#30 マゴグと宇宙の戦い/その名はヨハンナ
「うわあああ!」
「逃げ回らなくていいわ、VIの皆さん!」
「是、今楽になるから!」
仮想世界マゴグでは。
それぞれ、法機楊貴妃と江青で飛び回りながら、エネルギー弾と幻惑攻撃で空襲を行う呪華と金東である。
「hccps://yangguifei.wac/、セレクト 甘美な茘枝 エグゼキュート!」
「hccps://jiangqing.wac/、セレクト 王老五 エグゼキュート!」
「うわああ!!」
「Damn! このままでは……」
この状態を物陰から見つつ、デイヴとセーレは歯軋りしていた。
せっかく仮想世界に潜入し、これからVIを空宙都市ルシフェルに移そうという時だったのに、と。
「Yes……ソー軍曹! 私たちも彼女たちと同じく、法機をコンバートしましょう!」
「Well……しかし。ここで中国と事を構えていいのだろうか……」
セーレから反撃を提案され、デイヴも同じ考えながらも。
ここで戦うべきなのかという逡巡があった。
「ソー軍曹! ここで私たちがやらなくては誰がやるんですか!?」
「Yes……そうだね。」
しかし、セーレの目は既に闘志が燃え激っており。
デイヴもそうとなれば止めることはできず、渋々承諾する。
◆◇
「哈哈! このまま行くわよ金東!」
「是……でも呪華、やり過ぎは駄目! このVIたちはあくまで貴重な資源だから!」
「是、分かってる分かってる!」
尚も法機でマゴグのVIたちを追い詰める呪華たちだが。
「……hccps://titania.wac/、Select 取り替え子論争! Execute!」
「!? 什么!」
「是!」
突如として空に暴風が吹き荒れ、法機楊貴妃と江青はコントロールが効きづらくなる。
「ひ、怯まないで呪華! ……セレクト 王老五 エグゼキュート!」
「是、金東! ……セレクト 甘美な茘枝 エグゼキュート!」
そんな中でも、尚地上に攻撃を放つ彼女たちだが。
「…… hccps://giganticmandrake.mna/、Select 風元素! hccps://giganticmandrake.mna/GrimoreMark/、Select 大気防壁 Execute!」
「什么!?」
これまた突如響いた詠唱により、街が空気のクッションに覆われ。
それらの攻撃が、悉く阻まれる。
「Well……Chinaの諸君! この仮想世界で君たちだけ得をしようなどと許さないよ……」
「Yes! ソー軍曹の言う通り!」
「是……什么……アメリカの皆さんとはねえ!」
そうして中国側の法機楊貴妃と江青と対峙するのは。
先ほどの突如の詠唱と共に躍り出て来た、米側の法機ギガンティックマンドレイクとティターニアであった。
◆◇
「(駄目……止めて! デイヴさんたちも、中国の人たちも!)」
この戦いを見守るは。
突如として、他の者たちには認識できない透明な姿でこの世界に強制ログインさせられて来た青夢だった。
「hccps://titania.wac/! Select、初見恋慕! Execute!」
「啊!」
「く……な、何か力がどんどん抜けて行く……」
その間にも法機ティターニアから光線が放たれ、中国法機群は戦意を喪失していく。
「OK! ……hccps://giganticmandrake.mna/、Select 風元素! Execute!」
「啊!」
そこへ法機ギガンティックマンドレイクの大気操作により、暴風雨が襲い。
中国法機群は隊列を乱す。
「な、何ザンスかあれは!?」
「わ、分からないっしょ!」
「な、何じゃあれは!?」
「理解不能……」
「れ、レーヴェブルクさん!」
その時。
青夢の目に飛び込んで来たのは、この仮想世界マゴグの民たち――かつてVIに変えられた者たちの姿だった。
「(!? あ、あれは……かつての魔男の騎士団長の人たち……何で!? ……待って、そう言えば。)」
――hccps://zodiacs.mc/Magog
――!? これは……第二電使の玉座内へのリンク!?
