#41 第二陣展開
「……どうやら、敵さんも増援寄越して来たみたいよ?」
「ええ、その様ですわね……」
サタンからの通信を三段法騎戦艦で受け、青夢はマリアナと通信により遊星民艦隊第二陣が迫ることについて話す。
――飯綱法盟次……まだ、君の出番は早い。奴らはまだ余力を月面に残しているのだから。
「サタン殿、そうですか……しかし。」
――だが……第二陣、欧豪艦隊前進! 第一陣に合流し、遊星民艦隊第二陣を共に迎撃せよ!
「……defo!」
「Oui!」
サタンはその状況を鑑み、地球・バアルゼブブ連合軍に命令を降す。
またも月の裏側より、光速で加速する能力により瞬く間に地球に到達せんとしていた遊星民円盤群であるが。
「hccps://eingana.wac/、Select! 今際の紐解き、Execute!」
そこに豪の宙飛ぶ法機型円盤エインガナから虹の七色のエネルギー触手が伸ばされ。
拘束された遊星民円盤群が、一斉に爆発していく。
「hccps://ungur.wac/!」
「hccps://yurlungur.wac/!」
「hccps://yingarna.wac/!」
「Select, 虹の彼方 Execute!!!」
更に宙飛ぶ法機型円盤ウングル・ユルルングル・インガルナの攻撃が加わり、遊星民円盤群は虹に覆われ。
数カ所で、爆発が起きる。
「……Select, 虹の彼方 Execute!!!」
「hccps://ungur.wac/!」
「hccps://yurlungur.wac/!」
「hccps://yingarna.wac/!」
「/GrimoreMark/、Select 虹の前兆 Execute!!!」
その上、現在の空宙都市ルシファー前身に当たるエルドラドが持つ、雷雨神砲。
それに似たエネルギーを雨状に放つ攻撃たる虹の前兆により。
向かい来る遊星民艦隊第二陣は、ことごとくその餌食となる。
「Oui……私たちも負けていられないわ、皆行くわよ!」
「Oui!!! 初花様!!!」
それに続き、欧艦隊の初花・ターニャ・ヘーゼル・ラベンダーも自機たる宙飛ぶ法機型円盤アンドロメダ、アル・ウッザー、デーヴィーを駆り立てていく。
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
アンドロメダからは誘導弾状の武器が投射され。
「hccps://sekhmet.wac/、セレクト 病の火息!」
「hccps://AlUzza.wac/、セレクト 神の権力!」
「hccps://devi.wac/、セレクト 多面の相!」
「エグゼキュート!!!」
他三機からも順次、攻撃が放たれていく。
「hccps://sekhmet.wac/、セレクト 赤き麦酒 エグゼキュート!」
セクメトからは、酩酊したかのように狂わせる波動が放たれ。
「hccps://AlUzza.wac/、セレクト 眩き明星! エグゼキュート!」
アル・ウッザーからは眩い流星のごときエネルギー弾が放たれ。
「hccps://devi.wac/、セレクト 宇宙原理! エグゼキュート!」
デーヴィーは無数の光弾を撃ち込む。
それらは更に、遊星民円盤群を殲滅していく。
「まだまだ足りないわ……空宙装甲列車、全編成前進!」
「defo、私たちの空宙装甲列車も!」
そしてやはり欧豪も、各戦列を構成する全ウィガール艦より、その両舷に接続されていた空宙装甲列車は切り離され、安定翼を広げ搭載法機の力も借りて軌道外でも飛翔し前へ進み出た後に。
「Oui……」
「defo!」
「誘導柘榴弾、発射! 撃ちまくりなさい!!」
お馴染みと言うべきか、誘導柘榴弾が多数発射され。
そのあらゆる方向を向く多弾頭は、やはり一つ一つが各方向に広範囲に分裂する榴弾となり、さながら遊星民円盤群に対して上下より降り注ぐ榴弾の雨を成す。
それらにより、遊星民円盤群は次々と火だるまになって行く。
◆◇
――どうだい、飯綱法君。中々第一・第二陣共にやるだろう?
「ええ、そうですね……」
それらを、こちらもやはり宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナから戦場を見ていたサタンである。
サタンから通信により伝達された内容に、盟次は納得した様子を見せる。
実はあの第二回作戦会議の直後、既に宇宙に来ていた盟次の方から法機パンドラの力を使うべき、との提言がサタンに対してなされており。
これはその際のやり取りを踏まえてのことであった。
――(まあ悪い気はしなかったよ飯綱法盟次……しかし。いざとなれば私たちも、君たち諸共に遊星民と差し違えてでも奴らを滅ぼす構えがあるんだよ! 我らが都市艦隊パンデモニウムがね……)
そんなサタンの心中には、ある光景が浮かんでいた。
それは今し方彼の弁にもあった、都市艦隊パンデモニウム。
遊星民の月面基地を思わせるがごとく、それは地球の地下深くに築かれた円筒型建造物群の様相を呈していた。
そう、サタンはこれを使い――
と、その時であった。
「!? さ、三段法騎戦艦6時の方向に何やらエネルギー反応……こ、これは!」
青夢が気づいたことに。
突如として、今彼女が言った通りその三段法騎戦艦背後の方角にある宇宙の虚空に、何やら渦のようなものが発生したかと思えば。
「什么!?」
「뭣!?」
第三陣たる中韓の面々が驚いたことに。
その彼女たちが布陣した宙域に、先述の渦中心核に当たる穴から躍り出たのは、三脚空挺戦車の群れであった。
◆◇
「あれは……根源教騎士団が魔法塔華院別邸や揚陸艦を襲った時に使ったものたちと同じ!?」
――ああ、根源教や我々が有する技術は遊星民と同じ……あれは遊星民のものだ!
