chapter3-16
「記憶がない?」
「えぇ、残っているのは四年前からの記憶で。気がついたら教会の神父様に保護されていたんです」
ミシェルが過去に同じ名前の少女を失ったのは八年前の出来事だった。目の前にいるロールの言葉を信用するならば、ロールが記憶を失う前にミシェルと出会っていたことになるが……。
「おいミシェル」
「なんだ」
未だに地面に押し付けられているミシェルは、声をかけてきたディーナに対してぶっきらぼうに応える。
「お前、前にワタシに自分の過去を語った時、幼馴染の少女は自分の二つ下の年齢だったと言ってたよな」
「……あぁ、言った」
「今お前は十七だったよな。じゃあそいつは十五か、十六のはずか。お前はまだ誕生日を迎えてないんだからな」
そう。彼女らの年齢を考えると、ミシェルが話す幼馴染の少女の年齢はそれくらいの年齢のはずだ。だが目の前にいるロールと名乗る少女はどう見てもそのような背格好には見えない。年齢は一桁、せいぜい十歳前後だろう。先ほどミシェルが捲し立てていた時に『あまり背が伸びていない』と言っていたことから、ミシェルの記憶の中と比較しても、彼女が少女を失った時と比べて外見にそこまで差異はないはずだ。
当然、年齢だけを重ねて背格好は変わっていない可能性もあるだろう。だが目の前にいる少女はヴァイラミーを素手で倒した女だ。何か他の可能性があると考えた方が自然だ。
そう考えたディーナは、ロールの眉間に銃を突きつける。
「ディーナ! 何をする!」
「お前は黙ってろ」
少女は表情を変えない。自分の体に突きつけられた銃を見つめるだけだ。
「ロール、と言ったか。お前をワタシたちの学校に連れて行く。抵抗するようなら、撃つ」
その言葉に血相を変えたのはやはりミシェルだった。抵抗の意志を示すものの、体は二人がかりで押さえつけられているために動かすことができない。銃を突きつけられた本人は、少しだけ不思議そうにしてディーナを見つめた。
「……わかりました」
「では行くぞ」
「あ、やっぱり待ってください」
素直に了承したと思った矢先の行動に、ディーナはずっこけそうになった。真逆のことを言った本人はくるりと後ろを向き、森の中を指差す。
「神父様に、留守にすることを伝えなければいけません」




