表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィッチエアクラフト〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜魔法の復活編  作者: 朱坂卿
再・第三翔 ヘリ上パーティー襲撃
23/50

#23 本当の自分

「な……あ、あれは何であって!?」

「は、はいマリアナ様!」

「何だ、あれは……」


 凸凹飛行隊の旗艦たる、揚陸艦内より戦場を見ていたマリアナ・法使夏・剣人は空を見て驚く。


 それは。


 ――見えますか凸凹飛行隊の皆……この私の姿が!


「ま、魔女木……」

「魔女木さん……」

「魔女木……」


 かつてダークウェブの王や女王がそうであったように、光り輝く多頭龍の姿を仏像の光背のように背にし、青夢の姿が顕現したからである。


「何が起こっているのであって? 法機もない魔女木さんにこんなことが……いえ。」


 訝るマリアナはそう言いかけて、ふと思い出した。


 ――……さあ、飛行隊長命令であってよ魔女木さん! ……あの時、この法騎戦艦にどう発砲させたのであって。


 ――それは……だから言ってるでしょ! 私にも分かんないのよ。


「(あの時と、同じであって……?)」


 説明を求めて来たマリアナに青夢がそう言う他なかった、そんなやりとりを繰り広げたあの時のことを。


 あの時――今しがたも襲来した円盤たちが、魔法塔華院別邸を襲い、それを迎え撃った縦浜別邸攻防戦の後のことだ。


 あの時も敵円盤旗機の猛攻に絶対絶命となりかけた凸凹飛行隊法機群。


 それを救ったのは、別邸地下から放たれた戦艦主砲撃だった。


 戦艦主砲――青夢の専用法機たるジャンヌダルクの現状最終形態、龍魔王の宙飛ぶ(スペーストライア)三段法騎戦艦(ドファザードラコ)レッドドラゴン。


 その法騎戦艦は攻防戦の際、安置されているそこから主砲を発射したのである。


 あの際も修理用機械アームがずらりと艦体に沿って両舷に並び、守られるというよりは封印されているようにして安置されていた。


 あたかも何事も、なかったかのように――


「まあよくってよ……その時はその時、今は今ってねえ……」


 しかし、マリアナはそこで思い出すことを止める。


「……皆さん、各自戦闘態勢を維持であってよ! あれの正体が魔女木さんかそうでないかはこの際どうでもよくってよ、ただ……あれは敵という前提で動くべきですわ!」

「は、はいマリアナ様!」

「やむを得ないか……」


 マリアナのその言葉に、法使夏も剣人も動く。

 何にせよ、あの青夢のビジョンが害をなさないとは断定できない以上、備えるに越したことはない。


「あなたが敵の可能性があると考えることについて魔女木さん、悪くは思わないでほしくってよ!」


 マリアナは空の青夢のビジョンを睨みつつ、そう叫ぶ。


 そんな彼女の脳内に去来したのは、いくつかのこと。


 かつてネメシスに囚われ、そうとは知らずに地上にサイバー攻撃を仕掛けた時のこと。


 かつて、今まさに彼女自身の姿としてある黒客魔(ハックマ)、またその次の機会には龍魔王の宙飛ぶ(スペーストライア)三段法騎戦艦(ドファザードラコ)レッドドラゴンとして、彼女が敢えて世界の敵となったこと。


「あなたが敵となった"前科"は山ほどあってよ魔女木さん……"再犯"もあり得ない話ではないではなくって?」


 マリアナは返答がないと分かりながらも、そう問いかけざるを得なかった。


 ◆◇


「(こ、これは何……? わ、私は一体)」


 その頃、青夢は混乱していた。


 今しがた見えるその景色は、あの現実世界に顕現している青夢――光り輝く多頭龍の姿を仏像の光背のように背にしたあの姿だ――から見える景色そのものなのだが。


 ――見えますか凸凹飛行隊の皆……この私の姿が!


「(な……く、口が……いや口だけじゃない、心も勝手に!?)」


 口がそう発言した。

 いや、そう言えば自分の意思とは無関係に思われるが、そうではない。


 心も、凸凹飛行隊に対して自分のことを訴えたいと告げていた。


 かと思えば。


「痛っ! ……え? ここは」

「さあ……またもこのミレニアムに連れて来られましたねVIとなりし王に女王たちよ! さあ村の皆さん、またあなたたちの奴隷となる人たちがここに集まりましたよ! 心ゆくまで使うがいいですわ!」

「え……ここはミレニアムで、あれは私!?」


 急に仮想世界ミレニアムに送り込まれ、何とレッドドラゴンと化した自身の前にVI化された人間として引き立てられて来たのだ。


 ――さあ、あなたもこの試練に耐えられるかしら? 自分は人間かVIか……どちらが本物か自分でも分からなくなるというこの試練に!