青夢は、先ほどの仮想世界マゴグへ強制ログインさせられた時のことを思い出していた。
そう、ここは第二電使の玉座の中の仮想世界だ。
ならば。
「(そっか……ここにはVI化された彼らを含む人たちがいるのね。でも……何故そんな所に米中の人たちが? ……きゃっ!?)」
青夢が一つ合点しつつ、しかし新たに首を傾げたその時だった。
彼女の身体は突如、宙に浮いたかと思えば。
それは少し地上から離れた宙などというレベルでは済まず、高空を突き抜けて宙は宙でも宇宙にまで浮く。
すると。
「hccps://huster.frs/! セレクト、黒湖の幽閉 エグゼキュート!」
「hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
「hccps://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、凍える炎! hccps://cthugha.frs/GrimoreMark、セレクト 氷の吸血鬼! エグゼキュート!」
「(!? これは)」
その宇宙で見たのは。
度々自分たちを襲ったあの円盤群から、何やら攻撃が放たれ。
「hccps://crowley.wac/、セレクト、アトランダムデッキ!」
「hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト 儚き泡魚雷霆! エグゼキュート!」
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期 Execute!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽 Execute!」
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
それを凸凹飛行隊の宙飛ぶ法機型円盤や、米中の法機たちが迎撃している戦いが繰り広げられていた。
「hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
「hccps://camilla.wsc/! セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
そこから少し離れた宙域で、円盤ツァトゥグアと宙飛ぶ法機型円盤カーミラも激戦を繰り広げていた。
「(ま、魔法塔華院マリアナ! これって……何なの? 仮想世界では米中の法機があって、外の宇宙ではあの異星人たちの円盤と凸凹飛行隊、あとこれはまた米中の法機群も戦いを繰り広げている……?)」
そんな数多の情報が突如として頭に入り、青夢は大いに混乱する。
が、その時。
「(!? きゃ!)」
今度は、先ほどとはうって変わり。
突如として、高速で落下していく感覚を味わい――
「あ、青夢ちゃん青夢ちゃん!」
「ん……あ、かぐやちゃん……」
そうして、青夢が気がつけば。
そこは、上から顔を心配そうに覗き込んでくれているかぐやの顔が目に入る。
彼女は、かぐやに膝枕されていたのだった。
◆◇
「な……第二電使の玉座に、円盤群が!?」
「ええ、そうみたい……」
「青夢……」
青夢は、未だ揚陸艦周囲を直掩する法機ディアナとアラディア、それぞれに対し通信で告げる。
その時。
「た、大変です魔導香様、井使魔様!」
「! この声……魔法塔華院さんのメイドさん! 何かあったんですか?」
真白と黒日に、突如として魔法塔華院家のメイドから緊急入電があった。
「そ、それが……私は今縦浜の別邸にいるのですが、突如として未確認飛行物体――国籍不明の法機に襲撃されていまして……」
「え!? ほ、法機に!?」
それを聞いて、真白も黒日も驚く。
◆◇
「hccps://ioanna.wac/、セレクト! 女教皇の選択! 死! 運命! 恋人!
hccps://ioanna.wac/GrimoreMark/、セレクト 死に愛された運命! エグゼキュート!」
「きゃあ!」
「く……対空防御だ、急げ!」
その縦浜の別邸では。
広大な庭に向け、先述の国籍不明法機から多数の弾幕が浴びせられていた。
そんな混乱の中でも、申し訳程度だが戦闘訓練を受けていた屋敷の使用人たちは、這々の体ながらも何とか持ち場につこうとする。
「無駄よ! ……セレクト! 女教皇の選択! 太陽! 星! 隠者! hccps://ioanna.wac/GrimoreMark/、セレクト 月蝕星蝕 エグゼキュート!」
「きゃああ!!」
「くっ!」
が、そんな所に国籍不明法機は待ったなしとばかりに。
弾幕が止んだかと思えば、次には庭園に伸びる滑走路に何やら攻撃が放たれ。
それは滑走路を、蕩かすように侵食していく。
「……さあ、たまには外をご覧になっていたとはいえ、いつまでも地の底に閉じ込められてご退屈だったでしょう? 今出して差し上げますから。」
国籍不明法機の乗り手は、そう不敵に微笑む。
そう、その滑走路の下には。
あの青夢の法機、ジャンヌダルク――ひいては、その魔王としての姿たる、龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴンが安置されているのだ――
「hccps://circe.wac/」
「hccps://medeia.wac/」
「アセンブリングシザース、エグゼキュート!!」
「あら!? ……ふん、やはり来たわね!」
と、その時だった。
突如国籍不明法機に向けて放たれた二本の火線。
国籍不明法機はすんでで躱すが、その主は無論法機キルケ・メーデイアである。
ということは。
「ええなあ、二人とも! さあ……あたしら皆で行くでえ!」
「ああ、騎士団長!」
「はい!」
やはり、元女男の騎士団の面々であった。
「ふふふ……あら? レーダーが……法機影二機、ですか。これは。」
国籍不明法機の乗り手はそこで、ふとレーダーを見る。
そこに映っている機影とは、無論。
「行こう、黒日!」
「うん、真白!」
法機ディアナとアラディアである。
「ふ……ふふふ! ようやくこれで引き摺り出せるわ、レッドドラゴン! さあこれからがあんたの舞台よ……ゴグとマゴグの民を惑わし、世界に再び戦いを挑み! そのまま、硫黄と炎の中へ投げ込まれて完全に滅びる、その展開の前座となる舞台になるわ!」
国籍不明法機の乗り手は、高らかにそう告げる。
「さあ行きましょう……法機ヨハンナ! この女教皇自らがレッドドラゴンに判決と刑を執行する時は、もうすぐです……」
国籍不明法機、その名はヨハンナ。
そしてその乗り手は、あの魔法根源教の女教皇である。
その姿は普段の王冠を戴く姿とは違い、魔女帽子を思わせる飛行帽とローブ状飛行服を纏った、標準的な魔女の姿だ。
果たして、その思惑通り。
「早く! もっと早くして!」
「あ、青夢ちゃん……」
艦橋から立場も忘れて指示を飛ばす青夢と、彼女やかぐやたちを乗せた船たる揚陸艦。
先行する法機ディアナとアラディアの後を追い、その船も縦浜の港へと向かっていた。
こうして、地上でも戦いが始まりつつあるのだった――




