#27 米中の思惑
「Damn……噂には聞いていたけれど!」
「So……これは厄介ね!」
宙飛ぶ法機型円盤となったクロウリーとルサールカにより、その上下左右と機体を反転させた動きで翻弄され。
ケイとレフィはそれぞれ自機たる法機イツパパロトルと法機マヤウェルを駆ろうとするが、すっかり二機の宙飛ぶ法機型円盤に遅れを取ってしまった彼女たちは、彼ら二機により囲まれてしまった。
「け、ケイ……」
「レフィ! 気を確かに持ちなさい。こんな所で私たちは、やられはしないわ!」
しかしケイは怯えるレフィを宥めつつ、自分たちの法機を取り囲む宙飛ぶ法機型円盤たちを睨む。
そうだ、こんなところで――
ところが。
「……アメリカの法機群! こちら凸凹飛行隊隊員方幻術剣人だ。可能ならば、あなたたちに聞きたいことがある!」
「……What do you mean(何ですって)?」
彼女たちには予想外なことに、剣人がそう呼びかけて来たのだった。
「それは……あなたたちの目的は何かということだ! より踏み込んだ言い方ならば、あなたたちは何故俺たちを襲撃した? まさかとは思うが……あの円盤群に乗っている奴らと示し合わせてのことか?」
「……What!?」
しかし剣人が続けて発した言葉は、更にケイとレフィを困惑させた。
いや、これは厳密に言えば部分的には的を射ている推察だった。
的確なのは、円盤群に乗っている奴ら――魔法根源教に唆されて今回の襲撃を行ったという点。
的外れなのは、その魔法根源教と円盤群の関係をアメリカ軍の連中は知らない――より厳密には、あの円盤群は宇宙人勢力の戦力だと本気で思っているという点だ。
「し、襲撃!? ……HAHAHA、No! 何をおっしゃるのかしら? 私たちは、母国アメリカの空宙都市ルシフェルから、あなたたちが円盤で襲われている姿を確認し、救援のために来たのよ!」
「s、So!」
「……そ、そうか。」
当然心当たりがないケイたちは、さりとて本来の目的を話す訳にも行かず。
咄嗟に出たそのケイの方便に、レフィも乗っかる。
「ちょっと方幻術! あの人たちの言うことを信じるの?」
「! いや、雷魔。それは……」
そんな彼女たちの法機群周りを、自分たちが乗る宙飛ぶ法機型円盤で尚も高速で周回しながら、法使夏は通信を通して剣人を諌める。
剣人も先ほどのケイたちの言葉にはついつい納得してみたものの、確かに信じていいものかどうか疑う気持ちがあり、考え込む。
ケイたちの言う通りならば、何故彼女たちは先ほどまで乗っていた地下鉄空宙列車を隠し、この第二電使の玉座にギリギリまで接近したところで姿を現したのか。
単に助太刀する目的で来てくれたならば、より早いタイミングで姿を現してくれてもいいはずだが――
「くっ!?」
「!? ま、マリアナ様!」
「! ま、魔法塔華院! くっ……」
が、考える暇はないとばかり。
今円盤群に単身戦いを挑んでいるマリアナの悲鳴が、通信を介して聞こえて来たのだった。
◆◇
「ああ、これは数の暴力と言われても仕方ないが……どうだい!?」
「くっ……」
再び、宙飛ぶ人工魔法円盤ツァトゥグア率いるその円盤群と宙飛ぶ法機型円盤カーミラが相対する戦場となっている宙域であるが。
「まったく、有象無象がやかましくってよ! hccps://camilla.wsc/! セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
「無駄だよ、同じ手は通用しない!」
「くっ! この……厄介ですわね!」
マリアナは尚も宙飛ぶ法機型円盤カーミラを駆り、如何にも物量戦といった雰囲気で迫り来る円盤群から高速で飛び回りエネルギーを奪おうとするが。
そもそも同じ――というよりオリジナルたる技術が使われている円盤群も高速で動き回れるため、その攻めも躱されてしまい。
「ふふふ……hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
「きゃあ! く……」
円盤ツァトゥグアの攻撃を喰らいかけて躱すも、かろうじてといった形であった。
先ほどまで優勢であったマリアナも、緒戦でエネルギーを奪いダウンしていた円盤群が復活しカロアに差し向けられてしまうや形勢逆転されてしまい。
今この有様という訳である。
「ああ、フレイヤ。確かに君の気持ちは分かるよ……やはり、正体を隠すべく君たちには無言を貫かなければならないというのはもどかしいなあ!」
円盤ツァトゥグアからその様子を眺めながら、カロアは笑う。
今彼女の弁にあった通り、表向きは正体を隠し宇宙人の勢力として振る舞わねばならないため、挑発一つ敵に対してできないというのは中々もどかしい。
「……しかし、猊下。私には分かりますよ、あなたはまだ全てをお話になってはくれていないと。」
が、カロアがそこでふと思い浮かべたのは自分の主人から本作戦における命令を受けた時のこと。
――ご不満でしょうけれどカロア、あなたには。今回アメリカと中国、それぞれがあの第二電使の玉座に乗り込む任務の囮役を担ってもらいたいのです!
