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ウィッチエアクラフト〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜魔法の復活編  作者: 朱坂卿
再・最終翔 地球対エリヤ真・宇宙戦争
42/50

#42 月面到着

「さあて……おっと!? まあ無理よね……いきなりここでうまくやれだなんて!」


 月面に来て早々に、自機たる宇宙仕様の空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)実験機から遊星民に呼びかける青夢だが。


 拒否を地で行くが如く、遊星民が月面に展開している本拠地たる円筒型建造物群からは、多数の三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンク群が上昇して来ている。


 明らかに、こちらを敵視している者たちの行動だ。


 青夢は一旦説得は諦め、操縦桿を握る。


 たちまち空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)につけられている推進器は火を噴き、上昇してくる敵機群から距離を取り始めるが。


「くっ! そうよね……これが敵対する者への挨拶、万国どころかそこは宇宙共通かしら!」


 それに尚も追い縋ろうとする三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンク群は、その一機一機が円盤から下に伸びる触手たちのうち幾本かを前に向け、エネルギー弾を連射して来たのである。


「きゃあ! ……さあ、どうしたものかしらね……」


 青夢は苦戦しつつも、空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)を更に加速する。


 しかし空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)は法機ではない。


 即ちこれは――いや、そもそも法機にあってさえこの月面では――電賛魔法(リソーサリー)システムの加護を受けられない。


 よって宙飛ぶ人工魔法円盤スペースフライングリソーサリー宙飛ぶ法機型円盤ウィッチスペースクラフツシンボル、ましてや宙飛ぶ魔法円盤スペースフライングソーサリーのような重力制御の技術は高望みだとしても。


 従来の法機のようなすぐれた自動操縦機構もない、完全なる自力で動かさねばならない機械となったこの空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)


 それを駆り、更に敵陣たるこの遊星民月面基地のど真ん中にやって来るというのは自殺行為どころか、来た時点で地獄に落ちたも確定と言っても過言ではない。


 だが――


「大丈夫……私には! 目指すべき場所があるっ!」


 何故か青夢の顔には、悲壮感はまるでなかった。


 ◆◇


 ――ふうむ……飯綱法君、どうやら先ほどの第一弾はあまり効いていないようだが? 早くに第二、第三弾と、もう撃ちまくって本拠地諸共に遊星民の奴らを粉砕してしまおう!


 一方、こちらは地球周辺宙域。


 尚もゲートを通じて遊星民増援の戦力が送り込まれる光景を見て、サタンはそう発言していた。


「恐れながらサタン殿。 今敵ゲートを通じてしかこちらの弾を送り込めぬ状況の中では、そのゲートより敵戦力が尚、多数送り込まれている現状を鑑みるとそれは不可能かと。」


 ――ううむ……なるほど。


 盟次はサタンに、そう提言する。


 ――ならば仕方ない……聞こえているかい、欧豪並びに中韓艦隊! 遊星民の部隊を一掃するんだ!


「defo!」

「Oui!」

「是!」

「네!」


 サタンのこの言葉に、今尚ゲートから出て来ている遊星民部隊に対応し続けている欧豪中韓の部隊も更に士気を高め、更にそれぞれの宙飛ぶ法機型円盤ウィッチスペースクラフツシンボルを駆り立て。


「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾(メテオバレット) エグゼキュート!」

「hccps://sekhmet.wac/、セレクト 病の火息(イルズブレス)!」

「hccps://AlUzza.wac/、セレクト 神の権力(ゴッズインパクト)!」

「hccps://devi.wac/、セレクト 多面の相(マルチアスペクト)!」

「エグゼキュート!!!」


 誘導弾状の武器や、その他火線や衝撃波やエネルギー波動を欧法機群は放ち。


「hccps://eingana.wac/、Select! 今際の紐解きデッドリーアンラベリング、Execute!」

「hccps://ungur.wac/!」

「hccps://yurlungur.wac/!」

「hccps://yingarna.wac/!」

「Select, 虹の彼方(オーバーザレインボー) Execute!!!」


 豪法機群は虹の七色のエネルギー触手やエネルギーを雨状に放つ攻撃を放つ。


「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪(クローサイズ) エグゼキュート!」

「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国(テリトリービルト) エグゼキュート!」

「hccps://yangguifei.wac/、セレクト 甘美な茘枝(スイートライチ) エグゼキュート!」


 斬撃と広範囲爆破、エネルギー弾多数落下による爆撃が中国法機群が放たれる。


「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾(ナインアーツ)――殺生石(ポイズンキリング) エグゼキュート!」

