#38 宇宙戦争前夜
「……マリアナ様。続々と、集まって来ています。」
「ええ、そうであってね……」
宇宙での各勢力同士の戦いから数日と経たない頃。
魔法根源教騎士団の宙飛ぶ人工魔法円盤群と、地球各地で眠りについていたが目覚めた、対エリヤ諸星同盟バアル・ゼブブの宙飛ぶ魔法円盤群が、地球周辺宙域最前線にて月の警戒に当たっているが。
あれほどの攻撃をされた月の遊星民たちがそれほど猶予を与えてくれるとは思えず、襲来に備えることが急務となっていた。
そんな中で第二電使の玉座の窓から見える景色に、マリアナと法使夏は複雑な想いを抱えていた。
それは地球から、次々と艦影が上がって来る景色だ。
それらの艦は宇宙に出て来るや、宇宙空間を横に移動し、今度は各拠点へと移動していく。
米欧豪の艦は、かつて幻 獣 機 父艦と戦った際に日本の自衛隊も制式採用していたウィガール艦、それが宇宙仕様に艦体及び推力機関を改造されたものだ。
そして中韓の艦は、誘導銀弾駆逐艦及び誘導銀弾巡洋艦、それらがやはりウィガール艦と同じく宇宙仕様に艦体及び推力機関を改造されたものだ。
そんな艦隊のうち米欧豪は空宙都市ルシファーへ、中韓は空宙衛星座都市明星へ。
そして日と三大企業は。
「……お久しぶりですね。」
「世話になる。」
「今回は宇宙人の勢力との戦いということで、腕がなりますね!」
「ええ……ご機嫌麗しく。」
そう先ほどマリアナらが見た、第二電使の玉座の窓からの景色。
地球から、次々と艦影が上がって来る光景が繰り広げられていたのは先述の通りだが、そのうち日と三大企業の艦隊はこの電使の玉座群周辺宙域に集まって来ていた。
それらの内訳は、あの王魔女生グループのヘロディアス艦隊、および龍魔力財団の量産されたスフィンクス艦による艦隊。
その他、日本の自衛隊が保有する艦は米欧豪と同じくウィガール艦だが。
自衛隊に配備されている法機滝夜叉の能力餓者髑髏により強化・宇宙仕様の改造を受けた、骸装ウィガール艦である。
「集まって来ましたね……」
「ええ……まあこの電使の玉座が兵站の機能を持てるようできましただけでも第一段階としてはクリアですわ。」
そんな様子を見つつマリアナは、これまで自分たちもこの戦いに備えてして来たことを思い出し感慨に浸る。
先の戦いにより中断されていた、第二電使の玉座底部における吸引光線システム構築作業を何とか急ピッチで完了させ。
更に第一電使の玉座底部における同様の構築作業を完了させ、それと第二電使の玉座間で規模こそ小さいが空宙都市計画を半ば達成した。
それは、あの遊星民への攻撃からわずかな間の出来事。
それだけの間にこれほどの各勢力軍備が一同に会するとは、本来ならば喜ぶべきところではあるが。
「ここは軍備が集まると共に……各勢力が集まり、思惑渦巻く所でもありましてよ。油断は大敵。わたくしたちは遊星民という外にも、形式上味方である内にも睨みを効かせねばなりませんわ!」
「はい……マリアナ様!」
マリアナの今しがたの弁にもあったように、地球という星という一枚岩ではない、各国という複数勢力たる彼女たちの惑星。
そうした面で結束への不安どころか、裏切りなどの懸念すらある有様。
そんなこれからの状態を思えば、マリアナたちも手放しで喜べる状態にはないことは明白であった。
◆◇
「続々と集まって来ているわね……」
マリアナたちが第二電使の玉座の窓から見ている景色は、その付近に停泊している三段法騎戦艦ゴグマゴグの艦橋から青夢も見ている景色だった。
そこから分離していた黒客魔レッドドラゴンも再融合して完全な状態となっているのが、三段法騎戦艦の現状だが。
「……皆からしたら、やっぱりこの船は忌々しい存在ってことになるのかしら……」
今もつい先刻も、この宇宙に集まった地球連合軍にとっては忌々しき世界の敵だったこの三段法騎戦艦。
青夢は、ただただどう見られているかが不安な状態であった。
