chapter3-15
「……何を言っているのかな」
ミシェルの声が先ほどまでとは一変して低く、冷たいものへと変わっていく。口調も子どものような無邪気なものではなく、普段のものに近づいているようだ。甘ったるい夢の中から急に現実に戻されたかのように、ミシェルは眉を顰める。
「私だ、ミシェルだ。あ、それともシェリーって名乗った方が良いのかな。昔ロールはそう呼んでくれたものな」
「……ごめんなさい、あなたが誰かはわかりません。人違いじゃないかもしれないけど」
「どういうこと? わかるように説明して――」
「そうだな、わかるように説明してもらおうか」
そう言って一歩踏み出したのはつい先刻まで頭を抱えていたディーナだった。彼女の持つ銃が再び金髪の少女に向けられる。
「やめろディーナ!」
「ナコ、マオ。今のミシェルは使い物にならん。取り押さえておけ」
「そこまでしますか?」
「こいつらの間に何があったのかは知らんが、ここまで私情を挟み込まれては話が進まんぞ」
「同感ですわね」
マオは呟くようにそう言うと、いつの間にか手に持っていた縄でミシェルの手首を手際よく結び組み伏せた。そのまま彼女の体を地面へと押し付け、ナコに指示を促して手足を押さえつける。身動きが取れなくなったミシェルは恨めしそうな表情を浮かべて三人を睨みつけた。
「さて、邪魔者はいなくなったな。では色々と聞かせてもらおうか」
「……」
少女は何も言わないもののその場を去ろうとはしなかった。抵抗の意志はないと判断したディーナは銃口を向けつつも、引き金からはそっと指を離した。
「お前、名前は?」
「……ロール、です」
少女が発した名前を聞いて、後ろにいるミシェルが再びジタバタと暴れ出す。その様子には目もくれずにディーナは質問を続けた。
「そこで死んでいるヴァイラミーはお前が倒したということで間違いないな?」
「はい」
「武器は?」
「これです」
そう言ってロールは血に濡れた両手を見せつける。質問者であるディーナは疑いの目を少女に向けるが、ロールの体やその周りに武器と思われる物がないことを確認して再び質問を繰り出す。
「アレのことを知ってるか?」
そう言ってディーナはミシェルのことを顎で指したが、少女は首を横に振って否定する。また後ろで暴れる音がし始め、ディーナが次の質問に移ろうとした時、それに被せるようにロールが自分から言葉を発した。
「自分の記憶、ないんです。昔の」




