#25 再び宇宙へ
「さあ、準備はよろしくて?」
「はい、マリアナ様!」
「ああ、大丈夫だ!」
魔法塔華院コンツェルン艦隊。
その旗艦より見えてきたのは今度は空であり、凸凹飛行隊はやはりそれぞれの思いを抱えていた。
魔法塔華院コンツェルン艦隊の旗艦は、お馴染みと言うべきかあの強襲揚陸艦である。
更に複数の潜水法母と、潜水聖母艦――潜水法母の補給を担う母艦である――を戦隊旗艦として構成される潜水法母戦隊とで艦隊は、かつての新兵器護送の際と同じ艦種たちで構成されていた。
「さて……魔導香さん、井使魔さん! 周囲はいかがであって?」
「大丈夫よ、問題なし! 黒日は?」
「こっちも大丈夫よ!」
マリアナの通信を介しての呼びかけに、それぞれ自機を艦隊の直掩機として、空から警戒に当たっている真白と黒日はそう答える。
――いいえ、空宙都市だけではありません! そこを中継地点とし、月や火星、金星などに移民を送り込むプロジェクト……新天新地計画を立ち上げることを、ここに宣言いたします!
「(我ながらあれだけ大胆に、他国の方々もいる中でアピールしてしまってよ。だから何らかの妨害が入ってもおかしくはないと踏んだのだけれど……何もないなら、いいんじゃなくって?)」
マリアナは客ヘリ内パーティーでの自身の発表を思い出していた。
敢えて世界中に向けて発信したような、あのパーティーという場を借りての発表。
それが何を招きそうかと言われれば、今のマリアナ自身の弁にもあった通りである。
「(まあよくってよ……何もないなら、それが神のお告げというものであってよね!)さあ皆さん……そろそろ行きますわよ!」
「はい、マリアナ様!」
「承知だ!」
マリアナはしかし、何もないと分かれば覚悟を決めた。
そうして。
「……AWF01/、パーツ1、2、3、4! セレクト コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 女神の織機 エグゼキュート!」
このマリアナの合図と共に、揚陸艦の飛行甲板、及び潜水法母から各二機ずつパーツが射出され。
それらは瞬く間に双胴機のごとく合体を遂げ、一機の大型機へと変貌を遂げる。
更に。
「……パーツS1、2、3、4! セレクト コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 女神の杼船 エグゼキュート!」
もう六隻の潜水法母から、女神の杼船のパーツ六つが無機質に合体し杼船を形作る。
更に。
「さあ行きますわよ! 女神の織機、女神の杼船! セレクト コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム AWF01/ エグゼキュート!」
女神の織機下部に凸凹飛行隊の法機を載せた女神の杼船がドッキングする。
「さあ……AWF01/、セレクト デパーチャー オブ 女神の杼船 エグゼキュート! 行きますわよ、皆さん! 」
「はい!」
「応!」
女神の織機下部に接続された杼船を発射する。
この杼船には法機三機と、そこに乗る宇宙服等装備済の乗り手たちが内包されている。
「行ってらっしゃーい、魔法塔華院マリアナたち……」
「いってらっしゃーい!」
そう、この法機三機先ほど凸凹飛行隊の法機を、とは言ったが。
ハワイからの新兵器護送や、ヘリ上パーティーでの一件と同じく、この揚陸艦で青夢はかぐやとお留守番である。
また、先述の通り法機ディアナとアラディアに乗り艦隊の直掩に当たっていた真白と黒日も引き続き艦隊の護衛として地球上に残留である。
青夢自身が予想した通り、前回レッドドラゴン――ひいては法機ジャンヌダルクの力を取り戻したのは一時的であったようであり。
その後は、いくら青夢が呼びかけても反応がなくなってしまっていたのだ。
「……何事もなければいいけど。」
青夢は既に大気圏を離脱しつつある杼船を見送りながら、もはやほぼ無駄と思いつつもそんな祈りを捧げていた。
◆◇
「見えてきましたわ……第二電使の玉座が!」
「はい!」
「ああ……また来たな!」
そのまま大気圏を離脱し、電使の玉座へと近づく女神の杼船から、マリアナたちは久しぶりにその電使の玉座の姿を見た。
全体的には立方体のビルのようにも見えるが、その屋上部分からは法機やその他追加ユニットのドッキングパーツが見える。
「セレクト! アンアセンブライズ 女神の杼船! 各機、各個に電使の玉座へドッキングであってよ!」
「はい、マリアナ様!」
「承知している!」
そこでカーミラ・ルサールカ・クロウリーの三機とその各尾翼に、何やら法機自身にも匹敵する大きさのパーツをつけた状態で分離し。
マリアナが命じるまま、各個に電使の玉座へとドッキングして行く。
