#39 真・宇宙戦争
「月の裏側より円筒型・円盤型の飛行物体……多数接近中!」
「……来ましたわね。」
地球周辺宙域に集結していた世界いや、地球連合軍に風雲急を告げるその知らせがもたらされ。
たちまち連合軍は、色めき立つ。
連合軍はいくつかの防衛線――第一陣〜第四陣、それら後方も後方たる最後方に当たる最終防衛線に分かれているが、そのうち。
第一陣は凸凹飛行隊と米、魔法根源教騎士団である。
凸凹飛行隊は前回の三段法騎戦艦レッドドラゴンの件における責任を、米はこの戦いを始めるきっかけを作った責任を取らされる形である。
凸凹飛行隊が擁する戦力はその三段法騎戦艦レッドドラゴン――ではなくゴグマゴグ。
つまり、さながら元女男・凸凹飛行隊連合軍である。
そのため航空戦力もそれぞれが有する法機群と、あの支援機たる空飛ぶ円盤型法機――通称・魔女の黒猫、その二つを合体させた円盤から法機期首が飛び出た形をした法機・宙飛ぶ法機型円盤群である。
更に。
――来たな……さあ地球の諸君、今こそ決戦だ!
「……YES!」
「……はい!!!」
「……はい。」
「……是!」
「……네!」
「……defo!」
「……Oui!」
――そして……根源教騎士団!
「はい!」
「はい!!」
「はい!」
「……はい。」
先述の通り魔法根源教騎士団もいて、これまた先ほど言及されていた遊星民が擁するものと同じく、円筒型・円盤型の宙飛ぶ人工魔法円盤部隊を擁している。
第二陣は欧豪の艦隊。
米欧豪の戦力は、やはり宇宙仕様に艦体及び推力機関を改造されたウィガール艦艦隊及びそれぞれの法機群である。
そして第三陣は中韓の、同じく宇宙仕様に艦体及び推力機関を改造された誘導銀弾駆逐艦及び誘導銀弾巡洋艦の艦隊。
及び、くどいようだがやはりそれぞれの法機群である。
そして以上の勢力たちには、いずれも空宙装甲列車や地下鉄空宙列車が配備され、宇宙艦戦力の不足を補うことになっていた。
宇宙艦はサタンの提言通り、急ピッチにて幻獣機による改造が進められたが全艦隊とはさすがに行かず。
各部隊の旗艦のみに改造するのが精一杯だったのだ。
そして第四陣は王魔女生グループのヘロディアス艦隊、および龍魔力財団の量産されたスフィンクス艦による艦隊。
そして自衛隊に配備されている法機滝夜叉の能力餓者髑髏により強化・宇宙仕様の改造を受けた、骸装ウィガール艦艦隊。
これは王魔女生・龍魔力・自衛隊連合艦隊と言える。
更にそれぞれの法機群も同じく備えている。
先述の第一陣のみならず、実はこれまたサタンの提言通り全ての陣の法機に可能な限り、宙飛ぶ法機型円盤群に変えられている。
これも全機とはいかなかったが、先ほどの宇宙艦の改造よりはこちらに、幻獣機による技術を回した結果多数の法機が宙飛ぶ法機型円盤に変えられていた。
そしてその更に後方が、ようやく最終防衛線となる地球最近辺の衛星軌道上である。
そこには補給及び攻撃拠点にもなる米欧豪の空宙都市ルシファー、中韓の空宙衛星座都市明星の他。
自衛隊及び三大企業、呪法院エレクトロニクスに元女男の第一・第二電使の玉座も陣取っている。
あの極超光量使速飛翔体を備えた地下鉄空宙列車はそこにも配されていた。
――……ついに来たな、この時が……
サタンはほくそ笑む。
また、あの女教皇が座乗していた、今は彼女がおらずサタンが座乗する宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナも陣取っている。
かくして、ここに地球・バアルゼブブ連合軍の布陣は出揃った。
◆◇
「……ごめんね皆、私のせいで。」
「大丈夫!」
「そうだよ……元はといえば、私たちのせいでもあるから。」
そんな布陣の中、第一陣の三段法騎戦艦ゴグマゴグより各法機に対する通信にて。
