#14 似た者同士の海空戦
「ルサールカとメーデイア……生意気にも法機に円盤型の水流を纏わせて海中で活動できるようにしたのね!」
妨害されながらも円盤クティーラが着水するであろう地点へと尚も円盤クトゥルフを駆りつつ、ターナは歯軋りする。
自分たちが突こうと思っていた弱点を克服しただけでなく、その方法が座乗する自機たる円盤の形を象った水流を纏うというものだった――この二重の意味での屈辱は、実に名状しがたいものがあった。
「どこまでも腹立たしいわ……待っていてアイ! また二人で一つに合流するわよ!」
「お、オーケーケー!」
ターナはしかし、改めて気を取り直し。
今一度、自身が向かう地点を見据える。
今尚円盤クティーラはよろめくようにして空中を移動――いや、衝撃を和らげるようにして落ちているといった所ではあるが。
あのままでは万一攻撃を食らった時にはイチコロというものだろう。
「! チャンスよミリア、あの小さい方の円盤は今落ちそうになっているわ、このまま!」
「そうはさせないわ!」
「!? あの円盤が!」
それには法使夏も気付き円盤クトゥルフに照準を定めようとするが、それを見越していたターナは徐に、円盤クトゥルフを空中へと飛び出させる。
「今に見ていなさい、そのムカつく姿……今に粉砕してやるから! hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「くっ!」
「くっ……この!」
「! あの法機……動き方もムカつくわね!」
すぐさま海中に向けて衝撃波を放つ円盤クトゥルフだが、それらを法機二機は見た形のごとく、上下左右と反転させて躱す。
それは到底法機の動きとは思えない。
「形を模しただけじゃない……? ……!? そう、アイのクティーラが作った分身たちを取り込んだのね!」
ターナはふと首を傾げ、しかしすぐに合点する。
彼女らは水流で形ばかりこの宙飛ぶ人工魔法円盤を模したのではなく、円盤クティーラの水でできた分身円盤たち――すなわち人工円盤の技術そのものを取り込んだのだと。
「よし! どうかしらミリア、この力は!」
「そうね、まあ……悪くはないわ!」
法使夏とミリアは上機嫌に、円盤型となった法機二機を尚も駆り立てている。
「ああ……もう、本当に腹立たしいったらない連中だわこいつらは! どこまでもどこまでも私の神経を逆撫でしてくれるとはね……もう勘弁しないわ!」
それに更に腹を立てたターナは、自機の後ろを見る。
既に着水した円盤クティーラが、そこにはあった。
「行くわよ、アイ!」
「オッケーケー、ターナ! hccps://cthylla.frs/、セレクト! 秘匿子大転生! hccps://cthylla.frs/GrimoreMark、現世転生、エグゼキュート!」
アイはターナの呼びかけに応え、自機たる円盤クティーラに命じる。
すると円盤クトゥルフとクティーラは、再び引き合い――
「また一つになったわね、あの円盤!」
「それだけじゃないわ……すさまじい力を感じる……」
「ふふ、さあ今度こそ始めましょう! 私たちの決戦を!」
◆◇
「あっちはやるみたいよ……どうする、ミリア?」
空中に立ちはだかる巨影――これまでの二機が合体した以上の威容を見せている円盤を見ながら、法使夏はミリアに呼びかける。
「当然、もとからこちらもそのつもりなんだから!」
ミリアも闘志を滾らせる。
「とはいえ、あの円盤はどう突破すればいいかしらね……」
「ふん、何よ法使夏ビビってんの?」
それでも攻めあぐねる様子を見せる法使夏を、ミリアは煽る。
「な……そ、そんなことないわよ!」
「なら……私について来なさい、遅れたら死ぬわよ!」
「あ……わ、分かったわミリア! ふふふ!」
「素直でいいけど……まったく、調子狂うわね!」
ミリアはそのまま自機を駆り立て、法使夏もそれに続く。
「あら……少しは様子を窺ってから攻めて来ると思っていただけにこれは意外だけど、そちらから来てくれるならそれまでよ! アイ!」
「それまでよ! はい、ターナ!」