◆◇
「YES……では、作戦会議を始めます!」
「はい!!!」
「はい。」
「是!」
「네!」
「defo!」
「Oui!」
通信により、各空宙都市ないしは乗艦からリモート形式にて各代表が集い、かくして世界連合軍――厳密には後述するが違う――の作戦会議が幕を上げた。
かつて新たな女王及び、龍魔王に対抗すべく結成された世界連合軍であるが。
今やそれは世界連合軍ではなく、遊星民という宇宙からの脅威に対抗するための"地球連合軍"なのである。
いや、"地球連合軍"というだけではない。
――改めて。chbvAnmmNnnaIsy(ヒバネシー、金星)の大国ハーアの出身であり、対エリヤ諸星同盟バアル・ゼブブが盟主を務めるサタンというのが私だ。以後、お見知りおきを。
「YES」
「はい!!!」
「はい。」
「是!」
「네!」
「defo!」
「Oui!」
そこにバアル・ゼブブも加わり。
地球・バアル・ゼブブ連合軍とでも言うべき様相を呈していたのだ。
――さて……既に魔法塔華院コンツェルン、ひいてはその代表である凸凹飛行隊には話したことであるが。まだ詳しく聞いてはいない諸君には話さねばな……この戦いの、そもそもの始まりを。
サタンはそうして、再び語り始めた。
遊星民は昔この太陽系にやって来た種族であり。
その遊星民は、地球より一足早く知的生命体の文明が発達していた火星と金星に、自分たちの技術である魔法の元になる技術を持ち込み両星の文明を更に加速度的に発達させたが。
それは両文明を技術面から征服しようとしてのことだったため、火星・金星の民らは当然征服を拒否したということを。
更にそれを理由として、彼ら遊星民は武力により両文明を瞬く間に滅ぼしてしまい、両文明の生き残りは対エリヤ諸星同盟を結成し復讐を決意したこと。
だが戦力差は大きく、結果として彼らは敗北し地球にその乗機たる円盤群は不時着した。
その際に地球人たちに魔法の技術をもたらしたが、残念ながらその時は惑星を席巻する技術革新にならなかったため、永いこと眠りについていたこと。
エリヤにはそれでも、尚衰えぬ憎しみを持ったままの彼らだったが、青夢により電賛魔法の根源に接続されたことで、目覚めることができたということ。
凸凹飛行隊に話した全てを、この地球連合軍に対して話していた。
「Well……その事情は分かりましたが、Mr.サタン。一つ、分からない事情が。」
そこで話が切れ、そのタイミングで口を開いたのはデイヴだった。
――ああ、アメリカ代表のソー軍曹だったね。どうぞ。
「Thank you、では。……私たちはバアル・ゼブブとは、魔法根源教の御神体であり。そしてエリヤとは、その根源教のTopたる女教皇から聞かされていた話によれば、宇宙から地球を狙い攻め寄せるという宇宙人たち……と聞いていました。」
――ああ、女教皇にはそう伝えてもらっていたよ。
これには同じように女教皇から聞かされていた、中国代表の鬼苺たちも心中では頷きたい気分である。
「……So、それは我々は嘘を吐かれていたということで。それは何故ですか? より言うなれば、あの凸凹飛行隊が我らアメリカから新兵器を護送する際も、あのヘリ上パーティーの際も、その彼女たちや我々を襲ったのはあの根源教の円盤群。それがエリヤであると嘘を吐いていたのもあなた方ということですが。それは」
――その件については大変申し訳ない限りだ……謝罪する。
「Mr.サタン……」
デイヴも鬼苺たちも、またこの場に同席した者たち全てが拍子抜けしたことに。
サタンはしおらしくも、潔く謝罪した。
――……その上でどうか聞いてほしい。我々が魔法根源教を通じて口で事情を説明したとて、それを皆おいそれと信じただろうか? 失礼だが、我々はそうではないと感じた、だから。根源教騎士団に、エリヤを装い世界中を襲撃させ、対抗するための装備を齎したのだ!
