大林 一
いつもの事でも、やっぱり思う。
家がやけに静かだ。こんなに広い家なら、子供の走り回る音くらい聞こえてもいいのに。
ふぅ。と息をつき、また目の前の模試対策の教材に目を落とす。
ノートに問題の番号とページ数を書き、その後は答えを出していく。
本当はこんなことしたくないのは、誰にも言えない。
学校の同級生が羨ましい。
みんなで笑顔を見せ合うんだから。
僕は筆を進められなかった。
どうしても集中出来なくて、机に突っ伏す。
勢いよく家の玄関の戸が空く。
すりガラスが貼ってある戸は開けるとガラガラなり、こんなに静かなら、家のどこにいても気づく。
しかしそのうるささで、兄ちゃんの帰りだとわかる。
兄ちゃんはいつもああなんだから。
キレて帰ってくるか、夜遅くに酔って帰ってくるか。
女の人を連れて帰ってくるか。
女の人が来る時は壁の向こうで、兄ちゃんと女の人の荒い息が聞こえるせいで夜遅くまで眠れない。
でも、不満なんて言ったら兄ちゃんには何をされるか分からなくて、言えない。
父さんは他人には怖くて厳しいけど、僕たちには凄く甘い。
お母さんを殴る兄ちゃんを見てもそんなもんだ。って笑うし。
そのせいでお母さんはもう四人目らしい。