#26 宇宙戦開始
「さあ……かかって来なさい!」
「はは……確かに気に障らないこともない連中だね、凸凹飛行隊というのは!」
マリアナが自機たる法機カーミラと、支援機たる空飛ぶ円盤型法機――通称・魔女の黒猫、その二つを合体させたのが円盤から法機期首が飛び出た形をした法機・宙飛ぶ法機型円盤。
その姿は奇しくも(正確には偶然ではなく)、突出した機首という特徴を除けば、その相手たる円盤ツァトゥグアと瓜二つだった。
「ハワイでボリー姉妹が奪われた、我々の宙飛ぶ人工魔法円盤技術! それが今、こうして私に向けられている! ああいいねえ、この上なくいいねえ!」
円盤ツァトゥグアを上下反転させつつ高速で発進させながら、カロアはそう言う。
「動き出してくれてよね……ならばこちらも行きますわ!」
「ふん……やはりそう動くか!」
マリアナもそんなカロアの円盤の動きをなぞるように、今や円盤型となったカーミラを動かす。
「hccps://tsathoggua.frs/! セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
「hccps://camilla.wac/! セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
カロアが命じるままに円盤ツァトゥグアが放った腐食エネルギー弾を、宙飛ぶ法機型円盤カーミラは見た形のごとく、上下左右と反転させて躱しつつその力で無力化する。
それは先ほどのカロアの弁にもあった、ハワイで法使夏やミリアが自身の法機で見せた法機らしからぬ動きと同じであった。
「ふん、実際に相対するのは初めてだが……これは予想以上に厄介だな! 円盤群よ、もう回復はできているだろう? 多対一とは気の毒だが、今はこちらも全力で行かせてもらおう!」
「あら……他の円盤群も動き出されてよ!」
カロアの埒が明かないとばかりの命令に応じ、彼女に率いられる円盤群も動き出す。
たちまち円盤群は、一斉に宙飛ぶ法機型円盤カーミラめがけ襲いかかる。
◆◇
「くそ……魔法塔華院の法機にあんなに!」
第二電使の玉座底部にて作業をしつつ、その様子を遠目に見ていた法使夏と剣人だが。
「マリアナ様!」
「雷魔……法機後部パーツを第二電使の玉座の底部に係留だ! 俺たちの法機もすぐに出られるように」
「分かってるわよ方幻術! 今やってる最中!」
その間にも、今しがた剣人の弁にもあったように。
法機後部に接続しているブースターと運搬部を兼ねた円筒状パーツから、ワイヤーを射出して第二電使の玉座の底部にそれを係留する。
が、その時だ。
「hccps://giganticmandrake.mna/、Select 風元素! hccps://giganticmandrake.mna/GrimoreMark/、Select 宵闇の大気 Execute!」
「!? え……な、何この声?」
「な、ナイトエアだと?」
突如として、通信を介して響いて来た声に剣人たちは戸惑う。
宵闇の大気。
かつて、現在の空宙都市ルシフェルの前身たる空宙都市エルドラドが敵に乗っ取られた際。
その奪還戦において、デイヴが愛機たる法機シルフィが使用したグリモアマークレットによる魔法。
凸凹飛行隊との共同戦線を組んだがそれに当たりデイヴが彼女たちと同乗していた空宙列車たる、空宙列車電磁砲を敵の目から隠すために使った目眩しの魔法だ。
そう、空宙列車を敵の目から隠すために使った目眩しの魔法――
「!? あれは……空宙列車!?」
果たして、そんな心当たりを法使夏・剣人が抱いているうちに。
第二電使の玉座付近の衛星軌道上、いや正確には衛星軌道下をさながら懸垂式モノレールのように移動する空宙列車が、黒い霧が晴れるようにして先頭車両部分から姿を現した。
「Yes……凸凹飛行隊の皆さん、お久しぶり! この地下鉄空宙列車もお相手します……」
その空宙列車では、そこに乗り込む部隊の指揮官たるマギーがそう宣言する。
今彼女の弁にもあった、地下鉄空宙列車。
今現れた衛星軌道下をさながら懸垂式モノレールのように移動する空宙列車である。
その形状は同じく戦闘用の空宙列車であっても。
捲れるようにして機体上部を起こし、その起こされた上部が砲身を形作る空宙列車砲や、大砲や発射管を多数備えた装甲の施された空宙列車・空宙装甲列車と比べると。
むしろそれは武装が見当たらない、空宙列車電磁砲に似た列車そのままな形状である。
「ナイトエアということは……あれは、アメリカの強力な法機群か! アメリカが、あの円盤群襲来のタイミングで襲来……く……これは偶然か!?」
先ほどから頭を駆け巡る多くの情報に、剣人も法使夏も混乱する。
あの円盤群が、当初からの推測通り宇宙人の戦力だとすればアメリカの襲来とタイミングが遭ったのはただの偶然だろう。
だが、あのヘリ上パーティーが襲撃された折に飛行隊内で出た一つの仮説もある。
それはその敵が宇宙人を装った、電賛魔法システムを使う地球上の勢力だという仮説。
それが正しいとすれば、アメリカとあの円盤群は示し合わせてこの襲撃を――
