chapter3-11
「当てはあるのか?」
助手席で窓を開けながら寛いでいるのはディーナだ。バスターズの学校に通う生徒たちは運転免許証を持っているが、彼女は運転の荒さ故、ハンドルを任せられることはなかった。
「いや」
質問に答えるのは運転席のミシェルだ。今彼女たちは、木々が生い茂る林の中を駆け巡っていた。
「私たちより前線にいた部隊が逃したのだから、ある程度絞れてはいるが、あくまで推測だ。それより地図を見ていてくれないか」
「どうせ木しか見えないんだ。地図なんて意味をなさないだろ。こんな紙、見ているだけで酔いそうになる」
「どうせいつでもアルコールに酔っているくせに何を言うんだか」
前線が守っているラインから四年の生徒が守っているラインまでの横一列、それが逃したヴァイラミーが隠れていそうな部分であった。ミシェルが運転している車はその場所をなぞっている。
「周りを見ているものの、通った痕跡も無さそうですわね」
「はい。東側も同じくです」
後部座席に座っているマオとナコから連絡が来る。ミシェルも運転をしながら時折窓側を見ているが、ヴァイラミーの気配というのは感じられなかった。
あくびをするディーナを放っておいて、三人はそれぞれの方角を見渡す。そうして二キロ、四キロと進んでいくと、後ろに座っているナコが「あれ」と小声で呟いた。
「どうした?」
「いや、今何か金色のものが……」
一度車を止めてナコが言う方向を見てみるが、そこには特に何かが通った形跡が見られない。
「金に光るヴァイラミーなんて聞いたことありませんわよ」
気のせいではないかと言うマオ。己の自信の無さのせいか、ナコはその言葉に同意しようとした。
しかし、ディーナがその言葉を遮った。
「静かにしろ」
各々が言葉を飲み込み、辺りには風の音が流れ始める。その風が木々の葉を揺らし、小さく音を奏でる中、獣の咆哮が遠くで聞こえた。
「いるな」
「あぁ、行こう!」
咆哮が聞こえたのはマオが指摘した林の方角だ。ミシェルは無線機でイクサに報告を伝えると、武器を抱えて班員とともに木々の中に飛び込んだ。




