#28 第二電使の玉座潜入作戦
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select ジャガーの鉤爪 Execute!」
「くっ! "空飛ぶ"ならぬ"宙飛ぶ"になっただけのただの法機と思ったが……こいつらはこいつらで厄介だねえ!」
ケイが駆る法機イツパパロトルから放たれる斬撃を、乗る円盤ツァトゥグアに回避させながら、カロアは歯軋りしている。
そのケイが元来、自分が今近くにしている第二電使の玉座への彼女たちの潜入を助けるという"作戦上は"味方だった筈だというのだから、中々に気が引ける状況ではある。
いや、ケイだけではない。
「hccps://mayahuel.wac/! Select、リュウゼツランの酩酊! Execute!」
「おおっと!? くっ……これは!?」
ケイと共に米軍法機として出撃したレフィのマヤウェルからも、錯乱のためのジャミング波動が放たれ。
それを受けたカロアの円盤群は、混乱状態になる。
いや、ケイとレフィという米軍メンバーだけではない。
同じ第二電使の玉座への潜入をカロアにより手助けされるという"作戦上は"味方だった筈の中国軍メンバー、鬼苺と女夭もまた然り。
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
「こちらからもか! ……く!」
鬼苺の法機西王母が放つ、法機イツパパロトルと似た斬撃と、女夭の法機武則天が放つ広範囲爆破もまた、カロアの円盤群をじわじわと追い詰めていく。
もっとも、第二電使の玉座への潜入をカロアにより手助けされるという"作戦"については、あくまでカロアだけが認識している。
それはどういうことかと言われれば。
「(Yes……ソー軍曹があの魔法根源教の女教皇という人から聞いた通り!)」
「(So! あの第二電使の玉座は円盤群に近々襲われるから)」
「(是! その時が潜入のチャンスだって!)」
「(是……あの"エリヤ"、"遊星民"と呼ばれる宇宙人の円盤群が来た時が……)」
そう、ケイたちと鬼苺たち――米中共にあの女教皇からは、あくまであの円盤群は宇宙人の一味であり、近々彼らが襲撃の隙を突けと聞かされているのである。
――あのHigh Priestessが言ってくれた通りだ……あれが"エリヤ"、"遊星民"と呼ばれる奴らなんだ……
それはケイたちの上司たるデイヴがかつてこう述懐した通り、あくまで"エリヤ"、"遊星民"と呼ばれる奴らの戦力、ということになっているのだ。
「マリアナ様!」
「ええ、雷魔さん。」
そうやって米中の法機群がカロアの円盤を追い詰めている戦域より、少し離れた所で凸凹飛行隊は。
カーミラ・クロウリー・ルサールカの宙飛ぶ法機型円盤三機を合流させる。
「これはどういうことであって?」
「あ、はい……あの米中の法機群はどちらとも、各国毎の空宙都市から私たちのこの有様を見て救援に来てくれたと。」
「! 彼女たちがそう言ってくれたのであって?」
「ああ、確かにこの耳で聞いた。だが……鵜呑みにするのは。」
そこから通信を介してマリアナ・法使夏・剣人は会議をする。
彼ら全員とも、米中の思惑について図りかね困惑していた。
「ええ、そうであってよね……むしろ。」
――……新天新地計画を立ち上げることを、ここに宣言いたします!
