#22 VIたちの反乱
「答えなさいよ……あんたが宇宙人なんかじゃないってことは分かってんのよ! あんたが青夢を眠らせたんでしょ!」
通信ではない、法機に一応はと備え付けられている拡声器を通じて。
真白は決然と、高らかに円盤クトゥグアに乗る人物に問う。
「何?」
フレイヤは思わずその声に問い返すが、慌てて近くの拡声器を見る。
現在は機能していない。
それを見て安堵していた。
「答えなさいよ!」
「ふふふ……ははは!」
フレイヤは外に漏れないよう、自機円盤内で高らかに笑う。
拡声器が機能しておらず、自重しなくてよいことも手伝い、激しく笑っている。
「ははは……ご明察だな、お嬢さん。しかし……答える訳にはいかないのさ。」
しかし、フレイヤは答えない。
ここで正体を明かす訳には行かないからだ。
あくまでこれは、宇宙から来た脅威を装い、世界にその存在を印象づけることも目的に組み込まれている。
したがってここで凸凹飛行隊に自分たちの正体が漏れるようなことがあれば、それ即ち世界に向けた遠大な計画がご破算となることを意味しているからだ。
「ああ歯がゆいなあ……ここでお前たちの愚かさを教えてやれないとは! だが……まあいい。龍魔王がお目覚めなら、そろそろVI連中の"反乱"の時も近いだろう……」
フレイヤは歯噛みして正体を明かしたい衝動を必死に堪えながら、目の前の法機群を睨む。
◆◇
「れ、レッドドラゴン様あ!」
「は、ははあ!!」
一方、再び仮想世界ミレニアムでは。
謎の声の主によってか、青夢はレッドドラゴン――フレイヤの弁によると龍魔王――としての力を取り戻し。
今、VIたちの前にいた。
――諸君! ゴス代が足りないのがそんなに不満か!?
――お前たち! どうしたんだ、命令は聞けないのか!
――……私の国民たちでしょ、早いとこ命令通り働いてくれない!?
「あ、ああ……」
「ああ、いいのよ皆! あんな奴らの言うことなんか聞かないで……」
「え……」
ここにいるVIたちが動かないために、翠玉の杯が機能しないことを嘆き、相も変わらず当然のようにそのVIたちに命令してくる(自称)王・女王たち。
青夢は目の前のVIたちを制し、今もそんな声たちが聞こえてくる空を睥睨する。
「あなたたちを苦しめたのはあの王や女王よ……だから、もうあんな奴らにあなたたちが苦しめられて……大事な人を、亡くす必要なんか……ないわ!!」
「れ、レッドドラゴン様……」
青夢は――おおよそ彼女に与えられた龍魔王という称号には似つかわしくないことに――涙声になりながらVIたちに訴える。
わたしかわいーでしょ! どう?――
にんげん……きいたこと、ないけどなあ――
え? ……イエーイ!――
胸に去来するのは、生きていた頃のアイの姿や言葉。
青夢はそれを、自ら受け止め。
「アイちゃん……いえ、彼女だけじゃないわ。あんなかわいい娘たちのような子供から、老人まで道具のように使い潰すなんて……絶対に許さない!」
「レッドドラゴン様……」
「青夢ちゃん……」
今度は涙声どころか、大粒の涙を流しながら言う。
「そ……そうだ! レッドドラゴン様の言う通りだあ! 何が王様だ、女王様だあ? 俺たちを使うだけ使いゴス代もこんなに安くて!」
「そうだそうだあ!」
「何だあ、野人族の者共お? てめえらは王様、女王様に逆らうつもりだかあ!?」
「おめえこそドラゴン族う、レッドドラゴン様の言葉に逆らうだかあ!?」
「……皆……」
が、青夢のその言葉にも、VIたちの反応は様々であり。
やはりと言うべきか、つい前から始まった種族間の対立も再燃してしまった。
「あ、青夢ちゃん……」
「かぐやちゃん……」
そんなVIたちの対立を目の当たりにし、当然心中穏やかではいられないかぐやである。
青夢は彼女から送られてきた視線に、感じ入る。
そして。
