#13 相棒同士vs相棒同士
「それじゃあ踊りましょう、死の舞踏を!」
「舞踏を!」
対峙して間も無く、ターナとアイは言葉のみならず座乗の円盤クトゥルフ・クティーラを動かしてそう告げる。
円盤クトゥルフ・クティーラは彼女らの命を受け、海面から飛び出して来た。
「来たわ、ミリア! さあ私たちも!」
「命令されなくったって分かるわよ!」
これを受けて法使夏・ミリアも法機ルサールカ・メーデイアを動かす。
「ふん、法機メーデイア……私は知っているわ! あんた自体には潜航能力はない、すなわち!」
「すなわち!」
「くっ、敵機がまた分離したわ!」
ターナとアイは息を合わせ、円盤クトゥルフとクティーラを分離させる。
そして。
「アイ、クティーラは空中へ! 奴らを一緒に海中に追い込んで分離させなさい! そうしてまずは法機メーデイアの方だけ撃破するわ!」
「するわ! オーケーケー!」
ターナは指示を出す。
それ自体に潜航する能力のない法機メーデイア諸共に法機ルサールカを水中に追い立てて分離させれば、まずはメーデイアを簡単に撃破できると踏んだのである。
ターナの指示通り、アイは円盤クティーラを駆り最前線へと躍り出ると法機ルサールカ・メーデイアの後ろへと回り込ませる。
そうして。
「hccps://cthylla.frs/、セレクト! 秘匿子大転生、胎内動転! hccps://cthylla.frs/GrimoreMark、秘匿子沢山、エグゼキュート!」
「くっ……また円盤が分身したわ!」
法使夏は操縦席より周囲を見渡す。
円盤クティーラは自らより水でできた分身体の円盤を大量に生み出し、それらが群れとなり今度は空中で法機ルサールカ・メーデイアを取り囲む。
「ふん、こんな小細工じゃ……法使夏! まさか分かってないかしら?」
「わ、分かっているわミリア!」
「なら……hccps://medeia.wac/、アセンブリングシザース、エグゼキュート!」
「ええ、ミリア! hccps://rusalka.wac/、セレクト! 儚き泡、エグゼキュート!」
「くっ、分身たちがが!」
が、ミリアと法使夏も同じ手ばかり食うわけでもなく。
たちまち法機ルサールカ・メーデイアに命じ、それにより法機は周囲を火線と泡水流により薙ぎ払っていく。
せっかく作った分身たちがあっさりとやられ、アイも歯軋りするが。
「負けないもんもん! hccps://cthylla.frs/GrimoreMark、秘匿子沢山、エグゼキュート!」
「くっ……まだ!」
尚も円盤クティーラに命じるや、分身たちを更に生み出す。
「……hccps://medeia.wac/、アセンブリングシザース、エグゼキュート!」
「ええ、ミリア! hccps://rusalka.wac/、セレクト! 儚き泡、エグゼキュート!」
法使夏もミリアもそれに対応し、法機ルサールカ・メーデイアは尚攻撃を周囲の分身円盤たちに加えていく。
「まったく、相変わらずキリがないわねあの円盤は!」
「そうね、……だけどどうするのかしら法使夏? このまま敵が送り出してくる雑兵たちを薙ぎ倒すだけじゃ後手後手に回るだけよ?」
「分かってる、ミリア!」
攻撃を続けながらもそれに対して尚も歯軋りする法使夏だが、ミリアのその問いかけに考えを巡らす。
自分たちの乗る法機機体の耐久性は幻獣機製のものであるために、また航続性は電使衛星からの電使力供給によりどちらも折り紙付きである。
しかしそれは――正確には仕組みは不明だがこれまでの戦いからして――敵円盤とて恐らく同じである。
持続力が心配なのはむしろ搭乗している法使夏たちの方で、このまま長期戦となれば気力体力共々尽き果てた所を、隙ありとしてやられかねない。
「後手後手に回るんじゃいずれ終わりね……なら先手を打つ以外にはないわ!」
「先手……どうやって?」
「……これから考えるのよ!」
「!? ……はあ、それじゃあまるで誰かさんのようね……」
――さあ、行きましょう皆! ……その名も、オペレーション後手後手! 始動よ!