「(返す返すもあれだけ大胆にアピールしてしまってよ。だから何らかの妨害が入ってもおかしくはないと踏んだのだけれど……むしろ助けてくださる? それは何かおかしくってよね……)」
ましてマリアナは自分であのパーティーで新天新地計画を発表した以上、むしろ米中は自分たちを妨害しに来ると警戒していただけあって、この状況はまるで真逆ではないかと訝しみもひとしおである。
「……俺たちと共闘するふりをして、あの偽宇宙人たちと共謀して逆に俺たちを嵌めるつもりとも考えられるんじゃないか?」
「なるほど……それはごもっともであってよね。」
マリアナは剣人の言葉には一理あるとしながらも、ふとまた戦域に目を向ける。
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期 Execute!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽 Execute!」
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wac/、セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
今尚、米中の法機群が円盤群を全滅させかねない勢いで戦場を駆けている。
「……よくってよ、もしその通りとしても! ならば、わたくしたちも戦列に加わり。こちらを襲おうにもできないくらいに、減らして差し上げなくっては!」
「は、はいマリアナ様!」
マリアナはそれを見て、覚悟を決めた。
ならば、そんな暇を与えぬほどに暴れてみせようと、自身の宙飛ぶ法機型円盤カーミラを駆り戦域へと向かう。
「あ、ああそうだな……」
マリアナを追って自身も宙飛ぶ法機型円盤を駆る法使夏と剣人だが、その直前に彼はちらりと後ろの第二電使の玉座を振り返る。
そこには先ほど搭載法機を発進させ、役目を終えたであろう米中の地下鉄空宙列車各一編成が左右脇につけられていた。
「(まさかあれは陽動で、実は第二電使の玉座内部が本命だったとか……? いや、だとしたら何故……)」
「何してんの方幻術! マリアナ様に遅れ取らないで!」
「あ……ああ……」
そんな懸念が浮かんだ剣人だったが、その場合の米中の思惑が掴めず。
結局は法使夏に促されるがままに、自身の宙飛ぶ法機型円盤クロウリーを進めて戦域へと向かう。
◆◇
「急ぎましょう、ソー軍曹!」
「y、YES!」
第二電使の玉座内にて。
凸凹飛行隊のメンバーが皆出払っているために彼ら以外は無人のここは、暗闇の中である。
潜入したデイヴとセーレは、中を進んでいた。
急に救援に来た米中の法機群の真意を訝しみながらも、凸凹飛行隊は誰一人として――敢えて言うならば剣人の頭を一瞬その可能性が翳めた程度――彼らがここへ潜入しているなどとは想定できていなかった。
「Yes……この衛星内のMain Computerを早く見つけましょう、ソー軍曹!」
「Well……そうだね。私たちはそこからVIを空宙都市に。」
今しがたデイヴとセーレの弁にもあったように、彼らの目的がこの衛星内メイン電賛機に眠るVIたちの確保だとは凸凹飛行隊も知らないのだから当然のことである。
皮肉にも、マリアナらが外を防衛するために導入した宙飛ぶ法機型円盤という新システムは、この中への攻撃という事態をまるで想定外にしてしまうきっかけになったと言えよう。
「ソー軍曹……ありました! これがMain Computerですね!」
「Yes……その通りだよ!」
何はともあれ、彼らは苦もなく第二電使の玉座コントロールルームへとたどり着いた。
ここに、彼らの言う衛星内メイン電賛機があるのだ。
「このMain Computerにログインした後、私たちの空宙都市ルシフェルと通信を繋げて、中に眠るVIたちを移すんだ……Yes! それこそ、今回の作戦の最重要事項なんだ。」
デイヴはそう、高らかに宣言する。
「不是! まずいわ呪華。またアメリカに先を」
「是……でも金東、焦らないで。アメリカがログインした後でもいい、とにかく今ここで焦ってアメリカ連中と鉢合わせすることだけは避けないと。」
「是……そうね。」
そんな彼らを物陰から見るのは、彼らと同じく潜入した中国の呪華、金東であった。
「是……なら待つわ。アメリカの連中があのメイン電賛機内仮想世界にログインするまで。」
