#36 龍魔王vs女教皇
「ふふふ……始まったばかりよ! あんたの"死刑"は、ね!」
「何ですって?」
「ん……くっ!?」
女教皇が、そう宣言するや。
「くっ……な、何だいこれは!?」
「ね、姐様これは」
「これは……」
メアリーやミリア、青夢が動揺する現象が起きる。
それは三段法騎戦艦ゴグマゴグを守るエネルギー体が、何やら黒く変色していくと共に。
エネルギー体もそれが覆う三段法騎戦艦も、何やらパワーが落ちていく感覚がするのだ。
「! まさか……さっきのあの攻撃が!?」
青夢はそこで、ふと気づいた。
――hccps://ioanna.srow/GrimoreMark/、セレクト 影の奇術的運命 エグゼキュート!
先ほど女教皇が宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナに命じて展開した、何やら黒いエネルギー弾による弾幕。
それは三段法騎戦艦ゴグマゴグを守るエネルギー体に次々と着弾していったが、それが今エネルギー体表面に波紋のように広がっており、心なしかそれにより妨害されているような感覚がしたのだ。
そう、電賛魔法システムとの接続に対する、妨害を――
「なら……やっぱり仕方ないわね! お願いよメアリーさんに使魔原ミリア! 私は外に行かないとだから、今取り込んだ皆を、守って!」
「え!? おいおい、それって」
「ちょ……きゃっ! ……もう!」
そう考えた青夢は、メアリーとミリアにごく簡素に告げるや。
青夢が念じたことにより、黒客魔レッドドラゴンが艦橋部分より分離する。
「……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! オラクル オブ ザ バージン! hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト 百年戦争の語り部、エグゼキュート!」
「あら……私の黒いエネルギー弾幕が無力化されていくわね!」
そのまま青夢がレッドドラゴンに命じて放った光のシャワーが三段法騎戦艦防御中のエネルギー体に降り注ぎ、たちまちエネルギー体表面に広がっていた黒い波紋は引いていく。
「ふん……まあいいわ! これでようやくあなたと私の法廷になったじゃない!」
「ええ、その通りね……」
そう、三段法騎戦艦ゴグマゴグから黒客魔レッドドラゴンが分離したということは。
その黒客魔レッドドラゴンと、宙飛ぶ法騎型円盤ヨハンナが対峙する空間ができたということである。
「いえ、法廷じゃないわ……これは、刑場よ! ちょうどお誂え向きでしょう? ジャンヌダルク下がりでもあるその龍魔王の器たる、あんたにとっては!」
「そうね。これは私の罪を償うための場……だから感謝するわ、この場を設けていただいてね!」
法騎型円盤ヨハンナと、黒客魔レッドドラゴンから。
互いに通信にて、宣戦を布告する二人であった。
◆◇
「おうい、魔女木さん! あたしらも」
「駄目です! メアリーさんに使魔腹ミリアは三段法騎戦艦ゴグマゴグを下がらせて。」
その黒客魔レッドドラゴンが背後にしている三段法騎戦艦ゴグマゴグからメアリーが言うも、青夢はそれを制する。
「何でよ! 姐様の好意を無碍に」
「それはごめんなさいだけれど! ……今、VIの人たちを抱えてくれている状態なら、あなたたちに一緒に戦わせる訳にはいかないの!」
「……だってさ、ミリア。」
「むう……」
レッドドラゴンよりそう告げる青夢の声に、しかしながらミリアは不満げである。
「後ろを気にしている暇はないわよ! ……hccps://ioanna.srow/、セレクト! 女教皇の選択!」
「お願いよ! ……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!」
「もう仕方ないよね……行くよ、ミリア!」
「姐様もお人よし過ぎます! ……まったく!」
四の五の言っている暇はないとばかりに突撃をかましてきた法騎型円盤ヨハンナを、迎撃するレッドドラゴンから青夢の尚も促す声を受け取り。
メアリーとミリアは、座乗する三段法騎戦艦ゴグマゴグを後退させていく。
「……教皇、恋人、宇宙! hccps://ioanna.srow/GrimoreMark/、セレクト! 慈悲深き教皇の宇宙 エグゼキュート!」
「……hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
