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既視感
あまりに脈絡が無い話でたじろぐ。
「えっと、何の話でしょう。」
「バイトだよ、バイト。覚えてるか?大林だよ。」
少しゾッとして、車道を眺めていた俺は急いで後ろを振り返る。
誰もいないのは分かっていた、だがもし、背後を取られていたら。
俺は何をされるか分からない。といったような考えがあった。
すると見慣れた光景だ。
豚骨ラーメンの刺激臭。
少し外にまで聞こえる調理音。
暗く長い路地。
俺の胸に住んだおぞましい怪物は大林によって叩き起こされた。
似たようなものを感じた。
俺は急いで電話を切る。
そして、走って店に戻り、少しずつ気持ちを落ち着かせながら父さんの横に座る。
父さんは少し横目で俺を見たが、何も言わなかった。
俺は父さんに守ってもらいたかったのだろう。
父さんの横にいれば落ち着けたのだろう。
父さんなら、と思ったのだろう。
野菜たっぷりラーメンの具が炒められている音は、俺の耳を支配してくれた。
しかしそれくらいが心地よかった。
俺の携帯はなり続けていた。