青夢の言葉に、サタンが応える。
そう、盟次が目論んでいたように、遊星民も空間歪曲により戦力を敵陣に送り込んで来たという訳である。
「hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「! 飯綱法……そうね、いよいよお出ましって訳よね!」
が、盟次の反応もまた速く。
その虚空に開かれたゲートのすぐ目の前に、法機パンドラによる時空の穴が開かれ。
そこより遊星民のゲート目掛けて、法機ヘルによる火炎攻撃が炸裂し、それら三脚空挺戦車群を吹き飛ばす。
「サタン殿! もう躊躇っていらっしゃる場合ではないのでしょう? 私は、やらせていただきますよ!」
――ああ、ありがとう! さあ……第三陣の中韓部隊は遊星民部隊の雑魚を片付けよ!
「是!」
「네!」
サタンもようやく盟次の作戦を承認し。
それによりはっとした中韓部隊は、動き始める。
見れば、遊星民のゲートは先ほどの一つだけではなく。
あくまで第三陣担当の宙域限定ではあるが、あちらこちらにゲートが開かれ、そこから遊星民の三脚空挺戦車群が多数送り込まれていた。
「是……私たちの出番のようね! 行くわ! 女夭、呪華、金東!」
「是、小鬼!」
「是!!」
「그럼……私たちも行くわよ! 昭賢・艮麻・相錬!」
「네!!!」
それを見て中韓の宙飛ぶ法機型円盤群も、動き出す。
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
「hccps://yangguifei.wac/、セレクト 甘美な茘枝 エグゼキュート!」
斬撃と広範囲爆破、エネルギー弾多数落下による爆撃と、続々と中国代表による攻撃が炸裂する。
「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――殺生石 エグゼキュート!」
「hccps://seondeokyeowang.wac/、セレクト 毗曇鎮圧 エグゼキュート!」
「hccps://soseono.wac/、セレクト 始祖誕生 エグゼキュート!」
「hccps://yuhwa.wac/、セレクト 日光感応 エグゼキュート!」
「ぐう!」
さらに、こちらは韓国代表の法機群より、腐食性攻撃に衝撃波、熱波、光波が放たれる。
「是……一旦宙飛ぶ法機型円盤群は退がるわ! 艦隊にバトンタッチよ!」
「是!!!」
「네!!!!」
その後に宙飛ぶ法機型円盤群は一旦戦線より退き。
更に、中韓の宇宙仕様誘導銀弾駆逐艦及び誘導銀弾巡洋艦の艦隊や空宙装甲列車からも、誘導柘榴弾が多数発射され。
そのあらゆる方向を向く多弾頭一つ一つが広範囲に分裂する榴弾となり、弾幕を展開し。
ゲートから多数送り込まれていた遊星民の三脚空挺戦車群は、そのまま爆散させられて行く。
「さあ、サタン殿! こちらから!」
――ああ、そうだな……法機パンドラの力で、遊星民の月面本拠地へと極超光量使速飛翔体を送り込め!
その様子に、もはや機は熟したとばかりに盟次が促し、サタンが承認し。
「hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴! エグゼキュート!」
――ふ…………セレクト……デパーチャー オブ、極超光量使速飛翔体! エグゼキュート!
最終防衛線となる地球最近辺の衛星軌道上に配された、地下鉄空宙列車。
サタンの命令を受けた、その列車では。
たちまちその開かれた車両屋根部分より、実弾状態で発射されたかと思えば。
それは法機パンドラが屋根のすぐ上に開いた時空の穴に吸い込まれ。
かと思えば、遊星民が先ほどまで多数の三脚空挺戦車群を送り込んでいたゲートのすぐ目の前に開かれた、法機パンドラによる時空の穴から吐き出されてそのゲートにまた吸い込まれ。
月へと送り込まれた。
――ふふ……ははは! さあ遊星民……これで終わりだな!
サタンはその光景に、ほくそ笑む。
◆◇
その直後、場所は月へと移る。
遊星民が開いた渦巻状ゲートから、逆に地球から先ほど送り込まれて来た極超光量使速飛翔体である。
それを察知した遊星民の月面基地は、動き出す。
たちまち基地からは、多数の三脚空挺戦車群が飛び立つ――
が、その極超光量使速飛翔体の弾頭部に異変が起こる。
それは何やら、割れ。そこから現れたのは。
「待って! お願い遊星民の皆さん……」
何と、青夢だった。
正確には、彼女自らが開発した空飛ぶ駆竜魔実験機、それが宇宙仕様に改造され、彼女が乗ったものだった。
いやそもそも、この極超光量使速飛翔体は弾体そのものを光に変えることで光速を超えるものであり。
それをしなかったということは、つまり中に人が乗っていたということなのである。
◆◇
「よく来てくれたわ、皆……」
「ああ、まあ挨拶は無用と言ったところだろう魔女木青夢。」
「……ええ、そうね。」
時は第二回作戦会議直後に遡る。
電使の玉座から、その会議に参加していた青夢だったが。
何とその直後、マリアナと法使夏を連れて三段法騎戦艦ゴグマゴグに宙飛ぶ法機型円盤カーミラ、ルサールカで戻って来ていた。
その三段法騎戦艦には、第一回作戦会議後に着艦していたあの盟次の他に矢魔道、青夢の両親などもいて彼らと会っていた。
「……私、月面に行くわ!」
「!?」
そんな一同だが、青夢のこの発言には皆驚く。
「私、あの遊星民の人々と……エリヤの人たちと話したいの!」