「hccps://seondeokyeowang.wac/、セレクト 毗曇鎮圧リベリオンサプレッション エグゼキュート!」

「hccps://soseono.wac/、セレクト 始祖誕生ファウンダービギニング エグゼキュート!」

「hccps://yuhwa.wac/、セレクト 日光感応(サンズバース) エグゼキュート!」


 さらに、こちらは韓国代表の法機群より、腐食性攻撃に衝撃波、熱波、光波が放たれる。


 それらにより、空間ゲートから出て来ている三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンク群はことごとく殲滅される。


「(……これでサタンとやらについて誤魔化し続けるのは可能だが、あのゲートもいつまで開いているか分からぬことや、遊星民が送り込む雑魚たちの攻撃もいつ止むことやらなのが現状では魔女木青夢、お前の策も生還も危ういのは変わらないぞ……)」


 サタンに対して甘言を弄しつつも盟次が懸念するのは、やはり今月面にいる青夢のことだった。


 ◇◆


「つ……月!? 月って……今あの遊星民っていう奴らが基地にしてる、あの月!?」

「ええ、それ以外に何があるの? 星は星の数だけあるけど、月は月の数しかないでしょ?」

「いや、変な揚げ足取りしてる場合じゃなくて!」


 青夢の言葉に真白・黒日は思わず声を張り上げる。


 時は再び第二回作戦会議の直後に遡る。


 その会議に電使の玉座(スローンズ)にて参加していた青夢が、マリアナと法使夏を連れて三段法騎戦艦ゴグマゴグに宙飛ぶ法機型円盤ウィッチスペースクラフツシンボルカーミラ、ルサールカで戻って来ていたが。


 その三段法騎戦艦内部で、盟次や矢魔道、青夢の両親ほか真白や黒日、マリアナや法使夏を前に青夢はこう言っていたのだった。


 ――……私、月面に行くわ!


 ――私、あの遊星民の人々と……エリヤの人たちと話したいの!


 それについて、今説明をしていた所だった。


「青夢……正気なのか!?」

「私はいつだって正気よ……だから邪魔しないで。」

「ん……」


 父獅堂は青夢に問うが、やはりと言うべきか青夢は素っ気なく。


 獅堂は口を噤む。


「青夢ちゃん……そんな……」

「お母さん……ごめん、でも私……」


 涙を堪えながらの母藍を見ると、青夢は少し複雑な思いだ。


 マリアナや法使夏は何か考えているのか、黙っている。


「なるほど……俺たちに()()()を持って来させたのはそう言うことか。」

「ああ、そうみたいだな盟次……」

「ああ……」


 が、そんなマリアナや法使夏を除いた他の面々とは違い。


 飯綱法親子や矢魔道は何故か冷静にそう言う。


「な、何でこんな時に落ち着いていられるんですか!?」

「……それは、事前に聞いていたからです。」

「え!?」

「すまない、説明不足で……私たちは彼女から、この計画について事前に聞いていたんだ。」

「!?」


 そんな彼らに真白はツッコミを入れるが、矢魔道や飯綱法父の総佐はすかさずそう説明し、周りは絶句する。


「ああ、今格納庫に俺たちの法機がある。その魔女木青夢に頼まれたブツ――()()()はその法機で運んで来てやった。」

「!? そ、そんな……」


 盟次もそう説明するが、どうやらこれは火に油を注いだようで。


「青夢からこんな無茶苦茶なこと頼まれて止めなかったなんて……何でそんなこと!」

「も、申し訳ない……」


 真白は怒号を放ち、矢魔道と総佐は平謝りとなる。


「止める必要がどこにある? またそいつが面白いことをしようとしているのに」

「はあ゛!? 面白いことってあんたねえ……青夢は!」

「いいの、真白と黒日!」

「!? 青夢……」


 尚も火に油な盟次の発言だが、それに食ってかかる二人を青夢は止めた。


「飯綱法にもそのお父様にも、矢魔道さんにも責任はない……むしろ飯綱法がこうやって私に賛同して、色々と待ったなしで進めてくれたからこそ、私はこの計画を実行できるの!」

