chapter:2-1
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「おい、ミシェル。お前は、あの噂を聞いたか?」
四年目に進級して数日が経ち、授業や実戦の稽古にも慣れてきたある日のことだった。ミシェルがいつものように、部屋で戦闘記録を見ていると、同室のディーナが酒瓶を片手に声をかけてきた。
「あの噂で伝わるわけがないだろう。あと、君はその飲酒癖をやめたほうがいい。二十歳以下の飲酒は我が国の決まりで禁止されているからね」
「安心しろ。ワタシは今日から二十歳だ」
「君の誕生日は三ヶ月先だろう。で、あの噂とは?」
ディーナは瓶の中に入ってある液体を一気に飲み干すと、呂律の回っていない状態でミシェルの質問に答えた。
「どうやらヴァイラミーを倒す妖精が森の中に出現するらしいぞ」
「妖精? 森に?」
ディーナの話によると、最近深夜の森の中で、何かと戦う少女の姿を見たという情報が多発しているとのことだった。深夜という普段は誰もが寝静まっている状態の中で動く小さな影ということで、もしかしたら妖精が化け物と戦っているのではないか、という噂が流行っているらしい。
「……なんだそれは」
つまりは信憑性のない、ただの噂というわけだ。ところどころ言葉が詰まるディーナを相手にしたミシェルは、この無駄な時間を過ごしてしまったという後悔から小さなため息を吐く。大体そんな便利な妖精がいるのであれば、私たちみたいなヴァイラミーバスターズはいらなくなるはずだ。
ベッドに倒れ込んだディーナを横目に、ミシェルは再び戦闘記録へと目を向ける。そこには幼き自分が見た、熊が感染源となったヴァイラミーの写真が差し込まれていた。