後手後手という言葉が出てきたことも相まって、ミリアは法使夏に対していつぞやの青夢の姿を重ねる。
「まあいいわ……いずれにしろ時間はない! さあ、どうするのかしら?」
「……ミリア、あなたに力を貸すわ!」
「……え?」
そんなミリアを横目に、法使夏は周囲の分身円盤を眺めながら考えついた。
そしてその策を、今すぐ実行に移さんとする。
「hccps://rusalka.wac/、セレクト ゴーイング ハイドロウェイ! hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト 水流鎧装! エグゼキュート!」
「な……何、これは!?」
徐に法使夏が唱えた術句により、法機ルサールカから放たれた水流が法機メーデイアを覆いミリアは驚く。
「さあ更に行くわよ! hccps://rusalka.wac/、セレクト ゴーイング ハイドロウェイ! エグゼキュート!」
更に法使夏の命令により、法機メーデイア部分に限らず法機ルサールカ・メーデイアの機体全体に水流が纏わされ、そのまま法機ルサールカ・メーデイアは動き出した。
「!? あれは……法機が動いたわ!」
「動いたわ!」
てっきりこのまま膠着状態が続くと思っていたターナとアイはこのことに驚き、自分たちも動き出す。
「アイ、今よ! 分身円盤たちに法機ルサールカ・メーデイアを海の中へ追い立てさせなさい! そのまま分離させて各個撃破よ!」
「撃破よ! オーケーケー!」
が、これは好機とばかり。
ターナの指示によりアイは分身円盤たちに命令を下し、それにより分身円盤たちは法機ルサールカ・メーデイアの軌道を邪魔するように立ちはだかる。
「邪魔されているわよ法使夏!」
「いいわ、なら! あんたたちのお望みは私たちを海に追い込むこと……それを叶えて差し上げるわ!」
「な……法使夏!?」
が、法使夏は。
次にはその言葉通り、法機ルサールカ・メーデイアを包む水流を再び海中に飛び込ませる。
「よーし、飛んで火に……いや水に入る夏の虫! さあ、分身ちゃんたちやっちゃえー!」
それを見たアイは分身円盤たちも海中に飛び込ませ。
そのまま法機の水流へと激突させていく。
「ぐっ! ……今よミリア、分離して!」
「くっ……命令されなくても!」
それを受けて法機ルサールカと法機メーデイアは、分離する。
それに伴い、水流も二つに分離する。
「これは少し妙だけど……好機よ、アイ! あんたは法機メーデイアを、私は法機ルサールカをやるわ!」
「やるわ! オーケーケー!」
ターナはやや首尾よくいきすぎているこの状況を訝しみながらも、アイと連携し。
「hccps://cthulhu.frs……セレクト、クトゥルフの呼び声! エグゼキュート!」
「エグゼキュート!」
当初の予定通り二機を各個撃破すべく、それぞれに攻撃を加える。
それにより法機を包む各水流は海中にて多数の泡沫となる。
「へっへーん! どんなもんだいだい!」
「……いや、待ってアイ!」
すっかりいい気になるアイだが、ターナはむしろ警戒を強める。
先ほど油断して法使夏に出し抜かれた件を、彼女は忘れてはいなかったのである。
今回もまた、あの法機ルサールカとメーデイアは一見すれば不可解な行動を取った。
ならば、確実に何かがあるはず――
ターナのその考えは正しかったが、その何かが何か分からないという一点において戦術的には致命的であった。
「何にせよ、水流がどちらも消えたということは奴ら今度こそ終わりかしら……まあいいわ……アイ! 後は一気に他の法機も」
「隙ありよ法使夏! hccps://medeia.wac/、アセンブリングシザース、エグゼキュート!」
「ええ、ミリア! hccps://rusalka.wac/、セレクト! 儚き泡、エグゼキュート!」
「ぐっ!?」
「きゃああ!」
が、ターナも状況的にここからの敵の反撃はないだろうと安心した、その時であった。
突如として空中の円盤クティーラ、海中の円盤クトゥルフへと、攻撃が加えられる。
円盤クトゥルフはすんでのところでこれを回避するが、円盤クティーラは攻撃が掠ってしまい、そのまま高度を落とす。
「アイ! ……くっ、何なの!」
「おっと、させないわ! ……儚き泡、エグゼキュート!」
「きゃっ!? く……」
ターナはアイを救出すべく、その円盤クティーラの落下するであろう地点へと円盤クトゥルフを急がせるさなかターナはちらりと先ほど及び今しがた攻撃が来た方向を見やる。
すると。
「あれは……水でできた円盤!?」
彼女が目を疑ったことに。
何と海中には、円盤クティーラの分身円盤を思わせる水で構成された円盤状の何かがあった。
それは。
「まったく、一時はどうなるかと思ったけど……あんたが私の法機に着せたこれ、中々悪くないじゃない!」
「おー! ありがとうミリア!」
それは円盤から機首が突き出たような形の水流を纏った、法機ルサールカとメーデイアであった――