「ふっ、その通りだ! 俺に感謝するんだな!」

「そ、そんな……」


 青夢はまた高らかにそう宣言し、盟次は毎度お馴染みとばかりの態度で誇らしげである。


 その二人を見た真白と黒日は、説得を諦める。

 もはや、既に賽は投げられていたのだ。


 ただでさえ決断を固めた後の青夢は梃子でも動かない。


 況んやここまで実施条件が整った現状をや。


「……まったく、この飛行隊長に断りもなく! よくもまあ勝手に進めてくださってくれてよね……」

「ええ、激しく同意ですよマリアナ様。何よ魔女木、また飛行隊長気取り? いえ……英雄気取り?」

「!? ……違うわ。私は、罪人。」


 そこに堪りかねたかマリアナと法使夏はそう言い放ち、青夢も一瞬口を噤みながらもはっきりと言い返す。


「罪人ね……自覚があるんだったら、尚更勝手なことはすべきじゃないんじゃないの? もうあんたは大人しく」

「それは無理よ! ……むしろ、罪人だからこそこれが最後のチャンスだと思わない? "硫黄の燃えている火の池に投げ込まれ"て、罪を償うためのね!」

「!? い、硫黄の……?」


 尚も畳みかける法使夏だが、青夢のこの言葉に首を傾げる。


 それは――


「聖書の――黙示録の一節か!」

「も、黙示録って、あの!?」


 獅堂がその言葉の意味に気づき、皆もはっとする。


 そう、黙示録。


 キリスト教の新約聖書において、予言の書的役割を持つ部分である。


「そうよ、それによれば一度は閉じ込められながらも復活した"赤い竜"は、"硫黄の燃えている火の池に投げ込まれ"て今度は永遠に苦しむってあったわ!」

「まさか……青夢、その通りに!?」

「……そうよ。」


 青夢が更に語った詳細は、真白や黒日たちを更に戦慄させる。


 それはつまり――


「つまり……奴はもう覚悟の上ということだ! もうお前たちが何を言おうが何も変わらない、止められない! だから皆黙って、こいつの思う通りにさせろ。」

「……」


 盟次が青夢の横で、そう半ば強硬に締め括る。


 もはや感傷や浮ついた気持ちではない、青夢の心中に渦巻くは確かな覚悟――背水の陣という言葉でさえ生温い、生死を賭けた戦い。


 それをこの場にいる誰もが感じ取った。


 しかし。


「……では、魔女木さん説明していただけるかしら? その作戦を実行しようにも、どう行かれる手筈なのであって? まさかあのサタン殿の目を盗んで行かれるおつもりじゃ」

「ええ、その通りよ!」

「!? な、何ですって?」


 説明を求めたマリアナだが、青夢のこの言葉に驚く。


 サタンの目を盗む、それは半ば冗談で言った言葉のはずだった。


 それが、まさか。


「まあ詳しい話は、格納庫で話そう。そこに()()()があるからな!」

「……そうであってよね。そろそろそれについても話していただかないと。」

「……よし。」


 盟次はそう言うや、先導して格納庫に向かう。

 皆、それを追いかける。


 そうして格納庫へと降り立つや、そこには凸凹飛行隊や元女男、その他法機群が並び。


 その間を忙しなく法機支援車両(ウィッチーズカーター)――法母や揚陸艦に配備され法機の雷装や工作機械を後部接続しての整備、更に法機そのものの牽引・艦内及び地上移動を行う車両で、通称魔女の黒山羊――が走り回って準備を行っている。


「俺や父さん、矢魔道カイン女神の杼船(アテナーズシャトル)で来たのだが……あ、あれが俺たちの法機だ。」


 盟次が格納庫の一角を指差すと、そこには彼の法機パンドラと、矢魔道の法機レッドサーペントがあった。


 とその尾翼に、何やら法機自身にも匹敵する大きさのパーツをつけた状態――さながら、この戦争に先立ち新天新地計画プロジェクトニューアースのために、カーミラ・ルサールカ・クロウリーの三機が宇宙に来た時と同じ状態――でその法機二機は駐機されていた。