 今こうして起きているVIたちの反乱を主導した際、聞き覚えはあるが誰だかは分からない声が彼女自身の脳内に響いて来たのだが、その声の主は直近ではそう言っていたのだ。


「(どちらが本物か自分でも分からなくなるという試練、ねえ……それはこういうことだったのね!)」


 その意味をようやく理解できた青夢であった。


「おらあ、さっさと来るだあ!」

「キリキリ歩けえ!」

「ぐっ!」

「うっ!」


 が、それからまもなくして青夢は他のVI化された者たちと同様、マイニングに引き立てられていったのだった。


 ◆◇


 ――私はご存じの通り、元飛行隊長……でも、今はVIたちの反乱を率いる者として命じます!(……って、またこっちなのね!)


 と思いきや、再び現実世界のビジョンとしての青夢に意識が戻った。


「え……? な、何を言っているのであって?」

「ぶ、VI?」

「ま、魔女木?」


 事情が飲み込めないマリアナたちは混乱している。


 ――(……まあいいわ、ゴホン!)あなたたちもVIになって、元々いるVIたちに奉仕してもらいます!


「!? え……?」

「ほ、奉仕……? 誰が誰にですって?」

「ぶ、VI……?」


 青夢が気を取り直してそう告げるが、やはり事情が分からないマリアナたちは、更に混乱するばかりだ。


 ◆◇


「さあさあ、仕事だあ! ……hccps://emeth.MinersRace.srow/! セレクト、マイナーレーシング! エグゼキュート!!」

「はっ!? ここは……そう。私、ここに戻って来たのね……」


 しかし、それも束の間。


 また仮想世界ミレニアムのVIに意識が移るが、呆けている暇もなく。


 自分と同じく引き立てられた、VI化された人間たちが、自分たちにあてがわれた七つ目の羊に騎乗して洞窟の奥へと向かおうとしたため、青夢も後を追って羊に飛び乗る。


「さあさあ皆、気合入れて挑むだ!」

「んだ、てめーらは今までおらたちを働かせて来たんたからなあ!」

「く……」


 洞窟の口で彼らのお目付け役を担うVI獣人らは、そう言って彼らを駆り立てる。


 その忙しさは、かつてアイが死んだ時と同じくらいのものになりつつあった。


 ――いかがかしら……お苦しみかしら?


「あなた……いつも聞こえてた声の主さんね!」


 その時、聞こえて来た声は。


 ――あなたにも与えられるのよ……同様の試練が、ね!


 やはりVIたちの反乱を主導した際にも聞こえた声と同じであり、最後に上記のように言い、恐らくその言葉通りの"試練"――くどいようだが曰く、人間かVIかどちらが本物か自分でも分からなくなるというもの――を与えた主の声でもある。


「あなたがくれた試練て、このことなのね……」


 ――ええ。あなたにはぴったり……いいえ、まだ生やさしいほどよ! かつて電賛魔法(リソーサリー)システムを終わらせることで、この魔女社会を悩乱した大魔王であるあなたにはねえ!


「!? ……なるほど、これは"試練"じゃないわ。罰なのね……」


 その声の主の言葉で青夢は、合点した。


 ――本当に、いいんですね?

 ――青夢、本当にいいのね?

 ――ええ、いいんです!


 かつて、一度電賛魔法が終わる前。


 ――さあ……hccps://meth.daat.srow/! セレクト、エンド オブ 電賛魔法(リソーサリー)! エグゼキュート!

 ――……さようなら、電賛魔法(リソーサリー)システム!


 青夢は全ての元凶たるそれを、終わらせた。


 それは、功罪半ばする――いや、功よりは罪の方が勝るものだったのかもしれない。


 青夢も、覚悟の上ではあったのだが。


 ――そう、これは罰よ……ならば分かるでしょう!? あなたが電賛魔法(リソーサリー)システムを終わらせたことは所詮自己満足……いえ、それにも満たないでしょうけどね!


「そうね……私はずっと悩んでは来た。あれでよかったのかって。」


 声の主の言葉に、青夢はそんな思いを吐露する。


 ――ふふ……悩んで来た? ふざけんじゃないわよ! あんたは悩むな、苦しむな! あんたのあの決断いえ、独断と偏見のせいでどれだけ多くの人々が苦しんだか!? そして何故そんな社会が再び安定していったか……それを思えばねえ!