そう剣人は考えるが、相手も待ったなしとばかりに。
「Well……さああなたたち、Go!」
「Yes,Boss!!」
マギーが同じく列車に乗り込んでいる部下、ケイ・O・サーストとレフィ・T・H・ピアーズに命じる。
すると地下鉄空宙列車は、先述の通りの空宙列車電磁砲類似の形状に違わずその能力まで同列車に類似しており、今法機を格納している車両二両の上部の屋根を回転させ。
「hccps://itzpapalotl.wac/!」
「hccps://mayahuel.wac/!」
「セレクト、デパーチャー オブ 宙飛ぶ法機!! エグゼキュート!!」
裏を顕にし、その飛行甲板たる車両屋根に備え付けられていて今それぞれの同機下部に位置している溝状のカタパルトにより加速され空宙列車を発艦する。
「あれは……空宙列車から法機が!?」
「……戦場は待ってくれないということらしいな。」
その光景に法使夏と剣人は、腹を括る。
そうして。
「……セレクト、デパーチャー オブ 空飛ぶ円盤型法機!! エグゼキュート!!」
やはり各尾部パーツよりそれぞれに一つの円盤――空飛ぶ円盤型法機が踊り出る。
「……××××××@ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト、コネクティング!! ダウンロード 電使翼機関、エグゼキュート!!」
続いて剣人と法使夏は、各愛機たる法機の動力源を電使翼機関に変え、そこからエネルギーを噴射し破壊されていた尾部を切り離して素早く移動する。
「さあ空飛ぶ円盤型法機……セレクト!! フォーミング 空飛ぶ円盤型法機 着脱式魔法円盤シェイプ、エグゼキュート!!」
そうして、更に剣人と法使夏に命じられた空飛ぶ円盤型法機は機首を引っ込め、かつて機首に占められていた部分は法機一機が接続できるスペースを空けた円盤型の法機着脱式パーツ、着脱式魔法円盤となる。
「さあ行くわよ法機ルサールカ!」
「行くぞ、法機クロウリー!」
「空飛ぶ円盤型法機!! セレクト コーレシング トゥギャザー!!」
これまた彼らが命じるままに、その搭乗している法機たちはそれぞれ着脱式魔法円盤は前後に並ぶ。
そうして各着脱式魔法円盤のかつて機首が突き出ていたが引っ込んだことで空いたスペースに、法機ルサールカ、クロウリーはやはりそれぞれ吸い込まれるかのように接続する。
そうして法機二機は、先にそうなったカーミラと同じく、宙飛ぶ法機型円盤の姿となる。
「さあ、行くぞ雷魔!」
「言われなくてもいいって言ってるでしょ!」
そうして宙飛ぶ法機型円盤となったクロウリーとルサールカを駆る剣人たちは、俄然活気づき。
「Damn!? 何よこれ!」
「So……法機の動きじゃないわこれ!」
ケイとレフィが驚いたことに、手始めに高速接近しつつ上下左右と機体を反転させた動きで彼女たちを翻弄する。
しかし、剣人たちが気づいていないことがあった。
――Select 宵闇の大気 Execute!
思い出してほしい、この術句が唱えられた時の状況を。
これが唱えられるや、アメリカの新式空宙列車である地下鉄空宙列車が姿を現したことを。
そう、姿を現した。
件の宵闇の大気は、かつて空宙列車電磁砲を敵の目から隠すために使った目眩しの魔法であるにも関わらず、である。
◆◇
「Yes……ソー軍曹、凸凹飛行隊は私たちの陽動に引っかかってくれたようです!」
「Well! ああ、そうだな!」
その原因はこういうことである。
今会話をしているのは、デイヴと、彼の部下たるセーレ・M・A・シンドラー。
彼らが乗るは、ヘリ型の宙飛ぶ法機ギガンティックマンドレイク――もとい、宙飛ぶ法機シルフ。
これは今第二電使の玉座のドッキングポイントに向かう最中だが、先述の剣人らの様子から分かる通り、彼らには捕捉されていない。
今のこの記述と、先ほどのセーレの弁にあった陽動という文言があれば、もはやその理由は説明するまでもない。
そう、件の宵闇の大気は地下鉄空宙列車を隠すことにも使われていたが、それが解除されると共に、この宙飛ぶ法機ギガンティックマンドレイクの姿を隠すために使われたのだ。
「通信を介して敢えて術句を聞かせたのはRiskyではあったが……狙い通り、勘違いしてくれたようだ。」
デイヴが安堵したように言う。
先ほど術句を敢えて聞かせたのは、そうした狙いあってのことだったのだ。
「Yes……さあ、ソー軍曹ご覧ください! 間もなく、第二電使の玉座のドッキングポイントです!」
「Well……いよいよだね!」
果たして、彼らの目論見通りに。
彼らアメリカ軍による第二電使の玉座内侵入が、果たされようとしていた――
◆◇
「不是……アメリカがもう来ているなんて!」
「し、小鬼……先を越されちゃった、どうしよう……」
いや、アメリカが来たとなれば言うまでもなく。
もう一つ、第二電使の玉座目掛けて迫る勢力――鬼苺や女夭率いる中国勢も来ていた。
アメリカと同じく、魔法根源教から手配された地下鉄空宙列車に乗って。
かくして米中によるVI奴隷獲得宇宙戦争は、順調に幕を上げつつあったのだった――




