ゲームの世界なら好きなだけイチャついてもいいよね
――VR世界へのフルダイブが当たり前になった時代。わたし、宍道紫はとあるVRMMOにはまっていた。
いわゆる剣と魔法のファンタジー世界というもので、昨今のゲーム事情で言えばそこまで珍しくはない。
ただ、このゲームにはとあるシステムが備わっている。それは、
「ねえ、ユカリ。そろそろ、しよ?」
ゲーム内にある市場。人通りはかなり多く、NPCも混じっているが、プレイヤーも相当数いるのだ。
そんな中心の噴水前で、私の幼馴染である霧渚秋音は言った。表情もしっかりと、わたしに求めてきているのが分かる。
実にリアルで、思わず生唾を呑み込んでしまった。
ゲーム世界といっても、あらゆる感覚がリアルと同じようで、息遣いまで伝わってくるようだ。
秋音――ゲーム内ではアキネと呼んでいる。彼女が求めているのは、『キス』だ。
わたしと彼女は付き合っている……恋人同士だ。女の子同士で愛し合うのだって今では普通だ――って言いたいけれど、なかなか表立って付き合うのは難しいもので。
そこで、わたし達はゲームの世界でイチャつくことにした。
リアルの感覚に近いところで、他の人は誰もわたし達のことを知らないけれど――公然とイチャつくことができる。
最初のうちは町中や狩場を歩く時に手を繋いだり、休んでいる間にハグしあったりだったのに、だんだんとアキネが求めるものが過激になっていく気がする。
こんな人通りの多い場所で、さすがにゲームの世界といえども恥ずかしい気持ちが強い。
「キスなら、人のいないところの方がよくない?」
「私は今したいな」
「アキネって結構わがままだよね」
「積極的って言ってほしいなぁ。ユカリはどちらかって言うと受け身だし?」
「それは否定しないけど。実際、ゲームでもDEF寄りのステータスにしてるし」
「大盾使いの女の子はかっこいいし可愛いよ。だからキスしよ」
「脈絡もないし話が戻っているんだけど……」
「ゲームの世界だから、誰の目も気にせずに、でしょ?」
上目遣いで求められたら、わたしだってもう拒否できない。
お互いに手を絡ませて、見つめあった後にくちづけをする。その時点から、世界はわたしとアキネだけになった。周囲の雑音なんて気にならない。
お互いに夢中で、どれだけ時間が経っただろうか。
ようやく離れたところで、互いに小さく息を吐いた。
「ほら、ゲームの世界ならイチャつき放題じゃん」
「……いや、めっちゃ見られてるけど」
ちらりと周囲を見れば、足を止めてこちらを見ている人々ばかりで、思わず顔が熱くなる。
そんなわたしに対してアキネはくすりと笑みを浮かべて、
「いいじゃん。リアルでイチャつけない分、この世界では見せつけてあげようよ。私達が一番愛し合ってるってところをさ」
――これはゲームの目的に合っているのだろうか。
たぶん違う気はするけど、わたしと彼女はこの世界でもっとイチャイチャして、愛を深め合いたいと思っている。
いつか、現実世界でも気兼ねなくできるといいけれど、それまではこの世界で目一杯楽しんでいこう。