#29 根源教総力戦と仮想世界マゴグへの道
「あれは……縦浜の別邸を襲った円盤か!」
「あの二つの円盤は、ハワイで襲って来た奴ら!」
突如として襲って来た、新手の円盤群。
その中にどこかで見た円盤たちが潜んでいることを、法使夏や剣人は見逃さなかった。
「久しぶりだなあ、法機クロウリーの奴! あの時はあの忌々しい三段法騎戦艦の砲撃さえなければ勝てていたんだよお! ああ、そうだ。これは雪辱の好機!」
「見て見て、アイ! あれは円盤の形した法機……あのハワイで、私たちが奪われた力よ!」
「力よ! ……ひっどーい! 私たちから奪った力を使うなんてなんて!」
「おや……ここに、あの元女王の法機たちはいないのか! まったく、拍子抜けさせてくれるな……」
スターにボリー姉妹、更にフレイヤも自らの宿敵たる法機群を自然と探していた。
――あなたたち……そうよ! ここにいるのはあなたたちの宿敵たち! 第二電使の玉座さえ破壊しなければ、何をしてもいいわ……さあ、お行きなさい!
「お……おお!! これは猊下のお声!」
「アイ、これは天啓よ! 猊下を介されての!」
「介されての! そうね、ターナ! 私たちこそが、猊下のご意志をを!」
「ええ、猊下のご命令とあらば……御意に!」
そこへ女教皇の言葉が通信により彼らに届いたことで、彼らは更に色めき立つ。
そうして。
「行くぞ、円盤ハスター!」
「クトゥルフ、行くわよ! アイ!」
「行くわよ! 任せてて、ターナ! クティーラ、行っけー!」
「行かないとな、私たちも!」
そのまま、根源教四騎士団のうち三騎士団の円盤群は各自の因縁相手との戦域へと赴いていく。
「猊下……私は、少し顔を潰された想いですよ!」
一方、この作戦を元々任されていたカロアは。
他の騎士団長たちとは違い、女教皇には少し不信感を抱いていた。
実際にそうだとはいえ、自分が率いる円盤群では捌き切れないということか、信用されていないのかと。
「……やはりあなたからは、後でしかと話を聞いておく必要がありますね!」
しかし、その悩みは今すべきことではないと思い直し。
自身も他の騎士団長たちに続けて、円盤群を前に進めていく。
◆◇
「さあ……感動の再会といったところだが! この前の借り、しっかり返させてもらう!」
「縦浜の別邸戦以来だな……円盤野郎!」
宙飛ぶ人工魔法円盤ハスターに乗るスターは。
自らの円盤群を率いて、再び――正確には縦浜戦の時とは形は変わっているが――法機クロウリーに乗る剣人と対峙する。
「hccps://crowley.wac/、セレクト、アトランダムデッキ! 塔――塔破壊雷、エグゼキュート!」
「ふん、お前の攻撃はお見通しなんだよ……hccps://huster.frs/! セレクト、 黄衣王の憑依 エグゼキュート!」
剣人は自身の宙飛ぶ法機型円盤クロウリーに命じ、雷撃を放つが。
スターは即応し、円盤ハスターを液状として攻撃を回避する。
「やはりお見通しか……ならばこれはどうだ! ……セレクト、アトランダムデッキ! 悪魔――氷内の魔、エグゼキュート!」
「ふん、そんなもの……くっ!?」
更にクロウリーから、何やら冷気が放たれ。
液状化した円盤ハスターは、それにより凍らされてしまう。
「それならば、ご自慢の液状化も駄目だろう!? ……セレクト、アトランダムデッキ! 恋人――電使の弓矢、エグゼキュート!」
その隙を逃さず、剣人がクロウリーに命じ無数のエネルギー光矢をハスターに向けて放つ。
「ふん、こんなものただ氷を表面に貼り付けたようなものだ! ……セレクト、黄衣王の憑依 エグゼキュート!」
「な……くそ!」
が、スターは意地とばかりに。
円盤ハスターに命じ、強引にその機体を液状化させて氷漬けを打ち破り。
それにより円盤ハスターは、クロウリーの攻撃を全て受け流してしまう。
◆◇
「そのむかつく形……今すぐ砕いてくれるわ!」
「くれるわ!」
円盤クトゥルフ・クティーラに乗り円盤群を率いて現れたターナ・ボリーとアイ・ボリー姉妹である。