その刹那、法騎型円盤ヨハンナと黒客魔レッドドラゴンから術句の詠唱が同時に通信にて響き渡り。
その術句――命令を受けた法騎型円盤ヨハンナからは空間一面に広がる波動が、黒客魔レッドドラゴンからはエネルギー弾幕がそれぞれに展開され。
ヨハンナの波動にレッドドラゴンの弾幕が多数激突し、宇宙にまだらな爆発を描く。
「あらあら、どうしたかしら? このヨハンナにはまったく当たってないけど?」
「当たらなくて別にいいのよ……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://reddragon.sfbsrow/GrimoreMark、セレクト ルーアンの火刑 エグゼキュート!」
「あら……今度はバリア展開?」
女教皇の挑発に対して、青夢は黒客魔レッドドラゴンに命じ。
そのレッドドラゴンは、自身を象った巨大なエネルギー体を纏う。
「バリア――盾じゃないわ、これは矛よ!」
「ふん……私の聖域に!」
青夢は言うが早いか、黒客魔レッドドラゴンを前に進め。
先ほど法騎型円盤ヨハンナが波動を展開し自身のテリトリーとした宙域に、これまた自身が先ほど展開したエネルギー体の右腕を翳す。
さながら女教皇の弁にあった通り、彼女の聖域に触れんとするかのように。
「まあ……そう来ると思っていたわ!」
「くっ……円盤が!」
しかし女教皇は、法騎型円盤ヨハンナを駆り立て。
部下たちの宙飛ぶ人工魔法円盤がそうであったように、縦横無尽に機体を反転させながら黒客魔レッドドラゴンの周りを高速で取り囲むがごとく回る。
「ふふ……hccps://ioanna.srow/、セレクト! 女教皇の選択!」
「また攻撃が来るわね! ……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!」
そんな法騎型円盤ヨハンナから通信により、尚も術句を唱える声が響き。
それを受け青夢も、また黒客魔レッドドラゴンに命じる。
「調整、皇帝、塔! hccps://ioanna.srow/GrimoreMark/、セレクト! 落雷の帝政 エグゼキュート!」
「……hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
そのまま、命令を受け。
法騎型円盤ヨハンナからは無数の雷撃弾が、黒客魔レッドドラゴンからはエネルギー弾幕が展開され。
それらはぶつかり合い、爆発の嵐を二人の戦闘宙域に巻き起こす。
その中でも法騎型円盤ヨハンナが展開した円環上フィールド中央の、その戦闘宙域にのみ爆発は集中し。
黒客魔レッドドラゴンを守るエネルギー体は揺らぎ始め、青夢はその衝撃に怯む。
「きゃっ!」
「ははは、馬鹿ね! 自ら爆発の海を作るなんて!」
「くっ……なら上に離脱するわ!」
ならばと青夢は、黒客魔レッドドラゴンに命じ。
そのドラゴン型上半身に付く双胴法機の下半身尾翼にある電使翼機関から噴流が出て機体を急加速し、宣言通り急上昇せんとする。
「ふん、逃がさないわ! ……hccps://ioanna.srow/GrimoreMark/、セレクト 慈悲深き教皇の宇宙 エグゼキュート!」
「さっきのエネルギーフィールドを上下に展開する気ね!」
が、そうはさせじと女教皇は法騎型円盤ヨハンナに命じ、それにより先ほどの波動が上下にも展開されていく。
「ならこっちも…………hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト 火刑の業火! エグゼキュート!」
「む……こ、これは!?」
だが、そうして領域を広げた法騎型円盤ヨハンナに対抗するがごとく。
かねてから展開されていた黒客魔レッドドラゴンの自身を象ったエネルギー体は膨張し、それはヨハンナが広げた領域まで境界を接し、たかに思えばヨハンナの領域を侵食し打ち破る勢いである。
「く……悔しいけど距離を取るわ!」
女教皇は法騎型円盤ヨハンナを駆り立て、これでは敵わぬと戦闘宙域より少し離脱する。
「あ、あれは何であって?」
「ま、マリアナ様!」
「あの形は……レッドドラゴンか!?」
「げ、猊下……」
「What!?」
「什么!?」
これには他の戦闘宙域で戦っていた凸凹飛行隊や根源教騎士団、米中法機群も思わず戦闘を中止し目を向けるほどであった。
――いいぞ……いい……ぞ……魔女木青夢! さあ……今……だ……!
