牛の首
貴方達、よぐこったら何もねぇ田舎さ来だごどなや。
ラジオ局の取材だど? はー、まずご苦労なごどだナイす。
ンでもなぁ、牛の首の話すだべ? そういうのにあんまし興味もだねぇほうがいいヨ?
貴方達も一生懸命探して来たんだドは思うけどサ。
ンだ。この村でお祭りスてんのは牛首様だぁ。
ナぬ? 牛頭天王? ンだ。なにやらそういう名前だったがも知んねぇげど、この村では昔がら牛首さまっつってだんだなぁ。
ン? ウスどベゴは同ず意味だってが? ふふふ。
他所の地方では、牛をベゴっつぅみでーだげど、おそらく牛首さまがら来てんでねーのがや?
牛が『ベーベー』鳴ぐがら『ベゴ』だってが? 馬鹿こけ。『ベーベー』鳴ぐのは羊が山羊だっぺ。
ベゴは『首』がらだ。元は『うしこうべ』さま。ほいづが年が経づにつれ、『ウスベゴ』さまって呼ばれるようになっのヨ。
ンだ。『こうべ』が逆になったんだべなァ。
牛首さまは元々悪鬼でヨ。人を呑んだり、病気にさせたりする悪い神様だったんだな。
そいづを『どうか一年大人しくしてでください』っつぅごどで、お寺でお祭りスてヨ。
神輿や山車や踊りをしてご機嫌を良ぐするようにすてだんだナ。
その踊りで使うやづに、牛首さまのお面があったんだナ。
木造りの面でヨ。んだげど祭りで使われるのを見だごどねぇ。どうやら和尚さんの話スだど、昔お面をかぶって事故があった。それ以来飾るだげで使ってはいねぇ。とこういうわげだ。
どんな事故だが聞ぐど、どうやら牛首さまのお面をかぶっと、牛首さまになって、人に災いをもたらす。とこう来たもんだ。
それを聞いでだのは、この村の悪餓鬼ヨ。餓鬼奴等、『そだごどあるわげねぇ』『たしかめでみっぺ』っつって、夕方の日の落ちる前に集って寺の本堂の裏手にあるお堂サ向がったんだ。
四人の悪餓鬼は、大将を平太っつってな。その他に弥助に四郎、茂八だった。
蛇を手負にすると、恨んで復讐スにくると聞いでは、蛇を半殺しにしてヨ。赤沼サ石ば投げっと祟りがあるってのに石投げして復讐も祟りもないど嘯く連中だ。
そいづら、こぞって悪戯笑い浮がべでヨォ。本堂の裏の林に着いだ頃には日も暮れで暗ぐなってたんだワ。
それでもお堂サ近づいでみっと、格子の向こうサ、牛首さまのお面が見える。
荒ぐ削られだ造りの面だげんとも、目ど口は丁寧に拵えられで、まるで生ぎでるようだったワな。
ンだげんとも、格子には南京錠が下ろされでてヨ。封されでだんだな。
でも、弥助ってのが器用でナ。針金一本でこれを簡単に開げだんだ。
四人とも楽すげに中サ入って、早速牛首さまの面を手に取ったんだ。
そごで、では誰がこれをかぶるべがどなった。
平太は茂八を名指しスた。
茂八は悪餓鬼奴等の中でも弱虫だったがら度胸だめスもあったんだな。
平太は嫌がる茂八に無理矢理お面をかぶせだんだ。
板間にねじ伏せられで、バダバダ暴れでだ茂八だっだげど、次第に大人しくなって、立ぢ上がって三人を見だんだナ。
平太は指さして笑ってだんだげど、茂八はその平太の腕ば取って、ガバッと面の口の中サ入れでしまった。
面もカパっと口が開いでナ。平太の腕がどごサ入ったんべど思うぐらい肩まで口の中サ入っちまってヨォ。
他の二人はガダガダど震えるしか出来ねがったんだ。
するとバツンと面の口が閉じられでヨ。平太の肩がら血がドバドバ、ドバドバって吹ぎ出してヨォ。辺りは血だら真っ赤だ。
平太は肩を抱えでワンワン泣ぎながら、痛え痛え言ってだげんとも、茂八はそんな平太の腰ば掴んで、また面の口をカパっと開げで今度丸呑みだ。
残った弥助ど四郎は、その様バ暫ぐみでだんだど。
果だすてこれは現実なのが?
夢ではねェのが?