空中より二つの円盤型法機がやって来る様を見咎めた円盤クトゥルフ・クティーラでは、ターナもアイも動き出す。
「hccps://cthulhu.frs/!」
「hccps://cthylla.frs/!」
「セレクト 復活の呼び声!! エグゼキュート!!」
彼女たちは円盤に命じ、命じられたクトゥルフ・クティーラからは傘のような形に海面目がけて衝撃波が放たれた。
「ミリア!」
「躱すまでよ、法使夏!」
それに対して多少は動揺しつつも、法使夏とミリアの反応もまた早く。
二人の自機たる円盤型法機二機は、その間合いを大きく離しながらも縦横無尽に機体を反転させて衝撃波を躱し、その有効範囲を迂回する形となる。
「グルグルグルグル……その動きはあんたたち法機ごときには許されない、私たち人工魔法円盤だけのものよ!」
「ものよ!」
その自分たちのみの技術を否応なく感じさせる敵機の動きは、尚もターナとアイの神経を逆撫でするに十分だった。
「hccps://cthulhu.frs/! セレクト 復活の呼び声! 有効範囲を再定義……hccps://cthulhu.frs/GrimoreMark、セレクトR'lyeh'sRebirth.hcml エディット!……」
ターナは素早く、今発動させている技の改造を始める。
そして。
「さあ行くわよ、アイ! hccps://cthylla.frs/!」
「オッケーケー、ターナ! 「hccps://cthylla.frs/!」
「セレクト 復活の呼び声!! hccps://cthulhu.frs/GrimoreMark、セレクト 神殿の浮上!! エグゼキュート!!」
「くっ……ミリア!」
「あいつら、技の有効範囲を拡大して来たわ!」
ターナとアイが重ねて円盤クトゥルフ・クティーラに命じ発動させた衝撃波に、ミリアと法使夏は再び少し怯む。
「でも負ける訳にはいかないわ…………hccps://medeia.wac/、アセンブリングシザース、エグゼキュート!」
「ええ、ミリア! hccps://rusalka.wac/、セレクト! 儚き泡、エグゼキュート!」
が、すぐに体勢を立て直し。
法機二機から火線と泡水流が、今円盤クトゥルフ・クティーラから展開されている衝撃波の力場へと放たれる。
「ターナーナ!」
「心配いらないわ、アイ! ふん、馬鹿の一つ覚えみたいに同じ技ばかり。そんなのこの神殿の浮上には通用しな……ぐっ!」
「キャー!」
ターナは余裕を讃えていたが、突如として力場が揺らぎ彼女とアイも動揺した。
衝撃波の力場には、次々と泡水流と火線が炸裂し彼女たちの予想以上の揺らぎが加えられていたのである。
「馬鹿な、こんな……なるほど、そういうことなのね!」
ターナはジッと力場の方に目を凝らすと、すぐに原因は判明した。
「思ったより行けそうね、ミリア!」
「当たり前よ、私を誰だと思っているの!」
法使夏とミリアが駆る円盤型法機二機は、その見た目のごとくやはり縦横無尽に反転を繰り返し。
法機メーデイアとルサールカによる火線と泡水流の攻撃が――特に法機ルサールカによる泡水流の、大小様々な泡の時間差の爆発が衝撃波力場に穴をこじ開け、円盤型法機二機は更に懐へと飛び込まんとしているのである。
「た、ターナーナ!」
「狼狽えることないわ、アイ! 懐に飛び込もうとはいい度胸ね……いいわ! 今度こそ小細工はなし、私たちは一歩も引かない!」
「ひ、引かない!」
それを見て尚も怒りに震えるターナだが、アイを宥めつつ。
逆に正面衝突をも厭わぬ覚悟を決めた。
「ミリア、あの円盤動かない気みたいよ!」
「来いよってことらしいわね……面白いわ! さあ、法使夏!」
「うん、ミリア! 行くよー!」
その様子を見た法使夏、ミリアもまた改めて覚悟を決め。
衝撃波の力場を尚も攻撃でより素早く中和しながら自機をそれぞれに駆り立て、合流及び決戦すべく円盤クトゥルフ・クティーラへと肉薄していく。
「たあああ!!」
「ターナーナ!」
「アイイイ!」
そうして海面より飛び出した円盤型法機二機と、空中で不動を貫く円盤クトゥルフ・クティーラは、攻撃がではなく機体同士が直接迫り合う――