「YES」
「はい」
「はい。」
「是……」
「네……」
「defo……」
「Oui……」
サタンのこの言い分は、完全に地球各勢力の理解を得られるものではないが。
――……いずれにせよ諸君、お願いだ! 考えてみてくれ、失礼だが諸君だけでは戦力が心許ない。私たちバアル・ゼブブだけでも心許ない! ならば……どうか、色々と蟠りを私たちに持っていただいても構わないが、今はどうかエリヤを倒す連合を組み協力してほしい!
「……YES!」
「……はい!!!」
「……はい。」
「……是!」
「……네!」
「……defo!」
「……Oui!」
結局は、サタンの言う通りやむを得ぬ状況ということは火を見るより明らかであり。
これまたサタンの言う通り、その言葉に従うしかない地球の各勢力であった。
――よし……ありがたいお返事だ。ではもう、時間がない。今ある装備で如何にエリヤに対抗するかを考えよう!
サタンはそれに納得するや、話題を変える。
――しかし、気になるのは……かの三段法騎戦艦と同じく、幻獣機の融合による艦体強化の技術が使われた宇宙艦を有する勢力がそれほど多くはないということだ。
「……Yes。」
サタンのこの言葉に、思い当たる節があるのは米欧豪と中韓である。
そう、まさに彼らの勢力は幻獣機の融合を行える法機を持たず。
よって宇宙艦も、幻獣機以外の技術により宇宙仕様に艦体及び推力機関を改造されたものになっている。
「……Well、Please don't worry! 私たちはその分、空宙列車で戦力を補おうと思っているんだ。So、空宙装甲列車や地下鉄空宙列車も……Oops!?」
それに対してデイヴは展望を語るが、地下鉄空宙列車という単語を自ら出してしまったことに気づき、慌てて口を噤む。
そう、地下鉄空宙列車。
他ならぬアメリカのそれは、遊星民たちが基地とする月の裏側に対し極超光量使速飛翔体を発射、着弾させこの戦いの端緒を開いた元凶と呼ぶべきもの。
少なくとも今この地球連合軍各勢力代表たちには、そう感じられるものには違いなかった。
「是……そうですね、元はといえばアメリカ。あなたの国の地下鉄空宙列車が!」
「Well……面目ない……」
そこへここぞとばかり、中国代表の鬼苺が責めようとする。
それはアメリカと並ぶ大国としての絶好の主張のタイミングと考えたのもあるが、何よりVIを巡り地下鉄空宙列車を同じく駆りスパイを送り込んだことがバレないかという不安もあってのことでもあった。
――まあ待ちたまえ! ……それがなくとも。宇宙で戦闘が繰り広げられたことにより、月の裏側に潜んでいた"遊星民"たちが反応したということには変わりない。
「YES」
「はい」
「はい。」
「是……」
「네……」
「defo……」
「Oui……」
しかしそれを、サタンが制する。
が、米中は睨み合うあまり頭が回りきっていなかったが。
元を糺せば、その宇宙で戦闘が繰り広げられたことはサタンがバックについていた魔法根源教の甘言を発端としている。
つまりあのVIを巡る、凸凹飛行隊を巻き込んでの米中宇宙戦争――すなわち、遊星民が反応するきっかけとなった宇宙で戦闘が繰り広げられたこと自体サタンの仕込みである可能性に気付きそうなものなのだが。
「(あの一件は……妻マギーも心当たりがまったくないと言っているし……参ったな。このままではあの第二電使の玉座に潜入したこともバレかねない……)」
「(是……いいわアメリカさん。ここで醜態を晒してくれれば、私たちも第二電使の玉座に潜入したことはバレないで済む……)」
根源教の甘言に乗せられたことは考慮外としても、少なくとも例の潜入をした挙句何の成果も得られずにこそこそと帰ってきた。
互いにそんな後ろめたさのある米中代表の脳内は、それぞれ自国の立場を考えるのみという、非常に虫瞰的な考え方に支配されており。
そもそも当事者たちですらこの有様であり、他の者がろくに事情を知らないとあっては今この場に、鳥瞰的な考えをできる者はいない。
――今はどちらにせよ、やるしかない時だ。幻獣機以外の技術により宇宙仕様に艦体及び推力機関を改造された艦のみ保有の勢力は、ひとまず空宙列車を使うのが良いだろう。
「YES」
「是……」
「네……」
「defo……」
「Oui……」
まさに自分の思う壺とばかり、サタンは米欧豪及び中韓にそう呼びかける。
――まあしかし、だ。今や勢力ごとに分けて考えるのは愚の骨頂。従って、幻獣機による艦体・推力機関強化は保有する三大企業や日本が時間の許す限り技術提供を融通すべきである!