「あら、また会えるとは光栄だわ円盤さん方!」
法使夏も宙飛ぶ法機型円盤ルサールカを駆り、これと対峙する。
そうして。
「hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡! エグゼキュート!」
「は!? ……ぷっ、あーははは! 何やってんのよあんた、ここが宇宙だって忘れたの!?」
ターナが聞こえないと知りつつ、思わず吹き出して煽ったことに。
何と法使夏はルサールカから泡水流を放ち、案の定というべきかそれは宇宙空間の極低温で固まってしまい氷の柱となる。
「忘れたの!? あははは、ほんとターナ! お馬鹿さんだよねあいつ!」
アイも大笑いする。
「これを見て笑う者は次には泣くわ……hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡! hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト 儚き泡魚雷霆! エグゼキュート!」
そんな油断したボリー姉妹の隙を突き、法使夏は更にルサールカに命じて魚雷状の泡水流を放つ。
これも案の定というべきか、宇宙の極低温により氷柱状となるが、飛行能力は維持したまま飛ぶ。
その先は――
「ははは! はいはい、いいわよそんな苦し紛れは! さあ円盤群、奴をやっちゃ……きゃ!?」
「奴をやっちゃ……きゃ!?」
それを尚も嘲笑うボリー姉妹だが、異変はすぐに発生する。
なんと、先ほどの儚き泡魚雷霆が飛来した先はあの泡の氷柱であり。
それは氷柱に激突するや、ぶつかった方ぶつかられた方双方とも表面の氷コーティングが剥がれ。
解放された爆発性の泡が炸裂するや、氷の柱は一瞬で砕けたばかりか。
たちまち気化し、乱気流となりボリー姉妹の円盤群に襲いかかったのである。
それにより円盤群のコントロールは不能となり隊列は乱れ、中には衝突し合って壊れる物たちもあった。
「きゃああ! た、ターナーナ!」
「お、落ち着きなさいアイ! あんな氷の柱が気化しただけの気流なんてたかが知れているわ、今にきっと晴れるから」
「……hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト 儚き泡魚雷霆! エグゼキュート! エグゼキュート! エグゼキュート!」
「くっ!? 法機ルサールカ!」
混乱の中、何とかアイを宥めようとするターナだが。
それを聞きつけた訳でもあるまいが法使夏は、宙飛ぶ法機型円盤ルサールカを気流の下の圏外へと潜り込ませ。
そのまま連発して泡の魚雷を打ち込んでいき、打ち込まれたそれらは互いにぶつかり合うや、先ほどと同じく表面の氷が剥がれ中の爆発性泡沫が解き放たれ。
大小様々な爆発を起こし、さながら水の花火のような様相を呈しながら次々と乱気流を発生させていく。
中には避ける術なく、直接泡の魚雷を喰らってしまった円盤もいくつかあった。
「た、たまやー! かぎやー!」
「行ってる場合じゃないわ、アイ! ふん、こんなもので私たちを追い詰めたと思ったら大間違いよ雷魔法使夏! 見てなさい……アイ、気を確かに持って! こういう時こそ私たちは押し切るの!」
「お、押し切! ……るの、ターナーナ?」
尚も激しい気流に呑まれアイが混乱の極致でも、ターナはしっかりと自我を保っていた。
こうなれば、あれしかない――
「さあ、行くわよアイ! 私についてきなさい! hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「た、ターナーナ! ……え、エグゼキュート!」
「ん!? これは!」
ターナとアイが決死の思いで円盤クトゥルフ・クティーラに命じたことにより、周囲に生じた衝撃波の力場が、一瞬乱気流と拮抗したと思えば。
瞬く間にこれを打ち破り、円盤クトゥルフ・クティーラは収まっていく気流から躍り出る。
「く……もうちょっとだと思ったのに!」
「ふふふ……私たち姉妹を舐めたらいけないのよ!」
