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迷惑な依頼主 第8話 スペイサイド公爵


イングリットにエスコートされ、静々と廊下を渡っていく。

私のドレスのスカートに隠れ、カテナがついて来ている。


イングリットはお姫様だから、屋敷の中で逢う人、逢う人、私達に対して恭しく頭を下げてくれる。

心なしか気分が良いが、自分の格好を思い出したら恥ずかしくて転げ回りだしそうだ!


「 噂に違わぬ美形のソードマスターですわね 」


「 . . . . . . . . 」


くそう、からかわれている。


彼女は男装の麗人といった格好だ。

衣装を用意してくれるなら、私にも同じ服を用意してくれれば良かったのに。


「 マーベル様はそちらの方がお似合いですよ 」


また、心を読んだのか?マリエルさん . . . . 。

彼女は、私達の後を3歩離れてついてきている。


「 身長が少し足りませんから 」


五月蝿いわい!



居館は3階建て。

私達は階段を上って最上階に向かっている。

スペイサイド公爵のいる謁見の間に。


「 僭越かとは思いましたが、貴女の事は森人(モリビト)とさせて頂きました。

冒険者というのは少し不都合なので 」


イングリットが淡々とそう言う。


私も馬鹿じゃない。

普通に考えて、何処の馬の骨とも解らない冒険者が公爵様に謁見できる訳がない。

せいぜいギルドマスターが会えるかどうかだ。


イングリットが直に言葉を交わしてくれるのは、私を取り込まねばならない理由があるからだろう。


魔法士の格好をしてまで態々、自分自身でギルドに乗り込んできた所を見ると、それだけ切羽詰まってるってことか?でも、なぜ切羽詰まってるかは判らない。


これまで彼女に対して敬意を払わなかったのは、彼女の真意を確かめたかったからだ。

私のぞんざいな口の利き方を彼女は、一度たりとも咎めはしなかった。


そのぶん遊ばれはしたが、彼女がその様に振る舞ったのは、私と良好な関係を築いておく必要があるからに違いない。


私が使えるとしても、公爵家のお姫様が冒険者と友達になりたいなんてあり得ないからね。


しかし、森人ってなんだ?エルフか?

私の耳は人の耳だぞ?



最上階の最奥の部屋に私達はたどり着いた。

扉を護る様にして、守衛が6人も立っている。


「 森人、マーベル・ファムを連れてきました。中に入れて頂けますか? 」


彼らは無言で、イングリット、私、そしてマリエルさんの頭の先から爪先までマジマジと見る。

おい、それ、視姦じゃなか?時と場所によっちゃあ立派なセクハラだからな!


お姫様なんだから、唯、開けろって言えば良いじゃないか?


「 伺いを立て来るので、その場で暫しお待ちを 」


そう言うなり、守衛の一人が謁見の間に入っていく。

なんなんだろうね、この厳重過ぎる警備は?


暫くすると、謁見の間に入っていった衛兵が一人の老人を連れて部屋から戻ってきた。


「 アクシズ卿、お久しぶりです 」


老人はどうやら、イングリットの知り合いらしい。


「 姫様、不調法をお赦し下さい。本日は公爵領の主たる貴族が集まっておりますので、愚卿めが検めさせて頂きます 」


老人は、おもむろに私たちに向かって魔法を発動すると、その眩い光に己の顔を照らしながら、あーだこーだと言いだした。いや、呻き出したの間違いか?

ああ、なんてシュールなんだよ。


「 問題ございません。中にお入り下さい 」


武器の携行がないか確かめてたのかな?

光が消えると老人は、イングリットに中に入るよう促した。

6人の衛兵が、手に持ったハルバート(斧槍)を頭上で交差させて私達を謁見の間へと誘う。


重々しい扉が開き、その向こうには数十人の装いを凝らした人々がいた。

この人達が、爺さんの言った”主たる貴族”という奴なんだろう。


壁際には、グリップを上にして剣を抱く年季の入った甲冑が立ち並んでいる。

公爵家累代の宝というやつか?


イングリットは部屋に一歩踏み込むと、右手を胸に当てて頭を下げた。

それに釣られて私もスカートを摘んでお辞儀をする。

私だって、これぐらのカーテシーはわきまえているのだ。


「 公爵閣下に申し上げます。イングリット・スペイサイド、此処に、ブラウンデッドの森に降臨された守護天使の御使いたる森人をお連れ致しました 」


彼女が吐く思ってもみない口上にビックリだ。

何を言ってんだ?此奴は!?

アレか?スキル上げの事を言ってるのか?!


「 イングリット、それに、そこの森人よ、近くに寄れ 」


私はお辞儀をしたまま、上目遣いで声の主を窺った。

上座に座るのは未だ若い貴族だ。

金糸で縁取りされた黒い詰襟の赤い短上着(チュニック)に白いズボンを着け、膝まである黒いブーツを履いて脚を組み、豪奢な椅子に座るその姿は公爵然としている。


あれがスペイサイド公爵、イングリットの兄か。

彼女に似た美形だが、彼の髪も瞳も闇の如く真っ黒だった。


彼の左側には燕尾服を着た初老の紳士が立ち、右側には青い短上着を着た髭もじゃの偉丈夫が控えている。

家宰と領軍の司令官といったところだろうか?


伏し目がちに近寄り、改めてお辞儀をする私達に公爵が声をかける。


「 守護天使の御使い殿よ、遠い所をご苦労だった。来訪を歓迎する。

そなたが我が領地に滞在する間、如何様な便宜もはからってやろう。我が家と思って気楽にしてくれ 」


公爵からの破格の厚遇に、会場が俄かに騒めき始めた。


( 本当にあの少女が、守護天使の御使いだというのか? )


( そもそも守護天使の御使いと云うものがいるのか疑わしい )


( だがバランシェ卿の領地は、ゴブリンの群れから村を救われたと聞きましたぞ )


( あの様な幼気な少女が魔物を討伐できるなど、信じられません )


殿の御前でよくもまあピーチクパーチクとさえずるものだ。

でも、守護天使の御使いなんていないってのには賛成するよ。

当の本人が信じていないからね。


騒めく貴族達の中から一人の貴族が公爵の前に進み出てきた。


「 閣下、この時期に、何故、その御使いなる者を招聘されたのか理由をうかがってよろしいでしょうか? 」


ロマンスグレーの髪をオールバックにした渋いオジサンが、私が訊きたい事を訊いてくれる。

魔物討伐しに来て、何故こんな格好をして公爵に謁見せねばならんのだ?!


公爵はそのオジサンを睥睨すると、鷹揚に頷いて答えた。


「 良き質問だ、ギルフォード。お前達も知っての通り、現在、ハイラントに続く森には魔物どもが充満している。そろそろ、それらを統べる者が必要なのだ 」


「 なるほど、その者の到来が計画開始の狼煙となる訳ですな 」


「 左様 」


魔物討伐の事を言っていると思うのだが、言い回しが比喩に満ちて仰々しい。


公爵の説明を聞いたオジサンは、恭しく私に向かって頭を下げた。なんで?


それを見ていた他の貴族達も一斉に頭を下げていく。


私が守護天使の御使いだという事より、此処に来た事自体が重要視されているように思えるのだが、気のせいだろうか?



その刹那、私は気づいた。

皆が頭を下げる中、同じ振る舞いをしていない者が数名いることを。


彼らは一斉に動いた。

いち、に、さん . . . 全部で5人。


貴族達の間を縫って、此方に近づいてくる。


あの速度で近づいて来るのに頭が全く揺れていない。体幹を鍛え上げたプロの足捌き . . . . 刺客か?!



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