「!?」
「そ、それは……」
サタンはしかし、そうも提案してきた。
――更に。失礼ながら法機という地球の諸君が使う航空戦力では、我らが使う円盤群―― 宙飛ぶ魔法円盤と同等の力を使う遊星民の円盤群と渡り合うに心許ない。よって例の"魔女の黒猫"、あれを保有する魔法塔華院コンツェルンはその技術提供も時間の許す限り他勢力にするように。
「!? は、はあ……しかし。あれはまだ量産できるものでは」
更なるサタンの提案に、マリアナはさすがにこれはとばかりにそう言うが。
――これまでのやり方では量産できるものではない、というだけの話だろう? ならば話は早い、あの三段法騎戦艦を構築した時のように、幻獣機による構築技術を使えば。
「! Well……お願いだ、Ms.魔法塔華院!」
「是、是非私たちにも!」
「は、はあ……」
サタンのこの言葉に米中も乗って来たとあらば、もはや断れないマリアナである。
――……それから。諸君は我々バアル・ゼブブと共に、よくぞ戦う決意をし総力を挙げて準備を今してくれている! ……しかしだ。そもそもエリヤとはやはり技術力の差が埋め難い。少しでもその差を補うために、まだまだ戦力が欲しい。
「はい……」
マリアナはそのサタンの発言に、また慄く。
今度は、何を言うつもりなのかと。
――この場にいないことが悔やまれるが……魔女木青夢。彼女が今抱えているVI化された魔男、または元からVIだった魔男。いざとなれば彼らの力も借りられないか、魔法塔華院マリアナ君一つ交渉してはくれないか?
「!? ……はい、それもまたいいお考えかと……一つ、説得して見せますわ……」
――やってくれるか……ありがたい。
サタンのその言葉に、マリアナは彼からすれば少し意外にも前向きな表情を見せた。
「Ms.Mameki……」
「是、レッドドラゴン……」
一方青夢というキーワードには、少し動揺を隠せない代表たちであった。
かくして、これにて第一回作戦会議はお開きとなる。
◆◇
「魔法塔華院マリアナ……ああ、私の立場じゃ作戦会議なんか参加できないって分かってるけど! 気をつけてよね……私たちが今この三段法騎戦艦に融合させて保護してるVI魔男の人たち、この人たちも使えって言われかねないわ……」
その頃、三段法騎戦艦で青夢は。
第二電使の玉座を艦橋窓から見やり、ヤキモキしていた。
実際に彼女のこの懸念は的中したとも言える。
と、その時。
「もしもし、魔女木の姉ちゃん? 地球から上がって来はったお客さん方が、法機の着艦許可求めてるで。」
「!? 何ですって?」
同艦に乗る赤音が、艦内通信で知らせて来たのだ。
「ああ、そのお客さんてのがやなあ」
「え!? い、飯綱法親子と……や、矢魔道さーん♡……と、お母さんと、クソ親父……?」
その"お客さん"の内訳に、青夢は少し混乱する。
◆◇
「……バアル・ゼブブ様。月裏側より艦影・機影多数! エリヤ遊星民宇宙艦隊、発進の模様!」
――ああ……いよいよか! ……聞こえているかい、地球連合軍各勢力代表諸君!
第一回作戦会議より、更にそこまで日を跨がず。
地球周辺宙域最前線にて月の警戒に当たっていた魔法根源教騎士団の宙飛ぶ人工魔法円盤より、通信が入った。
かくして、地球対エリヤ真・宇宙戦争の幕が上がったのであった――