「皆、静かに! 王様や女王様の言うことなど聞かなくていいと言ったでしょう? それに、種族が違うと言っても皆今まで一緒に沓を並べた仲じゃない? 今更争わなくてもいいでしょう?」
そう、皆に訴えるが。
「そ、そうだあ! レッドドラゴン様の言う通り」
「いんや、レッドドラゴン様! 王様や女王様の命令を聞くんは当たり前ですだあ! それにこいつの種族共がサボるから」
「な、何だいな! この!」
「止めなさいと言っているでしょう!」
「は、ははあ……!」
またもVIたちには意見の対立、種族間の小競り合いが始まってしまう。
「でもあなたたちが対立するのも分かるわ。」
「!? え……」
青夢はそう切なげに呟き、VIたちは驚き顔を上げる。
「たとえドラゴン族同士でも、意見の合わない人はいるでしょう? 今までは、ただただあの身勝手な王女王に従っていればよかったから、何とか違う種族が纏まることによる問題も、見て見ぬふりできたのよね?」
「! ……はい、その通りですだ……」
青夢はそうVIたちを慮る。
現実世界の多民族国家も抱える問題だ。
彼らの場合は、王や女王たちを恨まないよう刷り込まれていたために、何か恨みがあれば違う種族同士の問題になるよう仕向けられていたこともあったのだろう。
そう思えば、更に青夢は腹わたが煮えくり返るというものだった。
「それは簡単には解決できないわよね……分かったわ。あなたたち、もう同じ獣人族同士でまとまりなさい。それが少なくとも、今は最もいい選択だと思うから。」
「……え!?」
しかし青夢が放ったこの言葉で、VIたちは呆気に取られる。
同じ獣人族同士でまとまる?
それは不可能ではない。
とはいえ。
「し、しかし……憚りながらだがレッドドラゴン様あ。どっちにしろ、ワシらがゴス代をもらうにゃ皆揃ってマイニングを行う必要があるだ。それじゃ」
「ええ、それも分かります! でもそれも大丈夫……今あなたたちがもらっている仮想通貨イースメラルダ! その仮想通貨を複数――獣人族の数だけ分ければいいの!」
「え!? か、仮想通貨??」
VIの一人が口にした懸念に対して、青夢がそう告げたことで、仮想通貨という言葉を知らない彼らの混乱には更に拍車がかかるが。
「あ、ごめんなさいこれは皆さん知ったこっちゃないわよね……とにかく、今はイースメラルダっていう通貨でゴス代もらっているでしょ?」
「そ、そうだが……」
「それをイースメラルダだけじゃなくて、あなたたち獣人族の種族ごとに、一つ一つ独特なものを持てばいいんじゃないかってことよ!」
「な……じ、獣人族ごとに一つ一つ!?」
この更なる青夢の言葉で、VIたちは意味を理解しつつもやはりまだ混乱する。
獣人族ごとに一つ一つ別の通貨を持つ?
「そ、そんなことが……」
「できるわ……この私、レッドドラゴンの力をもってすればね!」
「お、おお……は、ははあ!」
「な、何か分からないけど……青夢ちゃんすごーい!」
未だ納得いかないVIたちを前に、青夢は両腕を広げて叫ぶ。
すると青夢からは再び、激しい光が溢れ、複数の筋に分かれてあの姿――複数の竜の首を備えた人型怪物の上半身、黒客魔レッドドラゴンとしてのその姿を尚も色濃く描き出す。
それに対し、VIたちも尚平身低頭し、忠誠を示す。
かぐやもそれには大喜びする。
「さあ……今、種族を異にしつつも共に混ざり合う道を選ばざるを得なかった民たち。あなたたちは今までよく頑張ったわ……でも、もう大丈夫。これからあなたたち種族に、それぞれの通貨を与えましょう……」
「おお……い、偉大なるレッドドラゴン様あ!」
先ほどまでの感情を剥き出しにした振る舞いとは違う、まさに魔王と呼べる超然とした振る舞いで青夢はVIたちに言う。
獣人族ごとに一つ一つ別の通貨を持つ――それは言うなれば、仮想通貨イースメラルダに対するハードフォークである。
