冷たい料理。
声を殺して、布団に顔をうずめながら泣いていると、ドアの向こうから母の声がした。
「ねぇ、あなたが辛いなら、お母さんも辛い思いをしたい。」
「やだ。」
俺はそう言い返した。
「あなたが優しいのは知ってるの。」
違う。優しくなんかない。
知られるのが嫌なんだ、見られるのが嫌なんだ。
馬鹿にされるのが、最後には見捨てられるんじゃないかって思うのが嫌なんだ。
「学校に行きたいなら、止めないよ。でも、学校というものがあなたを苦しめるなら、学校なんか無くなればいい。行かなければいい。」
「やだ!」
気づけば俺は、涙声で、それしか言えなかった。
「わかったわ。嫌なのはいいけど。落ち着いたらご飯、食べに来てね。」
俺は泣き続けて、葛藤をし続けた。
七時四十五分には家を出ていなきゃいけないのに、もう針は八時を指している。
「もう間に合わねぇじゃん。」
それからも泣き続けた、そしていつの間にか窓の向こうを眺めていた。
カラスが鳴いている。
あいつらって、苦しいとか無いのかな。なんて思いながら俺は、こう呟いた。
「腹減った。」
俺は一階に降りると、洗い物をしている母を見つけた。
でも話しかけられたくなかったから。
遅刻をしているのに部屋着の今の俺は、悪い子だから。
いつもの母の向かいの席に座ると目の前には、ラップがかけられた目玉焼きとトーストがあった。
付箋が貼ってあって。黒くて細いボールペンでこう書いてあった。
「あなたの好きなようにしていいよ。
でも、一つ約束をして欲しい。
怖いと思ったら、苦しいと思ったら、
辛いなと思ったら、休める場所を作って、一息ついてね。
そうじゃないとあなたの努力も、積み上げてきた物も全て崩れちゃうから。」




