【高嶋 瑞希の杞憂】
「瀬戸が入院した」と、まるで号外の新聞を配り歩くように桐谷 聡明が言い回っていた。
家が近く、瀬戸と幼馴染だった私はきっと誰よりその情報に喰い付いた。
文化祭の準備にかなり遅れてくるなり、休校中の学校内を走り回り、瀬戸の体調不良を言い広げる桐谷。
私はその足を止めさせて詳しく話を聞いた。
「瀬戸が家で倒れて、意識を戻さないらしい。」桐谷の口からそう聞いた時に、私の体は震えていた。
言い切るとまた桐谷は走り去ってしまった。
小刻みに震える体は鳥肌を起こしていて、脳は誤作動を起こす。
「瀬戸が死んでしまう。」
私は体育館に戻るなり、雛子に「コンビニ行ってくる!」と言って瀬戸の家を目指した。
電車に揺られて十分、そこから歩いて五分くらい。
肌色に近い木の色の柔らかい雰囲気のお家、庭には花が綺麗に埋められて、優しさと瀬戸の雰囲気を綺麗に包む箱。
電車はいつもより幾らも長く感じた。
まるで三十分くらい乗った気分で、ずっとずっと
「瀬戸がいなくなっちゃう。」という杞憂だけが心を蝕み、頭に反芻した。
電車を降りてからも走り続けた、スカートがめくれる事も気にせずに走ったのは久しぶりだった。
おかげで今は脹脛が痛く、全身が汗まみれで、息が上がりきっている。
そのせいで、折角吸い込んだ息がなぜか出ていってしまう。
「やっと、ついた、!」
荒く繰り返す呼吸でインターホンを押す。
その真っ黒なインターホンは、それっきり黙り込んでしまった。
どうしよう。