「……そうね。かつて私のクソ親父……いえ、父が幻獣機の飛行実験にわざと失敗したことで飯綱法重工をはじめその幻獣機ビジネスを中心としていた企業が没落していったように。恐らく多くが」


 青夢は考え、そんな人々に想いを馳せた。

 システムを終わらせた時も考えなかった訳ではない、しかし。


 それでも彼女は、終わらせた。

 そして、残念ながらそれに代わる新たなインフラとなるシステムも作れなかった。


 ――ふん、なら分かるでしょう? あんたは結局、英雄にも世界を団結させるための敵にもなれなかった! そして今も、皆を苦しめている……


「!? こ、これは!?」


 青夢がそんな自分に落ち込んでいると、声の主は更に追い討ちとばかりに彼女にビジョンを見せる――


 ◆◇


「あ、青夢……」


 ――私たちがこうなっているのも……やっぱり青夢のせいなの?


 またも、現実世界では。


 今まさに青夢と似たような状態になっている真白と黒日も、空に浮かんで来た青夢のビジョンに戸惑うが。


「ふん、呆けたな……隙を見せたら終わりなんだよ!」


 ――その通り……


「ああ、共に行こう……もう一人の私!」


 いや、青夢と似たような状況なのは真白や黒日だけではない。


 女王として、ミレニアムのVIたちに命令を降していたのはフレイヤとて同じ。


 ならば彼女もまた、VIと人間どちらかの人格で揺れている状態――の、はずなのだが。


「さあ、行かせてもらおう!」


 ――応、行くぞ! hccp://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼(ファイヤーバンパイア)凍える炎(アフームザー)! hccp://cthugha.frs/GrimoreMark、セレクト 氷の吸血鬼(アイシカルバンパイア)! エグゼキュート!


「くっ!」


 ――は、早く法機を……いえ、待って! 私、また法機の方に人格が!


 真白と黒日はまさにその悩乱まっさかりと時なのだが、フレイヤは違った。


 彼女は恐るべき適応力で持って、VI化された人格と人間の方で連携を取り。


 そのまま円盤クトゥグアに命じて放った攻撃が、先述の通り悩乱されているさなかの真白や黒日の法機群を襲い、彼女たちは回避がやっとであり苦しめられる。


「きゃあ!」


 ――きゃあ!


「ははは、VIか人間か、ねえ……あまり私には関係ないな。何故なら私には元々、もう一人の私が常に脳内にいたのだから……なあ?」


 ――ああ、その通りさ……もう一人の私!


 フレイヤはその適応できた理由を今、誰にも聞こえないながらも独白した。


 そう、彼女は元々二重人格だったということを。


 ◆◇


「く……これは、真白と黒日が……?」


 またも、仮想世界ミレニアムにて。


 VI化された人間たちと共に働いていた青夢は、見せられた現実世界のビジョンに呆ける。


 ――ええ、その通りよ……さあ、分かったでしょう!? あんたは何の役にも立たず、ただただやったことが悉く裏目に出る迷惑な奴! さっき大魔王とは言ったけれどそれも間違いね……あんたはただの害悪よ!


「ええ、かもしれないわね……」


 ――ふっ、もう御託はたくさんよ……さあ、どうしてくれるのかしら?


 声の主に更に責められ、青夢は尚も七つ目の騎獣を走らせながら項垂れる。


「ええ……だから、こうさせてもらうわ!」


 ――……へえ?


 しかし、青夢は顔を上げ。

 そのまま――


 ◆◇


 ――hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾ビクトリーインオルレアンカートリッジ エグゼキュート!


 現実世界では。

 ミレニアムの青夢の決意と連動するかのように、空に浮かぶ青夢のビジョンが術句を唱えるが。


 それは何と、無数の光弾を生成して放つためのものであった。


「! ほう……助太刀してくれるとはありがたい!」


 フレイヤの弁にあったように光弾はそのまま、凸凹飛行隊の旗艦めがけて襲い来る――


「!? ま、マリアナ様! あの魔女木のビジョンからエネルギー弾が」

「く……揚陸艦、最大船速! このまま……っ!?」


 かに思われ、マリアナが必死の思いで艦橋から全艦に指示を出していた、その時であった。


「ぐっ!?」

「!? な!?」


 青夢のビジョンから放たれた無数の光弾が"標的"に着弾するが、それにより凸凹飛行隊も根源教騎士団も驚く。


 それは。


「く……私たちに!?」


 着弾した"標的"が、魔法根源教の、円盤群だったからだ。


 ◆◇


 ――な……ど、どういうつもり!?


「これが私よ……罪を犯したのも償うのも、VI化されたのも元の人間なのも、皆私なの!」


 ミレニアムでは。


 この光景に驚く声の主に、青夢はそう啖呵を切る。


 いや、驚くべきは他にも。


 ――何故なの……? 何故あんた、このVIに意識を保ったままで現実世界のビジョンを操作できたの……!?


「今言ったでしょ? 皆私だって……それ即ち。今現実世界に現れている私のビジョンも、ここにいる私も、皆私だからよ!」


 ――そんな、馬鹿な……!


 今度は声の主の方が、悩乱される番であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