青夢はこうなった原因である、先の世界連合軍との戦いについて詫びるが。
真白・黒日も親友を励ますため、また自分たちにも非があったために言葉を紡ぐ。
「ええ、本当にであってよまったく……元飛行隊長! あなた方のせいでわたくしがどれだけ会議で肩身の狭い思いを」
「そうよそうよ!」
「魔法塔華院……魔女木……」
そこに通信を割り込ませてきたのはマリアナや法使夏であり、剣人もやや苦々しく会話に入る。
彼女たちからすれば、とばっちりを受けた形なのだ。
当たり前といえば、当たり前の態度ではある。
「そ、それは」
「それはもう繰り返し謝ってるでしょ魔法塔華院マリアナ! それに……だからこそ買って出たのよ、私が最前線に立つことを。それだけじゃない……いざとなれば、今抱えているVI――魔男たちを使って戦うって!」
「……ええ、その通りであってよ。」
しかしこの青夢の言葉には、マリアナは乗機の中で目を逸らす。
そう、第一陣の中でも前線の方にいる凸凹飛行隊。
それは他ならぬ、青夢の希望でもあったのだ。
◆◇
――……では、第二回作戦会議を開始する。
「YES」
「はい!!!」
「はい。」
「是!」
「네!」
「defo!」
「Oui!」
時は開戦の前々日に遡る。
月の裏側の動向から、まだ作戦にブラッシュアップの余地があると見た地球・バアルゼブブ連合軍は、再び通信によるリモートでの会議を開くこととした。
――よしよし、またよくぞ集ってくれた。さて……すぐにでも遊星民との戦いに入るかと思われたのだが、幸か不幸か未だその状況にはない。しかし、今すぐに奴らが動いてもおかしくない状況は継続している。それでだが……米中は、例の宇宙艦に幻獣機による強化技術を導入する件はどうなっている?
「Yes……それは」
「是……」
デイヴと鬼苺は、恐る恐る現状を説明する。
宇宙艦戦力の不足を補うことになっていた。
急ピッチにて幻獣機による改造が進められた宇宙艦だが全艦隊とはさすがに行かず、各部隊の旗艦のみに改造するのが精一杯という現状を。
「はい、そちらは……わたくしたち魔法塔華院コンツェルンも全力を挙げて、そちらよりせめて幻獣機による技術を回し、多数の法機を宙飛ぶ法機型円盤に変えるべく取り組んでおりますわ。」
――ああ、感謝する。今第一陣にいなければならない君たちが、わざわざ電使の玉座に直接いて陣頭指揮を取ってくれていることにもね。
「はい……」
サタンの言葉にマリアナは、少し顔を曇らせる。
そう、まさに今すぐ遊星民が襲来してもおかしくない中。
マリアナや法使夏は電使の玉座に直接いて、"魔女の黒猫"を幻獣機により構築することの陣頭指揮を取っている。
今リモートにより開かれている、この第二回作戦会議も。
他の勢力代表が自身の持ち場となる布陣先から参加しているのに対し、サタンの今の弁にもあるように彼女たちは第一陣となる持ち場ではなくその電使の玉座から参加している。
――そう、彼女たちは第一陣である……やはり本来ならば、そこにいるべきではない。敵は月の裏側に見えたと思った次の瞬間には、ここに攻めて来るのだから。
「はい……」
――敵はあの極超光量使速飛翔体と同じく、光速で加速する能力も持っている。すなわち……もし、月の裏側から奴らの円盤が発進すれば、そこから瞬く間に地球に到達するというのは前にも話した通りだ。
「YES」
「はい」
「はい。」
「是……」
「네……」
「defo……」
「Oui……」
サタンのこの言葉には、他の代表も顔を曇らせる。
そう、やはり今こうしている間にも遊星民が攻めて来かねない以上、マリアナたちの現状は心許ない。
と、その時である。
「いえ、その点はご心配ありませんわ、皆さん。……わたくしの飛行隊員に、代わりをさせます故。」
――……ほう?