「マリアナ様!」
「魔法塔華院!」
「ええ、皆さん意外にすんなり来れて何よりであってよ。……さて。
そうして宇宙服を脱ぎ、さながら某電波塔展望室のような電使の玉座居住区へとやって来たマリアナたちは。
そこから見える景色に、目を奪われる。
それは――
「……綺麗……」
「ええ……何度見てもこんな綺麗さは、どんな宝石にもなくってよ……」
「す、すごいです……」
「……ああ。」
かつての空宙都市計画時に青夢・マリアナ・夢零・レイテで見た景色。
そして新たな女王との戦いの折、現行の凸凹飛行隊全員で見た景色。
青く巨大な地球が、やはり広がっていた。
◆◇
「さあ、分かっていても思わず見惚れてしまうほどの光景とはいえ。来る度に言ってますが、わたくしたちの目的は宇宙観光ではないではなくって?」
「あ! は、はいマリアナ様!」
「あ、ああそうだな……」
マリアナの言葉に、剣人と法使夏ははっと我に返る。
いけない、これは重要な任務によるものだった。
二人は、気を引き締める。
「では……打ち合わせ通りに! ミスター方幻術と雷魔さんはこの電使の玉座底部にて、吸引光線システム構築作業を実施するのであってよ! わたくしはその間、周辺宙域にてカーミラで警戒に当たりますわ。」
「は、はいマリアナ様!」
「承知だ!」
マリアナの呼びかけに法使夏と剣人は、先を急ぐように先ほど法機をドッキングしたポイントへと向かうべく駆けていく。
◆◇
「よし……hccps://crowley.wac/!」
「hccps://rusalka.wac/!」
「hccps://camilla.wac/!」
「サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
そうして再び、宇宙服を着用して自機に乗り込んだ剣人、法使夏、マリアナはそのそれぞれ法機を、尚もあの大型パーツを尾翼から伸ばすようにつけた状態のままドッキングポイントから離脱させ。
マリアナはそのまま電使の玉座周辺宙域へと法機カーミラを駆り、法使夏・剣人はそれぞれの法機で電使の玉座底部へと潜り込ませていく。
「さあ、この辺ね……方幻術!」
「言われなくてもだ!」
底部へ到着すると、法機を停止させ。
そのまま法使夏・剣人は操縦席からカバーを押し上げて外に出る。
「雷魔! 俺がパーツを引っ張り出すから、お前が組み立て作業をしてくれ!」
「言われなくても分かってるわよ! ほら、早く!」
そのまま口元のインカムを通じてやりとりをした剣人と法使夏は、すぐにすれ違う。
剣人は法機クロウリーの尾翼に回り込み、そこに接続されたあの大型パーツのカバーを開く。
今しがた彼の文言にもあった通り、ここには吸引光線システムを構成する部品の積載ユニットになっていた。
そこから彼が取り出したのは、何やらブースター状部分の一部のような部品。
吸引光線を出す、まさにその部分そのもの。
システムの中枢部だ。
「早くよこしなさい! さあここはこれに繋いでっと……」
「ああ、だが焦るな雷魔! 時間はある。」
「甘いわ、方幻術! マリアナ様が警戒に当たってくださっているとはいえ、いつ敵が攻めて来たっておかしくないんだから!」
「それは、そうだが……」
「ほら、手を止めるな! 早くパーツ寄越して!」
「あ、ああすまん!」
テキパキと作業を進める法使夏もまた、周囲を警戒しており、気が立っている様子であり剣人も少し戸惑う。
さりとて二人に、立ち止まり手を止めている暇もなく、作業を進めていく。
◆◇
「……静かですわね、不気味なほどに。」
一方、周辺宙域にて法機カーミラで警戒に当たるマリアナは。
拍子抜けするほどに何の襲撃もその気配もないこの宙域で、しかし冷静に周囲を引き続き見渡していた。
「……これは嵐の前の静けさ、という訳でないとよくってよ……」
マリアナの心中にあったのはしかし、油断ではなく恐怖と確信。
確実に、何かしらの襲撃には遭うだろうという確信――
と、その時である。
「……セレクト、硫酸流し! エグゼキュート!」
「なっ……!? きゃあ!」
突如として、どこからともなく飛来した攻撃が法機カーミラの尾翼接続大型パーツに着弾したのだ。
「!? ま、マリアナ様! どうされましたか!?」
「くっ!」
通信を介してマリアナの悲鳴を聞きつけた法使夏と剣人も動揺する。
剣人は今しがた運ぶ途中であった部品を、足をバタつかせて素早く格納部に辿り着いて仕舞うや、そのまま宙を泳ぐようにして法機クロウリーの操縦席に辿り着く。
「……レーダー上に機影多数! 敵円盤群と思われる!」
「な……そ、そんな!」
剣人の報告に、法使夏は更に動揺する。
馬鹿な、今まで兆候すらなかったというのに何故?