「いけないのよ!」
歯軋りする法使夏が乗る宙飛ぶ法機型円盤ルサールカと、何とか体制を立て直し虚勢を張るボリー姉妹が乗る円盤クトゥルフ・クティーラ。
いつかのハワイ近海での戦いのごとく、似たものたちが対峙する。
◆◇
「猊下の前に、君とじっくりやり合えるとは光栄さ現飛行隊長! hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
カロアが円盤ツァトゥグアに命じ、酸の攻撃を放つは。
マリアナが駆る、宙飛ぶ人工魔法円盤カーミラとの戦場だ。
「有象無象はようやく片づいてくれて清正しましてよ……hccps://camilla.wsc/! セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
「ふん……慣れが早いな!」
しかしカロアが放ったその攻撃を、マリアナがエネルギー吸収により何度も躱す。
「さあ、では次に行きましてよ……hccps://camilla.wsc/! セレクト、ファング オブ ザ バンパイア! エグゼキュート!」
「ほう……これは、ハッキング技か!」
そうしてマリアナは、次には攻めの一手とばかりに。
円盤ツァトゥグアへと、ハッキング攻撃を仕掛ける。
「ならこれはどうかな……hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、支配者の胃袋! エグゼキュート!」
「!? こ、これは!?」
が、それに対してカロアが発動させた技により。
マリアナは突如、奇妙な感覚に襲われる。
それは、円盤ツァトゥグアから展開された"闇"だ。
そう、"闇"。
それは、このままこちらを呑み込まんとするかのように広がり、深い黒でとても大きく――
――……しっかり気を持ちなさい、魔法塔華院マリアナ!
「!? きゃっ! ……ふ、ふう。危なかったですわ……」
マリアナはその"闇"に、うっかり呑まれそうになるが、突如として聞こえた声により正気を取り戻す。
「わたくしを虚仮にしようなどと……そうはいきませんわ! ……セレクト、サッキング ブラッド!」
「ん!? く……あれを耐えるとはねえ!」
そのままマリアナは、円盤ツァトゥグアのエネルギーを吸い取ろうとし。
気づいたカロアは、慌てて自機に距離を取らせる。
「わたくしの前に立ちはだかる方々……何人たりとも許しませんわ!」
マリアナはカーミラを駆りそれを追いつつ、高らかに叫ぶ。
◆◇
「私が相手するのはお前たち法機群か……今時円盤じゃあないものは、淘汰されるんだよ!」
翻って、こちらはフレイヤが乗る円盤クトゥグア率いる円盤群が向かった宙域では。
かつて対峙した、真白と黒日の法機群がない代わりというべきか。
目の前に米中の法機群が飛び回るのを鬱陶しげに睨むフレイヤが言う。
「Yes……ケイ、やっちゃいましょ!」
「Yeah……そうね、レフィ! So、中国の皆さんもAre you ready?」
「是……誰に聞いてんの!」
「し、小鬼! ……是、アメリカの皆さん!」
そんなフレイヤが鎮座する円盤クトゥグアを前に、米中の法機群を駆る各国の魔女たちは俄然活気付く。
そして。
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期 Execute!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽 Execute!」
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
米の法機イツパパロトルによる無数の蝶型エネルギー生成とその爆破、法機マヤウェルによる蔦状エネルギー生成とそこからの高エネルギー全方位射撃。
更に中国の法機西王母による法機イツパパロトルと似た斬撃と、法機武則天による広範囲爆破が円盤クトゥグアとその円盤群に向けて放たれ――
