アニマ6-1 「myFunny morning」
久しぶりの投稿。
書き方の形状を変えました。
前に書いたやつも時間を見つけて修正しようと思います。
朝。好きなYouTuberのメイク動画を見ながら瞼にキラキラのハイライトを載せる。流行りのたれ目メイクも、ぷっくりの涙袋も、ピンクベージュのカラコンも自分が変わったのだという自信になる。
昔は考えられなかった可愛らしい服と、ふわふわに巻いた桜カフェラテのような落ち着いたピンクの髪も、鏡に映る自分の姿も、香水を振りかけた細い手首も自分の好きなところだ。
ナルシストでいい。自分が好きで何が悪い。自分に自信を持って何がおかしいのか。
YouTuberが呪文のようにそう言った。コメントでは「痛い」や「ナルシスト乙」など馬鹿丸出しの誹謗中傷も見られるが、私はいいねを押した。
今日も可愛くいようとする自分を肯定する意味を込めて。
そしてストラップを大量に着けたスマホを片手に、高く掲げてシャッターを押す。
「えっとぉ、ハッシュタグ今日も可愛くできた。ハッシュタグゲットレディウィズミー……、ウィズってどう書くんだっけ?まぁいいや」
インスタを打つ時に長いネイルがスマホに当たってカチカチ音を立てる。そのまま学校で勉強する気のない小さなショルダーバッグと、トートバッグに作り置きした弁当と、朝ごはんのお手製スムージーを入れて、ゴツゴツヒールのローファーを引っ掛けて、子豚のストラップ付きの家の鍵を手に取った。
「いってきまー!」
誰もいない玄関にそう呟き、外に出た。
少し暑くなった六月初頭。今日も入道雲の立ち上る快晴を睨む。そしてもう一度日焼け止めを大量に振りかけた。
「マジあつ〜。メイクバチ決めしておいて良かった」
施錠をして、サングラスを掛け、日傘をさす。本当はアームカバーも欲しいけど私好みの可愛いアームカバーは中々見つからない。
もう作っちゃおうかな。
アパートの階段を降りようとした時、ふいに背後に視線を感じ、振り返る。真後ろには杉の木が腕を伸ばしているだけだった。
「なに……ちょっぱやで行こ」
駆け足で商店街に向かう。
私は、和気愛理。大学デビューを華々しく飾った、花のJD。
「やっぱ、何か付いてきてるくさい?」
そして今をときめくフォロワー1万人のインフルエンサーにして、ストーカーの被害者でもある。
ーーーーーーー
「おはよう、あいちゃん! 今日も早起きねぇ!」
「おはおはー☆ おばちー!」
商店街にある和菓子屋のおばちゃんが陽気に片手を上げながら店先に出てくる。私はそのお盆に乗った新作サクランボ大福の試食を摘んで口に入れた。
「ウマー!やっぱり夏はこの酸味っしょー! はー、早起きしたかいあるー!」
少し冷やしてある皮と中のヨーグルトクリームとサクランボを丸ごと使った事から生まれる、サクランボの強い風味と甘さ、そして染み渡る酸味に頬っぺが落ちかける。
「なははは!この饅頭もあいちゃんがアドバイスしてくれたお陰だよ。レシピ考えてくれてありがとうね」
「いいって、いいって! あーしが好きでやってる事だし!」
そう言ってお饅頭の可愛らしいパッケージを顔の近くに持っていき、高く掲げたスマホの向きを考えながらシャッターを押す。
「また、インスタントカメラかね?」
「ちがうー!インスタね! また宣伝しておいたからよろぴー」
携帯を覗き込んだおばちゃんを笑いながら投稿完了画面を見せる。おばちゃんは「なんだかよぅ分からんけど、おおきにね。気を付けやー」と私を送り出した。
私は手を振りながら斜め向かいのお肉屋さんに立ち寄る。ガタイのいい七十歳位の店主がおっ!と声を上げて振り返る。
「おはようさん、あいちゃん! ああそうだ。この前教えてくれたチーズメンチ、丁度あがっとーよ!食ってくか?!」
「もち!1個ね!」
威勢の良い返事と共に湯気がまだ上がってる黄金色のメンチカツが紙袋に入って出てきた。熱いよ! という忠告を無視してかぶりつく。
ジュワッと広がる油の甘みと肉の塩味。玉ねぎの甘さと多めの胡椒が程よく混ざり合い、そこに少し癖のあるパルメザンチーズがとろりと溢れる。
この世の幸せは、これを指すのだ。
「このチーズメンチ、男にも子供にも人気でな! またアドバイス頼むよ」
「モチモチー! 任しといて!」
口の中をベロベロに火傷しながらあっという間に完食した私はさらに歩みを進め、中腹の辺りにある喫茶店の前を通りかかった時、若い女性に呼び止められた。
「あ! 丁度良かった! 紫陽花かき氷の試作品が出来たの! 食べてかない?」
「かき氷!? もちろん!」
勢いよく振り返り、写真映えもバッチリな水色と薄い紫の巨大かき氷の前に腰を下ろした。気が利く彼女はその横に暖かいコーヒーも置いてくれる。
「コーヒーも今朝市場で仕入れたものよ。飲んでみて」
「あざまー、みとちゃん!」
喫茶店の若店主は嬉しそうにカウンターの奥に入っていく。
銀スプーンでカラフルな氷山を突き刺すと、柔らかい氷がサクッと音を立てて僅かに崩れた。
口の中に入れると紫陽花の香りと、ソーダの爽やかな甘み、そしてバタフライティーソースの少し強い酸味が口いっぱいに広がる。
山の麓にある紫陽花型に切ったナタデココもくどくない甘さで爽やかなテイストのかき氷によく合う。
合う、けど、なんか、物足りないような。
コーヒーカップ片手に首を捻っていると、トレーを持った女性が戻ってきた。
「やっぱりなんか、足りないよね? なんだと思う? 遠慮なく言って!」
「それなー! うーん、これは……。あ! ソーダのソースがちょっと甘み強すぎんだとおもわれ! うーん、炭酸水とか掛けたら、口もパチパチパチするし、最後キンキンに冷えたジュースみたいに飲めるし、ありじゃね?」
「炭酸水?」
驚いたように、女性が聞き返す。私はうなづいた。
「そ、炭酸水。確か、お向かいの酒屋のてっちゃんが、酒を割る用の炭酸水を、バイトンコがミスって買いすぎたーってたよ? ちょうど良きじゃん?」
「炭酸水……炭酸水ね……。分かった! やってみる!」
「おk! んじゃ、ごちでーす!」
「え? もう食べたの!?」
驚く女性を横目に、リップと日焼け止めを塗り直し、店を後にする。
さぁ、次の店の味見を……としていたところ、学校の方角からチャイムが鳴る。
最近ネットで買ったスマートウォッチを見ると、時刻は「9:00」を指していた。
「ヤバ!」
急いで商店街を駆け抜ける。他の食料品店の店主が次々誘惑を目の前に掲げるが、のんびりはしてられない。
「ごめんみんな! 学食の限定クリームパンがあーしを呼んでっから! 帰りに寄ってくねー!!」
振り向きざまに手を合わせ、私は商店街を抜け長い石階段を駆け上がる。
キャラクター紹介
和気愛理
天照大学1年生。
出身は九州の田舎。
オシャレと美味しいご飯が好きな家庭的なギャル。
最近のファッションブームは港区系と量産型。
いつか渋谷にいるようなゴッテゴテギャルになりたい系。