危ない匂い
「お前は頑張ってるからな。」
「いいの?」
「おう。ここら辺で何個か空き家があってな。まだ水道も電気も繋がってるけど、だれも住んじゃいねぇ場所がある。そこに、俺と住むか。」
「えっ」
最後の一言が引っかかった。
お父さんと、、?
「嬉しいんだよな。かわいいなぁ、よしよし。じゃあ移動するから早く車乗れ。」
「はい、、、」
僕は
どこまで行っても逃げられないのだ。
黒く、いやに太陽に光る車に乗せられる。
希望が絶望に裏返った時。
きっと普遍的に訪れる絶望と同じものであっても、心にきたすストレスという支障はあまりにも大きく肥大するのだと、その時僕は気づいた。
お父さんの監視下からの解放という何よりも嬉しい事態は、一人では何も出来ないという現実を垣間見せ、挙句にはまたもやお父さんの監視下に置かれようとしている。
これじゃあ、まるで人形だよ。
お父さんが僕を可愛がりたいから、手元に置きたいから。
自分の思った様に、僕を構築したいから。
後部座席のシーツの上に、埃がかかっている。
床には無数のキャリーケースが置かれて、紺や黒のそれは何となく触りたくなかった。
お父さんは窓を開けて煙草に火をつけた。
僕は助手席で、煙たい空気を吸って、ただ遠くを見ていた。