「ふふふ……さあ、ようこそ再びの宴へ! hccp://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、エグゼキュート!」
「!? w、What!?」
「什么……ヌ、女夭これは!?」
「是……小鬼、これは」
が、フレイヤが円盤クトゥグアに降したこの命令により、米中の法機群は混乱する。
その中でも鬼苺と女夭は、ふと思い当たることがあった。
そう、この感覚は。
あのヘリ上パーティーから突如、仮想世界に飛ばされた時と同じであり――
◆◇
「ソー軍曹、ソー軍曹! 起きてください。」
「w……Well……ここは……?」
セーレに揺り動かされ、デイヴは目を覚ます。
周囲には、煉瓦造りの建物が立ち並ぶ街の光景が待っていた。
「Yes……ここのようですよ。ここが、この第二電使の玉座内Main Computerの中の仮想世界です!」
「Well……ということは、この街道を歩いている人たちは。」
セーレの推測に、デイヴが更に周りを見渡すと通行人たちがいる。
彼らは、やはりVIなのか――
そうデイヴが感慨に浸りかけた、その時だった。
「!? そ、ソー軍曹! あ、あれは!」
「What? ……o、Oh my god! あれは……法機!?」
突如として街の青空を切り裂くように出現したは二つの影。
それらは今のデイヴの弁にもあったように、二機の法機である。
そう、それらは。
「是……金東! 下に街と、大量のVIが見えるわ!」
「是……さあ、始めましょう呪華!」
デイヴらと同じく潜入していた、中国の魔女たちの法機群である。
◆◇
「いい景色ね……更に仮想世界マゴグ内も私の思うがままになっているわ! となれば、そろそろ仕上げに入らないとねえ……」
翻って、こちらはダークウェブ。
女教皇は目の前に表示されたウインドウから、宇宙で繰り広げられている根源教と凸凹飛行隊に米中の戦いと、それを目眩しとして第二電使の玉座に潜入した米中の動向を窺いほくそ笑んでいた。
「さて……まずは!」
◆◇
「ああ……もう! 宇宙は今どうなってるの?」
「落ち着いてよ、青夢ちゃん!」
その頃、地上に残留した揚陸艦内にいる青夢はというと。
今戦闘中につき混乱のさなかにある宇宙からは、マリアナや法使夏、剣人らも連絡の暇なく、そのために情報を得られずに苛立ち個室内をウロウロしていた。
と、その時である。
「……!? うっ!」
「!? あ、青夢ちゃん!?」
青夢は突如、大きな頭痛に見舞われる。
近くのかぐやも、心配な様子だ。
すると。
hccps://zodiacs.mc/Magog
「!? これは……第二電使の玉座内へのリンク!?」
「え、え??」
青夢は混乱しながらも急に頭に浮かび上がったそのリンクの文面から、内容を必死に読み取る。
そうして。
「hccps://zodiacs.mc/Magog、セレクト ログイン! エグゼキュート!」
「あ、青夢ちゃん!?」
青夢は思い立ち、術句を唱え――
◆◇
「hccps://yangguifei.wac/、セレクト 甘美な茘枝 エグゼキュート!」
「!? ひ、ひいい!」
その頃、仮想世界マゴグでは。
デイヴも住民であるVIたちも驚く間もなく、金東の法機楊貴妃が放つ蔦型のエネルギー体よりライチ型のエネルギー弾多数が落下し、街を破壊し。
それにより震え上がったVIたちは、建物の外に出て来る。
そこへ。
「hccps://jiangqing.wac/、セレクト 王老五 エグゼキュート!」
「!? な、何だこれは!」
呪華の法機江青が、彼らを幻惑攻撃で惑わす。
それによりVIたちは、その場にうずくまる。
「Well……法機をコンバートしたのか!」
爆撃で同じく怯みながらも、デイヴは状況を冷静に判断していた。
――な、何これ……何なの!?
いや、デイヴだけではない。
この場にいる誰にも、今ここにいることを認知されていない"透明人間"のようになっている存在がいて、彼女も状況を判断しつつあった。
それは、青夢である――