その機を見逃さなかった者がいる。
それは今法騎型円盤ヨハンナの一部となっている、根源教の御神体たる宙飛ぶ魔法円盤。
そこに座する、女教皇曰く"バアル・ゼブブ"。
その意思を受けたヨハンナの円盤部分には、無数の光のラインが妖しく輝くが、女教皇は気づかなかった――
◆◇
「Beautiful……何なの、あの光は……」
いや、青夢のレッドドラゴンの光を見咎めたのは今戦闘宙域で戦っている者たちだけではない。
第二電使の玉座にデイヴやその部下たちの法機群を、その目眩しのために片や根源教円盤群との戦線に残余の法機群を送り出し。
今はその第二電使の玉座付近で待機している、デイヴの妻マギー率いるアメリカの地下鉄空宙列車。
そこから戦闘宙域を見守っていたそのマギーもだった。
――今……だ……!
「……What? ……Oops!?」
が、その時。
突如脳内に、誰かの言葉がノイズのように走ったかに思えば。
「!? m、Ms.Saur!?」
列車内に残っていた部下も、驚いたことに。
マギーの地下鉄空宙列車のとある一両の屋根部分が、徐に開いたのだ。
それはさながら、かつての空宙列車電磁砲が法機を格納している車両上部の屋根を回転させ。
その飛行甲板たる車両屋根裏側に備え付けられていて、搭載法機下部に位置している溝状のカタパルトにより、同法機を加速し発進させようとする兆候に思われた。
だが、既に地下鉄空宙列車は、発進予定法機は全て出している。
故にこのタイミングで屋根が開くなど――ましてやマギーが命じていないにも関わらず開くなどあり得ない、はずだったのだ。
――……セレクト……デパーチャー オブ、極超光量使速飛翔体! エグゼキュート!
「Hi? ……What!?」
だがまたもマギーが、驚いたことに。
彼女以外の誰かによるその術句により伝えられた命令を受けた、地下鉄空宙列車は。
たちまちその開かれた車両屋根部分より、突然光を放ったかと思えば――
ピカッ
「え……」
「あ、あの光……と、何かの衝突の衝撃……は、まさか……あの月の裏側に!?」
その放たれた光は、月の裏側に着弾し。
そこは今、地球から見える側からも見えるほどに激しく光った。
地球人たちは知る由もないが、これは以前に見られていた光景である。
地球から月へ、ミサイルや光線が撃たれて行く光景。
月の裏側に鎮座している円筒型建造物群の中にある、何やら光のネットワークのような姿をした者たち。
その者たちが共有しているビジョンとしての光景である。
そして今しがたの攻撃は、無論その者たちへ向けられた者だ。
――……ふふふ……ははは! さあ、これからが本物の戦争だよ! "エリヤ"……貴様らと同じ状態になれば幾千年も瞬く間かと思ったが……意外にも永い永い戦いだったよ!
今そう発言し、更に先ほど地下鉄空宙列車に命じ極超光量使速飛翔体を発射させ、月の裏側に鎮座する者たちに牙を剥いた者。
"バアル・ゼブブ"はほくそ笑む。
そして、彼の言う通り。
この月の裏側への着弾が、これからの真の宇宙戦争開始を告げる一番槍となったのだった――




