#17 悪夢への招待状
「!? これは……何であって?」
「Why!? この揺れは」
「是……これは!」
客ヘリ内の宴会場は、何やら鳴動を起こし。
マリアナやデイヴ、及び鬼苺にその他来賓たちも戸惑う。
先に挙げた三者とその連れはまだ冷静だが、その他の来賓たちは軽くパニック状態になっており今にも大混乱になりかねなかった。
「皆さん、落ち着いてください! ここはわたくしたちが――凸凹飛行隊が守ります!」
「その通りです! 落ち着いてください、皆さん!」
マリアナと法使夏は、皆を宥め始める。
「デイヴ! これは」
「Well……マギー! 何かあったようだね。」
その様子を見たソー夫妻は、顔を見合わせながらコソコソとやりとりをする。
「小鬼!」
「女夭! これはまずそうだわ、警戒しないと。」
鬼苺と女夭も互いに近づき、警戒し合う。
と、その時だった。
「!? What!」
「マギー! これは……」
「し、小鬼!」
「ぬ、女夭!」
ソー夫妻や鬼苺たちも、青夢やかぐやが感じ取ったものと同じ感覚を味わい――
「ようこそ皆さん……ヘリ上パーティーを楽しまれているところ申し訳ございませんが。皆さんをよりスリリングなショーにお連れしますので、ご安心を。……ふふふ。」
客ヘリを見るフレイヤは円盤の中で、誰に聞かせるでもないその言葉を呟く。
◆◇
「え? ここは……どこ?」
青夢はふと、気づく。
見れば、そこは見慣れぬ場所。
何やら、洞穴のような――
「青夢! 大丈夫?」
「あ、かぐやちゃん! よかった、無事だったのね……」
惚ける青夢に声を掛けたのは、彼女の傍らにいるかぐやだった。
先ほど変な感覚に襲われたのは敵の攻撃かと思われたが、何はともあれかぐやは無事だったようだ。
「うん、大丈夫だよ……っ!? きゃ!」
「!? か、かぐやちゃん?」
が、それにより彼女たちが胸を撫で下ろしたのも束の間だった。
かぐやは、今青夢が手を置いている"それ"を見て、驚き腰を抜かす。
"それ"は――
「!? こ、これは……な、七つ目の羊?」
青夢も"それ"の顔を覗き込み、驚いたことに。
それは形こそ羊であったが、目が左右合わせて七つある羊であった。
更に、それだけではなく。
「おうや何だべ、新人か?」
「よろしくな!」
「え? ……き、きゃあ!!」
気づけば周りにいた者たちに声をかけられ、青夢とかぐやはその声の主たちを見て腰を抜かす。
同時に周りを見たことで、今自分たちの置かれた状況がようやく分かった。
「あ、青夢! こ、この人たち姿が!」
「そ、そうね……な、何か変だわ。」
またも青夢たちが、驚いたことに。
彼女たちの周りには何やら龍頭、蝙蝠頭、狼頭……と、様々な姿の獣人たちがいる洞窟が広がっていたのだ。
◆◇
「さて、例の子と魔女木青夢はもうあっちの世界か……」
「hccps://diana.wac/! セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「そうね真白……hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音! エグゼキュート!」
「ん!? おや……法機のお出ましか!」
翻って、現実世界では。
客ヘリ周囲の空域にて、円盤クトゥグアに乗り陣取っていたフレイヤは、法機ディアナ・アラディアの攻撃に遭遇し慌てて避ける。
「またあの円盤さんなのね! そんなにかぐやちゃんのことを……ストーカーも大概にしなさい!」
「そーよそーよ!」
無論その二機をそれぞれに駆るは、真白と黒日である。
あの客ヘリにあらかじめ搭載しておいた法機を二人とも発進させ、円盤クトゥグアに殴り込みを仕掛けようというのである。
「まあ丁度いいタイミングだね……ならば、ここで働かせてあげよう! さあ行くぞ……hccp://cthugha.frs/!」
フレイヤは若干不意打ちを受ける格好となったが、さして動揺せずにまた円盤クトゥグアに命じる――
◆◇
――hccp://cthugha.frs/! セレクト、凍える炎! さあ……VIの者たち! 相変わらずご褒美のゴス代低いけど、働いてくれ!
その頃、仮想世界でも。
何やら、声が聞こえる。
すると。
「おお、女王様のお告げだあ! さあ、働かな!」
「おー!」
「え……?」
獣人たちは、何やら色めき立っており。
「……hccps://emeth.MinersRace.srow/! セレクト、マイナーレーシング! エグゼキュート!!」
「え……そ、それってまさか!?」
更に、獣人たちはフレイヤ――"女王"に言われるや、あの七つの目がある羊に騎乗し競い洞窟の中を掘っていくが、そこで獣人たちが唱えた術句に青夢は、覚えがあった。
――さあ、それでは……今週も、マイニングレースをラジオ中継するDJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo! さあ、here we go!
