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chapter3-19

「実のところ、わたしもロールのことを良く知らないのです」


 神父は虚空を見上げて昔の出来事を思い出そうとして、ポツリと一言だけ言葉を漏らした。


「ロールと初めて出会った時、既にあの子はボロボロでしてね。森の中で倒れているところをわたしが保護したのです」


 神父が言うには、ロールは全身傷だらけの状態で森の中に倒れており、それを治療するために教会に運んだところ、少女が過去の記憶を持っていないことに気がついたらしい。唯一覚えているのは『ロール』という名前だけで、本当はそれが自身の名前かどうかすらわからなかったとのことだ。

 記憶喪失である彼女を放っておくわけにもいかず、神父はロールをこの教会に住まわせることにした。孤児院も兼ねて作られていたこの教会には、彼女と同じような境遇の子供達がいたため、すぐに馴染むことができと言う。


「ただ、一つだけ彼女にはわからない点がありましてね」

「わからない点?」

「声が聞こえるというのです」

「声……?」

「恐らく、ヴァイラミーのものでしょうね」


 ロールは時々、「声が聞こえる」というと教会を飛び出して血まみれの状態、かつヴァイラミーと思われる動物の体の一部を持って帰ってくるというのだ。

 初めてそれを見た時は酷く驚いたらしい。それもそのはずだ。ミシェルたちが学校で習っているように、ヴァイラミーは通常の動物とは全く異なる戦闘力を持っている。人間が素手で勝てるわけないし、ましてやその体を引きちぎる芸当などできるわけがない。

 しかし、ロールはそれをやってのけた。ということは、ロールは化け物であるヴァイラミーよりも強い力を持った少女だと言えるのだ。そんな存在、近くにいるだけでも不安だろうに、何故それをしなかったのだろう。

 ミシェルがその疑問を口に出す前に、神父は自分から語り始める。


「最初は彼女を教会から追い出そうかと考えました」

「でもしなかったんですよね」

「えぇ、彼女が彼女でいましたから」

「……人間のままでいた。ということですか」

「はい。彼女は恐らく、人を簡単に殺める力を持っているでしょう。ですがそれを振るわず、皆と遊ぶことが好きな少女のまま過ごしてくれている。だからわたしは彼女のことを信じているし、周りも彼女を信頼している。そろそろですかね、聖堂を覗いてごらんなさい」


 急にそのような指示をされたミシェルは、内心疑問を抱きつつも、自分が入ってきた扉を少しだけ開けて中を見た。

 そこには子供たちに殴る蹴るなどの、非力な暴行を受けているミシェル班の姿があった。


「ロールに何すんだー!」

「出てけー! このー!」


 このような状況になっているのは、恐らくディーナがロールに対して銃を突きつけていたからだろう。ポカポカ、という擬音がしそうな打撃を受けているディーナやマオたちは、どこか困っているような顔をして子供たちからの攻撃を受け流していた。


「ね、ロールは人として信用されてるでしょう」

「……そうですね」


 自分の知らないところで、ロールは彼女自身の居場所を作り上げている。

 その事実を喜ぶべきなのに、ミシェルはどこか、心が痛む自分がいたのだった。

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