四阿の色。
ここ最近、何故だか熱っぽい。気怠い。
きっと軽い風邪だ。
もうしばらく、四阿のこの長椅子で、
横になって天井を眺めていると思う。
バイト、休むって言ったら大林はなんて言うだろう。
鳥が鳴いた。
木々が揺れた。
この暑い夏には珍しく、風が冷たく感じた。
この国立庭園の本当の名物は
今だ現存する日本家屋と、
晴れた日には毎時、砂の引き直しをしている枯山水だ。
全長一.五キロメートルもある国立庭園は、端まで来てしまうと、観光客の声など聞こえない。
それでもたまに、ぐるーっと、庭園を周回する客がいる。
そんな客はいつも俺の事をじろじろみる。
今だってそうだ。
俺はその度に、四阿を独占しているようで、
何かへの責任のようなものを感じなければいけない。
四阿の腰壁の向こうには大きい池がある。
錦鯉が泳いでいて、鹿威しがある。
本来、鹿威しは畑や田圃の近くに置くものらしいが、こういうのもありだと思う。
水の滴る音がそややかに響けば、
カコンと竹の小気味よい音が鳴って。
雀の囀る声が聞こえて、涼しいそよ風が吹く。
俺は日陰で寝そべって、熱っぽい頭と気怠い体を休ませる。
視界には未だに生きているようにも感じる杉の天井と、
それを縁取るかのように真っ青な空、
更には、溢れんばかりの結葉を収めている。
何故だか、普段より風邪の方が、
ここがより良いものに感じることが出来た。
だから決心を付けた。
バイト先の大林に、バイトを休ませて貰えるよう頼むことにした。