姐様!」
サタンからの問いに凸凹飛行隊の面々は、それぞれの宙飛ぶ法機型円盤より、電賛魔法のネットワークを介してサタンや連合軍各代表に呼びかける。
「皆……」
――おのれ……
青夢はそれを聞いて感嘆し、サタンは歯軋りする。
「What!?」
「什么!?」
「뭣!?」
――……皆、耳を貸すな! 第一陣のアメリカ及び根源教騎士団、更にバアルゼブブに告ぐ! そいつらも魔女に扇動された手先共、地球とバアル・ゼブブ内部の反乱分子だ! 惑わされた者は同様に仲間と見做す、さあ反乱分子でないと証明すべく奴らに背後より攻撃を開始せよ!
「……YES!」
「はい!」
「はい!!」
「はい!」
「……はい。」
サタンはすっかり憤り、第一陣に命じ。
全体的に渋々といった形ではあるが、皆これには応じる。
そして。
「hccps://giganticmandrake.mna/edrn/fs/typhon.fs?stooming=true――Select, 嵐の神!」
「hccps://mayahuel.wac/! Select、リュウゼツランの酩酊! Execute!」
「hccps://titania.wac/! Select、初見恋慕! Execute!」
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select ジャガーの鉤爪 Execute!」
米の法機群による攻撃たちも放たれ。
「hccps://huster.frs/! セレクト、黒湖の幽閉 エグゼキュート!」
「hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「はい! hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
「hccps://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、凍える炎! hccps://cthugha.frs/GrimoreMark、セレクト 氷の吸血鬼! エグゼキュート!」
根源教騎士団の円筒型・円盤型の宙飛ぶ人工魔法円盤、及び同型のバアル・ゼブブ方宙飛ぶ魔法円盤部隊も、纏めて攻撃を凸凹飛行隊めがけて放つ。
「ま、マリアナ様!」
「やはり、こうなるのであってね!」
「くっ」
「皆、レッドドラゴンのバリアで守るわ! hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト ルーアンの火刑 エグゼキュート!」
それらの攻撃が迫る中、青夢はレッドドラゴンを凸凹飛行隊・元女男の騎士団の宙飛ぶ法機型円盤群宙域へと急行させ、自騎やそれらを包むエネルギー体を生成し始める。
しかし、間に合うか――
「猊下……hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
「!? な、何!?」
が、その時だ。
突如としてレッドドラゴンバリアと第一陣攻撃の間隙を縫うように、根源教土の騎士団長カロアが自身の宙飛ぶ人工魔法円盤ツァトゥグアを駆り立て、通りすがりに腐食エネルギー弾を次々と放ち弾幕を展開する。
さすがにそれでは第一陣の攻撃全ては防ぎきれないが、それらはさながら防波堤のように攻撃の波をかなり緩和し。
それによりレッドドラゴンのバリアは展開が間に合い、攻撃を防ぐ。
「か、カロア貴様!」
「カロア!!」
「カロア……」
――カロア……何の真似だ?
「サタン様、申し訳ありません……私は元々、女教皇猊下と同様に実家が電賛魔法システム終了と共に没落した際悟ったのです! もう何者にも縋るべきではない、自身の信念のみを信じるべきだと!」
根源教騎士団やサタンから咎める声音を向けられながらも、カロアはそう宣言する。
そう、今まで根源教にいたのは全て自らの信念に従ってのこと。
決して女教皇やサタンに心酔や縋りをしてのことではない。
「! カロアさん……ごめんなさい。」
青夢はその言葉に、少し心がざわつく。
――ふっ……ははは! まったく、どいつもこいつも……もういいさ! やはり地球の人間は信用すべきではないな、ならば魔女木青夢……君がしてくれた約定をここで果たしてもらう!
「!? 何ですって、約定? ……っ!? あれは!」
サタンはまたも取り繕うことなく本音を言い、それと時同じくして空宙衛星座都市サタンの中央頭部より、無数の幻獣機群が現れたのである。
双頭の巨人のごとき幻獣機群。
そう、これは。
――幻獣機ゴグマゴグたち! さあ……しっかり働いてもらわねばな、君たちを預かっていたあのレッドドラゴンと私との約定通りにね!
「くっ……なるほど!」
青夢はサタンのこの言葉に、歯軋りする。
私が戦力の増強にと望んでいた、VI化された魔男、または元からVIだった魔男。君が今抱えているだろう?――
……はい、サタンさん。いざとなれば三段法騎戦艦ゴグマゴグに融合しているVIたちを戦力にします。――
前に作戦会議時に交わされた、この約定。
まさにサタンは、最悪の手を使って来たのだった――