◆◇
「待っていたよ凸凹飛行隊の諸君……これも猊下から仰せつかった仕事なのでね、信徒としてその務めを果たさねばならないのさ。」
そんな法使夏の疑問に答えない、先ほど攻撃を放った主である宙飛ぶ人工魔法円盤ツァトゥグア。
またもやって来た魔法根源教四騎士団、その内、地の騎士団長である女性コーラル・カロアが座乗するその宙飛ぶ人工魔法円盤と、さらにそれに率いられた円盤群が迫って来たのだ。
そのツァトゥグア機内よりカロアが言う。
無論その声は、外には聞こえないが。
「しかし、随分と動き難い格好だね……それで一応は私を警戒してくれたつもりだったんだ!」
カロアは尚も、凸凹飛行隊を煽る。
見たところ、既に先ほど攻撃した法機カーミラは動きを止めている。
手応えがなさすぎたが、もう始末できるだろう。
「まあいい……意外にもあっさりと、凸凹飛行隊旗機たる法機カーミラは片づいた! 後はあそこにある法機クロウリーにルサールカだけ……っ!?」
と、悦に入っていたカロアだが言葉を徐に止める。
それは。
「な……何だあれは!? 何やら円盤が、法機カーミラのあの破壊された尾翼部接続パーツから出て来て」
「ふふふ……セレクト、サッキングブラッド! エグゼキュート!」
「!? くっ、この!」
今カロアの弁にあった通り、突如法機カーミラの破壊された尾部パーツより一つの円盤が躍り出て、そのままカロアの円盤群の前を素早く通過したのである。
カーミラを親機としてその円盤は、敵からエネルギーを奪う子機としての役割を果たしているらしく。
今マリアナが唱えたその術句により円盤から波動が放たれ、それを喰らったらしいカロアの円盤群は一時的だがダウンを起こしてしまった。
「さあ……hccps://MarianaMahotokein:××××××@ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト、コネクティング! ダウンロード 電使翼機関、エグゼキュート!」
その隙にマリアナは、法機カーミラの動力源を電使翼機関に変え、そこからエネルギーを噴射し破壊されていた尾部を切り離して素早く移動する。
「くっ、しまった! ツァトゥグアを動かさなければ」
「さあ、行きますわよわたくしの可愛い黒猫ちゃん――空飛ぶ円盤型法機!」
空飛ぶ円盤型法機。
円盤から法機期首が飛び出た形をした法機であり、ヘルキャットという名前から通称・魔女の黒猫である。
無論、それは。
「あれは……なるほど。ハワイでボリー姉妹から奪った我が根源教の円盤技術を剽窃したんだね。」
カロアは体勢の立て直しに注力しつつも、今も飛び回るその空飛ぶ円盤型法機を見て冷静に分析していた。
そう、先のハワイ近海におけるターナとアイとの戦いで法使夏・ミリアが自機に合体させた、アイの作り出した分身円盤たちのデータ。
法使夏たちは戦いのさなか、マリアナの法機カーミラと通信を接続しており、マリアナはその際に分身円盤たちを解析してデータを奪っていた。
その技術が今、ここにある。
それはカロアを刺激するには十分すぎるものだった。
「さあ空飛ぶ円盤型法機……セレクト! フォーミング 空飛ぶ円盤型法機 着脱式魔法円盤シェイプ、エグゼキュート!」
マリアナは更に、円盤型法機に命じる。
命じられた空飛ぶ円盤型法機は機首を引っ込め、かつて機首に占められていた部分は法機一機が接続できるスペースを空けた。
これぞ円盤型の法機着脱式パーツ、着脱式魔法円盤である。
「さあ行きますわよ! 法機カーミラ、空飛ぶ円盤型法機! セレクト コーレシング トゥギャザー!」
マリアナが命じるままに、彼女が搭乗している法機カーミラと空飛ぶ円盤型法機――その変形した姿たる、着脱式魔法円盤は前後に並ぶ。
そうして着脱式魔法円盤のかつて機首が突き出ていたが引っ込んだことで空いたスペースに、法機カーミラが吸い込まれるかのように接続する。
そうして。
「宙飛ぶ法機型円盤……さあ始めますわよ、わたくしたちの戦いを!」
マリアナは、高らかに通信を介して宣言する。
◆◇
「あのHigh Priestessが言ってくれた通りだ……あれが"エリヤ"、"遊星民"と呼ばれる奴らなんだ……」
その戦場に、密かに迫る影があった。
それはあのデイヴィッド・R・Y・ソー――デイヴだ。
かくして、もはや何度目かも分からない複数の地球勢力の、思惑渦巻く宇宙戦が幕を上げた――




