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父親
家に帰った俺は、再び溜まってしまったレポートに手をつける。
暫くやっていると、ふと気づく。
「あ、明日からバイトなんだった。」
昼夜逆転生活をしなければいけないんだった。
今は十三時、まだ寝るには早いか、先に昼食を食べよう。
そう考えていると、誰かが玄関を開ける音が聞こえた。
下ろした荷物と溜息がこのドアに沁みた。
ただいまは言わなかった。
父さんとはもうまるで話さないから、家に二人になった今は、空気がどっしりと質量をもったように感じる。
どこの部屋にも電気はついていなくて、閉じた白いカーテンの向こうから流れ込む陽の明かりだけが暖かかった。
時間が正午を過ぎたあたりということもあって、まだ寒くもなかった。
ただほかほかと暖かい匂いと足の裏から伝わるフローリングの温度が俺を満たした。
その中に父さんが入っただけで空気は一変する。
昼ごはん、食べなくてもいいかな。
わざわざ一階に降りなければいけない、それが俺には辛かった。