「……別に、猊下より与えられたとあらばどんな役でもこのカロア、全ういたしますよ。ただ……やはり、その作戦におけるあなた様の思われる所をご説明いただけないというのはいい気持ちが致しませんね!」
カロアは誰に聞かせるでもなく、不満を漏らす。
そう、女教皇からは作戦内容は聞きながらも、どんな意図があって米中を第二電使の玉座に手引きするのかは詳しくは聞かされていなかったのだ。
「あの魔女木青夢という女への嫌がらせということは察しがつきますが……本当にそれだけですか?」
またもカロアは、誰に聞かせるでもなくそう言う。
「……まあいいか。このまま掻き回して、あの米中の連中を」
しかし気を取り直し、カロアが円盤ツァトゥグアからまたも攻撃を放とうとしたその時であった。
「hccps://crowley.wsc/、セレクト、アトランダムデッキ! 運命――運命の弾丸! エグゼキュート!」
「ぐっ、十一時の方向から敵弾が!? これは……第二電使の玉座で控えていた連中か!」
「マリアナ様、助けに来ました!」
「あら雷魔さんにミスター方幻術!」
突如として放たれて来た弾幕は、言うまでもなくマリアナに加勢せんと飛来した宙飛ぶ法機型円盤クロウリーからのもの。
いや、それだけではなく。
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期 Execute!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽 Execute!」
「な……何だあいつら、私たちにまで!」
カロアが驚いたことに。
法機イツパパロトルによる無数の蝶型エネルギー生成とその爆破、法機マヤウェルによる蔦状エネルギー生成とそこからの高エネルギー全方位射撃により。
円盤群が打ち負かされていく。
くそ、あいつら味方にまで――
と、カロアが考えかけたところで。
「いけないいけない、私としたことが……あいつらにも私たちの正体は内緒だった。なるほどあいつらめ、まだ第二電使の玉座近辺にはあの法機クロウリーとルサールカがいたものだから、そいつらを更に引き剥がすために味方のふりをしたというところかな……?」
冷静に分析し直し、気を整える。
正直いい気持ちはしないが、流れとしてはやむを得まい。
「……ならば、相手してやろう! アメリカ軍も凸凹飛行隊も!」
「hccps://xiwangmu.wsc/! セレクト 、金方白虎咆哮、エグゼキュート!」
「hccps://wuzetian.wsc/! セレクト 武周建国 エグゼキュート!」
「な!? ……そうか、米がとなれば、中国もだよな!」
どうにか気を取り直したカロアだが、そこへ鬼苺の法機西王母による衝撃波と女夭の法機武則天の爆破攻撃が襲った。
◆◇
「是……なるほど。中々いい言い訳だわ、アメリカの連中の言い分は!」
「し、小鬼!」
時は少し前に遡る。
こちらはアメリカと同じく尚も地下鉄空宙列車で第二電使の玉座に接近中である、麻鬼苺に率いられる中国勢であるが。
アメリカに先を越される形となり、第二電使の玉座付近まで来たというのにそこから攻めあぐね、途方にくれていた。
しかし。
――あなたたちの目的は何かということだ! より踏み込んだ言い方ならば、あなたたちは何故俺たちを襲撃した? まさかとは思うが……あの円盤群に乗っている奴らと示し合わせてのことか?
――し、襲撃!? ……HAHAHA、No! 何をおっしゃるのかしら? 私たちは、母国アメリカの空宙都市ルシフェルから、あなたたちが円盤で襲われている姿を確認し、救援のために来たのよ!
「ちょうどいいわ……私たちもこの路線で行きましょう!」
「小鬼……」
今、鬼苺は先ほどのケイ・レフィと剣人の通信内容を傍受しており、それを受けて策を思いついていた。
「私と女夭がアメリカと同じく、法機であの凸凹飛行隊に加勢するわ! だから呪華と金東は法機で出た後、あの第二電使の玉座に乗り込んで!」
「是!!」
鬼苺はそうして、この部隊の女性隊員たる文呪華と成金東に指示を出す。
かつてQUBIT SILVERのマイニングレースにおける、中国アポストロス代表メンバーである。
「然后……ニマ・ギャツォ。あんたはこの地下鉄空宙列車で留守番していなさい! いいわね?」
「是……」
いや、代表メンバーのみならず。
あの少数民族トバラ族の少女たる、ニマもいた。
◆◇
「ええと……あ、アメリカ軍や中国軍の法機さんたちまで、一体どうされたのであって?」
「いや、魔法塔華院。中国の方は分からないがアメリカの人たちは」
「Yes! 空宙都市ルシフェルから戦いが起こっていることを見て救援に来ましたわ!」
「s、So!」
「是! 私たちも空宙衛星座都市明星から戦いを見て来ました!」
「そ、そうなんです!」
こうして、今。
図らずも魔法根源教の円盤群を相手に、凸凹飛行隊とアメリカ・中国が共闘することになった。
◆◇
「そ、ソー軍曹!」
「Well……大丈夫だよシンドラー二等兵! 無事に潜入できたようだ。」
「y、Yes!」
片や、第二電使の玉座内部では。
結局凸凹飛行隊が外の様々な囮に気を取られている間、光学迷彩の魔法で透明化したまま第二電使の玉座のドッキングポイントに到達した法機ギガンティックマンドレイクから、デイヴとセーレが侵入を果たしていた。
いや、それだけでなく。
「是……そろそろ着くよ、呪華!」
「是! 金東!」
それぞれの法機にて同じく、呪華と金東はドッキングポイントに到達しつつあった。
◆◇
「いいわ、皆よくやってくれている……さあて。」
この状況をダークウェブで見ていたのは、やはりあの女教皇である。
「そろそろ私自ら動こうかしら? ……ねえ、私の可愛い法機ちゃん?」
女教皇がそう言って振り返った先には。
何と、法機が一機あった――