彼女たちはその物陰から、隙を虎視眈々と窺っていたのである。
「Well……さあ、カバーを開いた! この中にあるConnecterこそ、このMain Computerに有線接続できるPointだよシンドラー二等兵!」
「Yes、ソー軍曹!」
そうする間にも、デイヴは鍵がかかっていた電賛機のカバーを開けてコネクターを露わにするや。
そこへ、持ち込んできたヘッドギアから伸びているコードを接続し、そのヘッドギアをデイヴもセーレも頭につける。
すると。
hccps://zodiacs.mc/Magog
「! ソー軍曹……これは?」
「Well……これこそ、このMain Computer内仮想世界へのリンクだよ。」
彼らの頭に浮かんだ、一つのリンク。
それはまさに、これからその仮想世界へと行こうとする彼らにとっての道だった。
◆◇
「本日、平和也……」
「ええ、本当ですねレーヴェブルクさん……」
とある中世西洋風の街並み。
その中を歩くは、何とあの元虎男の騎士団であった、虎猫を抱えるアルシン・リオルとアスラン・レーヴェブルクだ。
「馬があるぞ!」
「こっちは牛があるザンス!」
その街で商売を行うこちらは、元馬男の騎士団長ゲイリー・チャットと元牛男の騎士団長ジャード・ボーンである。
「魚屋っしょ! よってくっしょ!」
こちらは元魚男の騎士団長オーブ・ホスピアーだ。
「ワオオン! そっちのクソカマがやったんだ!」
「く、クソカマですってえ!? な、何よ何よ、あんたでしょ遠吠え野郎!」
犬を連れた者と、手乗り文鳥を連れた者が諍いを起こしていた。
犬の方は元狼男の騎士団長ウィズ・ウルグルと、手乗り文鳥の方は元鳥男の騎士団長タンガ・サロであった。
かつてVIと化した者たちが暮らす仮想世界。
こここそが米中の潜入しようとしている世界、マゴグである。
◆◇
「hccps://camilla.wac/! セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト、アトランダムデッキ! 戦車――戦車斬突撃、エグゼキュート!」
「この……くっ!」
再び、第二電使の玉座近辺の戦闘宙域では。
先ほど戦列に宙飛ぶ法機型円盤ルサールカやクロウリーが加わったことにより、その攻撃で更にカロアの円盤群は追い詰められていた。
「く……どいつもこいつも!」
カロアは円盤群をジリジリと後退させながら敵方を睨む。
凸凹飛行隊の宙飛ぶ法機型円盤を相手取るのは当初の予定通りなのでまだしも、やはり事情を知らないとはいえ、本来ならば味方の米中の法機群まで相手取らければならないのは中々心に堪える上に煩わしいことこの上なかった。
このままでは――
「hccps://huster.frs/! セレクト、黒湖の幽閉 エグゼキュート!」
「hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
「hccps://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、凍える炎! hccps://cthugha.frs/GrimoreMark、セレクト 氷の吸血鬼! エグゼキュート!」
「!? これは」
が、その時だった。
「な、何ですの!?」
「これは!?」
「ま、マリアナ様!」
「Oops!!」
「什么!?」
突然に明後日の方角より多数の攻撃を受けたのは、今度は凸凹飛行隊や米中の法機群の方だった。
その攻撃が何者からのものなのか、もはや言うまでもなかろう。
「カロア……まったく、何だこの体たらくは!」
「本当に!」
「本当に!」
「もう、情け無いな!」
「ああ、まったく……君たちが、わざわざ恩着せがましくも助けに来てくれたかい。」
自身に通信を介して向けられた言葉に、カロアが軽口で応えた相手は。
スターにボリー姉妹、フレイヤら根源教騎士団の円盤群だった。
◆◇
「申し訳ないわね、カロア。まさか米中が目眩しのためとはいえ、凸凹飛行隊に加勢するとは想定外だったから全軍投入させてもらったわ。……これで大丈夫でしょう?」
この様子をダークウェブに鎮座し見守る女教皇は、ニコリと微笑む。
「さあ、宇宙はこんなもので。後は……地上の、魔女木青夢ね……!」
しかし女教皇は、次に地上へと憎悪の目を向けたのだった――