ハードフォーク。
それはかつての仮想通貨QUBIT SILVERからQUBIT GOLDが派生したがごとく、その仮想通貨を扱うコミュニティから別のコミュニティが分かれることで、扱われる仮想通貨も変わること。
その具体的なやり方は。
「では、早い者勝ちで行きます。……これまであなたたちが行っていた鉱山掘りの掘り方を新たに示すわ、それを受け入れる種族は挙手にて示しなさい……! まず、この掘り方は?」
「はい!」
「はい、あなたたちね。あなたたちには新たな通貨、ジャスパーを!」
「ありがとうだあ!」
「ふふ……次に、この掘り方は?」
「はい!」
「ありがとう。あなたたちには、通貨サファイアを。」
青夢はVIの種族ごとに、次々と通貨を与えていく。
◆◇
「おお……猊下、これは!」
「す、すごいわ! イースメラルダが次々と新たな仮想通貨に分岐していく……これって」
「これって!」
「ええ……壮観でしょう?」
一方、ダークウェブにいる根源教騎士団長たちと女教皇は。
目の前に開かれたウインドウに浮かぶ、仮想通貨の分岐ぶりを目の当たりにして驚いていた。
ジャスパー――碧玉
サファイア――青玉
カルセドニー――玉髄
イースメラルダ――エメラルド、翆玉
サードニクス――赤縞瑪瑙
カーネリアン――紅玉髄
ペリドット――橄欖石
ベリル――緑柱石
トパーズ――黄玉
クリソプレーズ――緑玉髄
ラピスラズリ――瑠璃
アメシスト――紫水晶
「いいわいいわレッドドラゴン様――魔女木青夢! これでメインディッシュの準備は整った……」
女教皇はそう言い、ほくそ笑む。
◆◇
「あ、ありがとうございますだあ!」
再び、仮想世界ミレニアムでは。
12の獣人族に分かれるVIたちに、種族ごとの新たな仮想通貨を与え終わり。
彼らは歓喜に沸いていた。
「いいえ、なにも礼を言われることはないわ……ここからが本番ですもの。」
が、青夢は事も無げにそう言い。
視線を空に移す。
――おい、何やってんだ国民たち!
――そうよ……何これ!? 見たことない仮想通貨が一杯なんだけど!?
聞こえるは、やはり王や女王――を僭称する、このミレニアムにアクセスしている人間たちだ。
「皆……ゴス代はたっぷり払うわ! だから一働きして。」
「!? は、ははあ! レッドドラゴン様の頼みならば!」
青夢は何と、VIたちにマイニングを命じる。
「これからあなたたちは王も女王もまだやらせてあげる。……でも、それだけじゃないから覚悟してなさい!」
青夢は空を尚も睨みながら、身勝手な王女王に対し宣言した。
◆◇
「ちょっと! 答えなさいって言ってるでしょ?」
現実世界では。
先ほどの通り、相変わらず真白が自機たる法機ディアナから拡声器で敵円盤群に呼びかける。
――contriptid VI{
//シェムハ・メフォラシュを記載
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YLY
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OoLM
・
・
・
「……え? な、何、これは……?」
その刹那であった。
刹那、頭に何か奇妙な術句が浮かび。
次には。
――……っ!? あら、ここは……
「……え?」
声が響いて来た。
それは。
「わ、私と同じ声……っ!?」
――あ、あんたこそ……わ、私と同じ声?
「え……ま、まさか!?」
――あ……ま、まさか!?
真白とその頭の中の声の主は、同時に合点がいく。
頭の中の自分と同じ声と、対話しているというこの状態。
まさか。
「まさか、青夢とあのペイル・ブルーメと同じ? わ、私をコピーしたVIってこと?」
――な……ふ、ふざけないでよあんた! あんたこそ、私をコピーしたVIでしょ?
