ばかが香るクリームソーダ
いつの間にか聡明は目の前から消えていた。
やっとの思いで脇腹を抑えながら体育館に入ると聡明は胡座をかいて皆とアイスを食べていた。
やっぱり敵わないと改めて思った。
「俺の分は?」
と息を上げながら聡明に聞くと、聡明は箱の中から1つを取り出し渡してくれた。
どろどろのぐしゃぐしゃだった。
いや、アイス自体はまだ若干凍っていた。
恐らく聡明が走った衝撃で半壊してしまったうえに、太陽の熱で若干溶かされたのだろう。
「あのさ。これどうやって食えっていうの?」
聡明は口いっぱいにアイスを頬張っていたらしく、
眉間に皺を寄せて、頭に響く冷たさに耐えながら、ちょっと待って、と片手をあげた。
「だいぶ辛そうに食べるじゃん。美味しいの?」
と聡明に笑いながら言うと、アイスの箱を挟んで向かいに座っていた高嶋がちょうどアイスを飲み込んだようでこう言った。
「この人馬鹿なんだもん。」
聡明は笑って吹き出しそうになったのか口に手を抑えて鼻で笑っていた。
やっと飲み込み終わったのか、聡明は
「馬鹿っていうな馬鹿って!」と
声をはりあげながら言うと、俺の方を向いて、食べ方を教えようとした。
「そのまま食え。」
俺に放たれた言葉はあまりにそのままだった。
こいつ、ばかだ。
「どうやって食うんだって聞いてるんだけど。」
「わぁったよ、しっかり教えるわ」
聡明は俺が手に持っていたアイスを取ると、
袋の角を破いた。
「これでここから流し込め。」
こいつは馬鹿なのか、頭がいいのか。分からなくなった。
確かにこれがまともに食べる方法ではある。
しかしこれはアイスとして食べていないじゃないか。
もはやクリームソーダの飲み物として飲んでいる。
俺は言われるがままに飲み込んだ。
味は確かだった。
「このアイス無くなるの早いんだけど。」
俺が笑いながら冗談めかしていった。
「そういうもんなんだよ。」
聡明はやはり馬鹿だった。