chapter:0-2
プロローグその2です。
「随分酷い顔をしているなぁ、ミシェルちゃん」
ミシェル・テマモがバイキング形式の食堂で朝食のパスタを巻いていると、彼女の席の向かい側の椅子に黒髪の少女が腰掛ける。黒い髪を肩甲骨あたりまで伸ばした少女の手には、ゼリー飲料が二本握られていた。
「それはお互い様さ、ディーナ」
「ふぅん。言ってくれるな」
「言ってくれるもなにも、君のその目の下のクマを見ればわかる。寝不足なんだろ」
ディーナ、と呼ばれた黒髪の少女は回答を拒み、握っていたゼリー飲料に口をつける。視線を逸らして会話を止めるその行動は図星をつかれたことを意味していた。
「昨晩はベッドにいなかったようだけど、また他の生徒達とのギャンブルかな」
「カードゲームだ。ちょっと白熱しすぎた」
「大負けしたのかい」
「負けたというのは語弊があるな。ワタシはリベンジをする権利を手に入れただけだ」
同室に住んでいるディーナのろくでもない言い訳を聞き、ミシェルは呆れて大きなため息を吐く。彼女が言うところの『酷い顔』をしている原因はディーナ本人なのだ。
「言い回しはどうでもいいが、夜中に帰ってきて荒れるのはやめてくれ。お陰で今朝は嫌な夢を見た」
「へぇ、それで珍しくお前にもクマができているというわけか」
「あぁ、お互い様と言ったろ?」
「確かに」
ミシェルが見た夢は自身の幼少期の出来事を再現したものだった。思い出は風化していくと言うけれど、ミシェルは彼女が昔体験した血に染まった誕生日の出来事は未だに鮮明に覚えているつもりだった。
その憎しみを覚えているからこそ、彼女は今この施設にいる。
「ところで君、そんな朝食で午前の訓練は持つのかい?」
「安心しろ。持たなければ適度にサボるだけだ」
「……退学になるようなことはしないでくれよ。あまり同期を失いたくはないのでね」
そう言ってミシェルは最後の一口を頬張ると、ディーナを置いて空となった食器を持ち、返却口へと片付けに向かった。
──
突如として世界に現れたヴァイラミーと呼ばれる人類の敵。それに対抗するために作られた組織であるバスターズは、世界各国から人員を募集していた。
これは、そのバスターズへ所属するために集まった人々の話である。
次回投稿は恐らく日曜日になると思います。