「……皆さん、お久しぶりです。」
「!?」
会議の参加者たちが皆、驚いたことに。
マリアナの言葉と共に、現れたその飛行隊員とは。
――おや……まさか君が来てくれるとはね。魔女木青夢。
他ならぬ、青夢であった。
「……改めて皆さん。以前、私が電賛魔法システムを終わらせたことによる混乱はお詫びしてもしきれません!」
「YES」
「はい」
「はい。」
「是……」
「네……」
「defo……」
「Oui……」
青夢の言葉に、各勢力代表は複雑な思いである。
「……なら、私からお願いしたいんです! 私の三段法騎戦艦も第一陣に配してください、そうすれば私も遊星民とかいう敵の防衛に参加できますから!」
「!?」
更なる青夢の言葉は、各勢力代表は尚混乱するが。
――ああ、それはまさに渡りに舟という話だよ……戦力はいくらでもあるに越したことはない! それに私が戦力の増強にと望んでいた、VI化された魔男、または元からVIだった魔男。君が今抱えているだろう?
「……はい、サタンさん。いざとなれば三段法騎戦艦ゴグマゴグに融合しているVIたちを戦力にします。」
「……What?」
青夢がそこでサタンに語った言葉は、今反応したデイヴのように、彼女を知る人物からすれば信じられないものであるが。
青夢はさしたる屈託もなく、平然とそう言い放ったのである。
◆◇
「……魔女木青夢。」
「!? あなた……かぐやちゃん。」
「……その名前で呼ぶな!」
そうして第二回作戦会議が終了した後、青夢がマリアナや法使夏と共にコントロールルームを出れば。
出迎えたのはかぐや――いや、女教皇だった。
「……ごめんね。あなたや根源教騎士団長の人たちにも、私が電賛魔法システムを終わらせたせいで迷惑を」
「ふん! 今さら謝って許されることかしら? 私の家族は電賛魔法システムによるビジネスを企画していたのに、あんたのせいで……皆あんたのせいよ!」
「……ごめんなさい。」
女教皇はそう言うや、走り出してしまった。
「……まあ、当然の言い分ではあってよ魔女木さん。」
「でも、まさかあれで戦意喪失なんて馬鹿なことは言わないわよね?」
「……ええ、もちろん!」
マリアナと法使夏に励ましとも嫌味とも取れる言葉をかけられ、青夢はしかし顔を明るくする。
何はともあれ、戦いも誹りも覚悟の上のこと。
彼女の心を曇らすものは、もう何もなかった。
「ふん、何よ……あんな奴」
――……それは、本当にあなたの本心ですか?
「!? カロア。……何、まだ私に嫌味を言い足りないの?」
そんな女教皇の脳内には、カロアの通信による声がした。
――ええ、そうですね。まだ蟠りは消えません。あなたや……あのサタンとかいう者にも。
「!? あなた……サタン様を侮辱する気!?」
――ええ、申し訳ありませんが。
「そんな資格があると……思ってるの!?」
――あなたこそ、いい加減にご自分に正直になられたらいいんじゃないですか!? あなたとてサタンのことは完全には信用ならない……そして、魔女木青夢のことは。もっと嫌な奴だったらよかったと、お思いではないのですか?
「!? それは……」
女教皇はカロアの言葉に、自身の言葉を詰まらせる。
――……では私は、第一陣を預かる身であります故。
「ちょっと……」
カロアはその反応に満足したのか、通信を切った。
◆◇
「敵円盤……急加速! 第一防衛線に到達します!」
「さあ……行きましょう皆! 私たちの地球を守るわ!」
「応、青夢!!」
「ああ、魔女木!」
「飛行隊長はわたくしであってよ、勝手な指図は!」
「そうよ、魔女木!」
かくして、現在。
まさに遊星民円盤群が迫る中、凸凹飛行隊と米、魔法根源教騎士団が布陣する第一陣は色めき立っている。
こうして、開戦の賽は投げられたのだった――