その間、茂八のかぶった面の口は、平太の肉を喰らって、クチャラクチャラ鳴らすてだんだげど、その内に『モオー』っと一声鳴いだがど思うど、『ゲプー』って大きなゲップだべ。
辺りには血と肉の臭いが充満スてヨォ。ヘドば吐ぎそうになったんだべ。
二人はこれは噂に聞く手品というもんで、平太と茂八どで、オラたぢを騙すてんでねーべがど思ったげど違った。
面をかぶった茂八がゲップする度に、喉首がブワッと広がンのナ。
これは人でねェ。牛の反芻だべど思った。
茂八は牛首さまになっつまったんだどわがったんだな。
牛首さまは貪欲で満足を知らねェ。
茂八はゲップすて、その度にまだ口をクチャラクチャラ。
二人は自分たぢも呑まれるど思って、お堂の外サ飛び出したんだァ。
和尚さんならなんとかすてくれる。
そう思って本堂のほうに行ぐど、本堂の灯りが点いでない。
その頃、和尚さんは小僧を引き連れて村の葬式さ行ってたんだナ。
ンだげんとも、二人とも本堂サ上がり込んで、何がすがるもんを探すたんだな。
しかし何もない。ただ寺ン中の奥へ奥へ逃げるだげだ。
しかも後ろからバダバダど二人を追いかげで畳を踏む音が聞こえる。
こら捕まったら喰われると、二人はさらに奥サ逃げまぐって、遂には行ぎ止まりの小さな部屋にたどり着いだ。
二人はそン中サ入りこんで、戸サ部屋のモンを押し付けで開がねようにすたんだ。
そうスてっど茂八が追い付いたらしぐ、戸をガダガダやってだんだナ。
そごで怖ぐなった弥助が戸の向ごうサ聞いだんだナ。
『お前は茂八が!? 牛首さまが!?』
てな。するど戸も何も部屋ン中に吹っ飛んでヨォ。真っ暗な中にちょこん──と茂八らしい人影が立ってだんだワ。そすて言った。
『どっちだど思う?』
どナ。二人は夢中になって逃げようど、茂八の脇腹の隙間を狙って転がるように飛び出したンだ。
弥助が廊下サ飛び出して振り返って見るド、茂八サ腰捕まえられでもがいでる四郎がいだんだド。
四郎──! と叫ぼうどしたら、まだもや面の口のとごがパカッと開いで、四郎をアングアングど呑みこんですまった。
はァーー、これは自分も呑まれるど思って、弥助は四つん這いになって寺ン中を逃げ回った。
それを茂八はバダバダ音を立でで追いかけ回す。
そのうぢに弥助の着物の帯を捕まれでヨォ。いやはやもうダメだど思って右手を上げで抵抗すようどすた。
ンだげんと、その手が捕まれてガブーっと肩まで呑みこまっちヨォ。
見ればもう肩がら先がなぐなってる。
わがったとたんに痛みが襲ってきて、辺りを転げ回ったンだナァ。
それでも死にたぐねぇもんだから、這いずり回って逃げようとしたら、今度左足を捕まれででヨォ。
ああもうダメだ!
ど思ったどごろで、『ダツーン!!』と大きな音がしてよォ。
弥助が体を起ごして見っと、そごさは弥助の親父が鉄砲構えでだんだど。
弥助の親父は鉄砲撃ぢでヨ。山サ入ては熊やら猪やら撃づ生業でな。丁度、山がら帰てくるどごだったんだ。
そごで我が餓鬼が泣ぎながら追っかげられっとご見つけで、なんの遊びがど思って追っかけで来たんだド。
そしたら我が子の腕喰われるの見で、これはただごどではねェど、襲ってる童子の腕を狙って撃ったンだナ。
茂八の腕は吹っ飛んででよぉ。その際に牛首さまのお面も外れで畳の上サ落っこったんだど。
弥助は、はァーー助かった。ど思ったンだげどサ。茂八はクルっとひっくり返ったがど思うど、牛首さまのお面を残った片手にとって、山さ駆けでったンだどサ。
それ以来、村の家畜が荒らされだり、山サ入たやづが神隠しにあったりどしたんで、山狩りをして茂八を探しだんだと。
ンだけど、山の洞穴ン中に牛首さまの面を見つけだだげで、茂八の姿はどごにもねがったんだど。
こんなに恐ろしい牛首さまの面は燃やしてしまうべ、ど成ったんだげど、さすがに祭りで使うもんだっつーごどで、日を選んで燃やすごどにしたんだげど、燃やす前日に和尚さんが、お面をしまってだどごろを確かめっと、もうすでに持ち去られだあどだったんだど。
その部屋には泥にまみれだ子供の足。これは茂八に違いないとなったが、その後に和尚さんが牛首さまをなだめるお祭りを開いでナ。
それ以来パッタど害がなぐなったんだど。
茂八はその後が?
それよ。それがら噂ではヨ。人に化げで普通の生活をすながら人呑みを続げる悪い鬼になってるってはなすだ。
ほ れ
お前さんの後ろに。
なーんてな。冗談だ。怖がっちべ。
だがら、貴方達も面白半分で牛首さまを調べでヨォ、ラジオなんかで放送すてはなんねェど?
悪戯者が牛首さまの面を見つけで、それかぶりだぐなりましたとなったら、もう誰も止めれられねぇ。
な。わがったら、この話すは人様に話さねェようにな。
ん? はっはっは、貴方、オラが義手だどよぐわがったな。
ンだ。オラそんどぎの生ぎ残りでヨ。だがら臨場感あったべ?
うん。オラが弥助が、茂八のどっちがってが?
『どっちだど思う?』