 そのパーツは、やはり新天新地計画プロジェクトニューアース時にそこから空飛ぶ円盤型法機ウィッチーズヘルキャットが出て来た時のように蓋が開いて中身が露となる。


「こ、これは!?」

「ええ、これが飯綱法に頼んで持って来てもらったもの……今回の作戦の肝よ。」


 それにより驚く面々に、青夢は告げる。


 彼女自らが開発した空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)実験機、それが宇宙仕様に推進器を何ヶ所かに設置される形で改造されたものである。


「なるほど……これならば電賛魔法(リソーサリー)システムに何の接続もしないからあのサタン殿の目を盗んで月に行けるということであって?」

「ええ、ご明察よ魔法塔華院マリアナ。」


 マリアナの問いに、青夢は頷く。

 そう、まさにそれである。


「……しかし、まだ疑問はあってよ。そもそも、こんな重大なことを密かにミスター飯綱法たちにお伝えするなどどうやってできて? いえ、それだけでなく……サタン殿の目をこれで盗めるとして、月まではやはり行けないのではなくって?」

「ええ、それらはちょっと逆の順番で答えさせてもらうわ。」


 尚疑問をぶつけてくるマリアナに、青夢はしかし落ち着いた対応である。


「まず、月に行くのはあの極超光量使速飛翔体オーバーウリエルズライトスピーダーに紛れて行くわ! そのために飯綱法の法機パンドラを、遊星民さんたちの月に極超光量使速飛翔体オーバーウリエルズライトスピーダーを送り込む作戦のために使わせてもらえるようサタンさんに進言したのよ!」

「……そうであったのね。では、どうやってその秘密の計画をミスター飯綱法たちと組まれたのであって?」


 青夢からの回答に、マリアナは更にそう尋ねた。


「ええ、それは……私だけが使える秘匿回線を使ったのよ!」

「秘匿、回線?」

「オオアリアタン、ココハ……?」

「ええ、ここがあの三段法騎戦艦の中ですわ王陛下。」

「!? あ、あなた方は」


 青夢の更なる回答と共に、現れたのは。


 あの人間に転生していたかつてのダークウェブの王タランチュラと、女王アラクネだった。


「な、何故」

「この人たちが、私がこの三段法騎戦艦で代わりをしてくれるからよ! ねえタランチュラさんにアラクネさん? ……いえ、ソロモンさんとペイル!」

「!? え……?」


 混乱に更に拍車をかけたのは、またも青夢だった。

 それは。


「ええ、またあなたに手を貸すとは光栄です!」

「何度も言うけど、これは貸しにするからね?」

「!? あ、あなた方は!?」


 そのタランチュラからはソロモンの声が、アラクネからはペイル・ブルーメの声が聞こえた。


「こ、これは何なんでしょうマリアナ様!」

「いえ、なるほど……あなたが使われた秘匿回線とは、このソロモン王陛下やミスブルーメの魔法根源の力であって?」

「!?」


 混乱する中でもマリアナは、そう察した。


「その通りよ! そして……さっきも言ったように、私はその二人に三段法騎戦艦の留守を守ってもらう。今も秘匿回線に守られているおかげで、この戦艦内の会話は外に漏れていないわ……私はそれによって、これまたさっきも言ったように月に心置きなくいける!」

「青夢……」

「魔女木さん……」

「魔女木……」


 それを受けて締め括るようにそう言う青夢に、皆ため息を吐く。


 もはや彼女は誰にも止められない、それは完全に明らかになったからだ。


 ◆◇


「さあ……私はまだやられる訳には行かない! あの基地を目指すわ!」


 そうして、現在の月に戻る。


 遊星民側の三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンク群に尚追いかけられながらも、青夢は更に空飛ぶ駆竜魔(エイドラグーン)を加速して駆り立てる。


 今何もないクレーター部分から低空を飛びつつ目指すは、あの遊星民本拠地たる円筒型建造物群だ――

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