――さあて、今日のマイニングレースは……アポストロス・バイキングと、アポストロス・タッチアンドゴーによる白熱のレースを、お届けしちゃうわyo!
――さあ……皆行くぞ!
――はい!! ……hccps://emeth.MinersRace.srow/! セレクト、マイナーレーシング! エグゼキュート!!
忘れもしない、あの世界を巻き込み混沌に陥れたQUBIT SILVER――仮想通貨のマイニングレースを始めるための術句である。
「青夢、どうしたの? ……何か楽しそーだよ、行こう!」
「え? ち、ちょっとかぐやちゃ……ぐっ!」
その衝撃に、思わず呆けていると。
かぐやは面白がり、そのまま自分たちにあてがわれた七つ目の羊に騎乗して洞窟の奥へと向かおうとしたため、青夢も後を追って羊に飛び乗る。
「さあさあ皆、気合入れて挑むだ!」
「んだ、隣村の奴らに先を越されてたまるかあ!」
「エイエイ、オー!」
先を行っていた獣人らは、喜び勇んでいた。
――contriptid Resourcery_AphoomZhah{……
「!? これは……確か、あのブロックチェーンに繋ぐ内容かしら?」
青夢の頭にはその時、マイニングレースでその登録スピードを競う契約内容が浮かんでいた。
「何、これ……? 新しい仮想通貨のマイニングレース、なの……?」
青夢は尚も呆けていながらも、必死に状況を理解しようとするが。
「さっき、この人たちはVIって言ってた……VI? VIたちにマイニングレースをさせている? 何のために?」
様々な情報を処理し切れず、考えが止まってしまっていた。
「お、来ただ! ブロックチェーンに! さあ……イースメラルダをもらうは、俺たちだ!」
程なくして、洞窟奥の巨大な鎖――ブロックチェーンにたどり着き。
その鎖に、新たな内容を繋ぐ――
◆◇
「気をつけて、黒日!」
「ええあなたも、真白!」
再び、現実世界では。
先ほどのフレイヤの命令を受けた円盤クトゥグアは、技を発動させ周囲の空域を凍結させていく。
法機ディアナ・アラディアは法機ディアナと法機アラディアに分離し、それを回避する。
「黒日、また行くよ!」
「うん、真白!」
真白たちは自機の体勢を立て直す。
「ふ……面白い! なら、これはどうかな! ……よくやってくれた、感謝するよVIの者たち。だがすまないな……まだ仕事なんだよ! hccp://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、エグゼキュート!」
「ん!? な、何これ!!」
フレイヤの新たに発動した魔法に、真白と黒日は違和感を覚えるが。
それもほんの一瞬だった。
「何もない……? まあいいわ、さあ行くわ黒日!
hccps://diana.wac/! セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「え、ええ真白……hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音! エグゼキュート!」
真白たちは、気を取り直し。
再び術句を唱え、自機に命じる――
◆◇
――よくやってくれた、感謝するよVIの者たち。
「はあ、はあ何の……女王様のためなら……」
再び、仮想世界では。
先ほどの一仕事を終えた獣人たちと青夢、かぐやたちが、地面に臥せっていた。
その傍らには、彼らが熱望していた小粒の宝石たちが入った袋――彼らの言う仮想通貨であろう、イースメラルダが入った袋があった。
――だがすまないな……まだ仕事なんだよ!hccp://cthugha.frs/、セレクト。炎の吸血鬼、エグゼキュート!
「おお……また、女王様のお告げだよ! さあ、また行くだ!」
「ええ!? ち、ちょっと待ってくださいよ皆さん。さっきあれだけ働いたのに!」
しかし、今度は突然に皆洞窟の入り口に強制転移され、また女王の命令を実行しようとする獣人たちに、青夢はそう叫ぶ。
「ええだよ、俺たちの女王様たちだからなあ!」
「さあ、また行くだ!」
「エイエイオー!」
が、獣人たちはおかまいなしに、また七つ目の羊に騎乗し洞窟の中へと向かう。
「青夢! 行こうよ、私たちも!」
「え、ええ……」
青夢も戸惑いつつ、かぐやに促されて彼女と共にまた羊に騎乗して行く。
「はあ、はあ……こ、これでもう休まなきゃ……」
そうしてまた、ブロックチェーンに情報を登録してへたり込む獣人たちや青夢たちだが。
その時だった。
――黒日! hccps://diana.wac/! セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!
――え、ええ真白……hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音! エグゼキュート!
「え!? この声はまさか……ま、真白と黒日!?」
青夢は仰天する。
その声は間違いなく、真白と黒日のものだったからだ――