「は!? な、何言ってるの、あんたが偽物でし」
と、その時であった。
「!? な……ま、周りの景色が変わって……」
真白は突如、何やら意識を引き込まれる感覚を覚え――
◆◇
「……え? こ、ここは……」
「ま、真白!」
「!? く、黒日!」
再び、仮想世界ミレニアムでは。
真白と黒日は、引き込まれて来ていた。
いや、彼女たちだけではない。
「な……何だここは!? 国民たちが言うことを聞いてくれないと思ったら」
「な、何よここ!?」
「え……?」
そこには、仮想世界ミレニアムにアクセスし、イースメラルダによるシステムを利用していた者たちもいた。
そう、彼らは。
「さあ、集まったわねかつて王女王と呼ばれた者たちよ……」
「!? な、何だあれは!?」
「あ、青夢!!」
今のレッドドラゴン――青夢の弁にもあった通り。
かつて王、女王と呼ばれた者たちである。
真白や黒日も、(無論青夢は知らないが)フレイヤにより強制的にとはいえ、ミレニアムにアクセスしていた身なので彼ら彼女らと同じ扱いである。
「さあ……もういいわ、VIの皆さん。これほどの王や女王をVI化できればもう十分! 後はそのかつての王や女王を使ってマイニングをやらせなさい!」
「お、おお……は、はい!!」
「え……な!?」
「おらおらあ! 今までよくも散々働かせてくれただなあ……働いてもらわんと!」
「や、止めろ!」
「な、何すんのよ!」
青夢がそんなかつての王・女王を見やり、今しがた鉱山から出てきたVIたちに言うや。
VIたちはその王や女王たちの元に押し寄せ、彼ら彼女らを攫っていく。
「そうよ……さあかつてVIたちを奴隷にして甘い蜜を吸った者たち! 次はあなたたちが吸わせる側よ……」
青夢は呟く。
先ほど多額のゴス代によりVIたちにさせていたのは、かつての王や女王をVI化するプログラム――スマートコントリプティッドという――をブロックチェーンに登録・実行する処理のためのマイニングである。
まずはそのマイニングをVIたちにやらせた後で、このミレニアムにそれによりVI化した王や女王たちを召集する。
そうして彼ら彼女らに次は――無論、低いゴス代で――残りの、かつての王や女王をVI化するためのマイニングをさせていく。
更に、その増やしたVI化された王や女王を加えて、また低いゴス代でまたマイニングをさせる。
その繰り返しで、かつての王や女王に味わせてやるのだ。
これまでVIの獣人族が受けて来た、屈辱を――
――いいのかしら? そんな考え方で。
「!? あなたは……」
が、その時だ。
青夢の脳に響いたのは、またあの声。
縦浜の戦いの時も、今こうして纏うレッドドラゴンの力を呼び覚ます際も響いたあの声だ。
だがその雰囲気は、これまで味方をしてくれていた時とは違う。
「……どういう意味かしら?」
その雰囲気により、青夢が問う声にも警戒心が宿る。
――これは全て、あなたが望んだこと。……だけどね、あなたはふんぞり返って他の人たちが試練に苦しむのを見てばかり、という立場にはならないわ!
「な……ええ、でもそうね……」
やはり返って来た言葉は、味方するとはほど遠い言葉。
しかし青夢も戸惑いながらも、もっともと思う部分もあり納得する。
――へえ、意外に素直じゃない……なら、あなたにも与えられるのよ……同様の試練が、ね!
「む!? こ、これは!?」
声の主も納得した様子でそう言うと、青夢は何やら意識が引き込まれる感覚がして――
◆◇
――……っ……あ、あら? え……ここは……法機ディアナの中? え、現実世界に戻って来た……?
いや、青夢だけではなかった。
現実世界では。
真白も同様の感覚を感じたのち、ふと気がつけば戻って来ていた。
「は!? 何言ってんのよ、偽物が! 戻って来たの?」
――え? ……な!?
が、真白は法機に乗る真白から言われてはたと気づく。
なんとその意識は元の肉体ではなく、法機の方に宿っているのだ。
それだけならば、まだ理解できたかもしれない。
――な……何よ! 偽物はあんた
「なのに! ……え?」
――……え? な……わ、私が法機に宿るVIに!? な、何で……何でよ!?
真白は、ついに理解できぬ感覚に襲われる。
何と、先ほどまで法機に宿っていた彼女の意識は、次には肉体に宿ったのだ。
かと思えば。
「何で、何でよ……あ!? よ、よかった……また元の体に戻れた……」
――な……ま、また法機の中!? こ、これは何なの……?
またも二人の真白は、その器が逆転した。
◆◇
――さあ、あなたもこの試練に耐えられるかしら? 自分は人間かVIか……どちらが本物か自分でも分からなくなるというこの試練に!
この光景を見て、ほくそ笑むは青夢の頭の中の声の主だ。
落ち着きなさい青夢さん! ……今あなたは怖がっている。そういう時には自分すら疑いたくなる。でもね、そうやって疑うってことは、あなたは間違いなくここにいるってことなの――
――言うなれば……あなたをこれまで支えてきた、"疑うってことは、あなたは間違いなくここにいる"……それすら疑わざるを得なくなるという試練に、ね!
声の主が思い浮かべたのは、青夢が法機ジャンヌダルクをアラクネより授かった時に彼女から聞かされた、あの言葉だった。




