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迷惑な依頼主 第6話 領主


森を抜けると、今度は打って変わって牧歌的な風景が目に飛び込んで来た。


幾つかの村を通り過ぎたが、放牧された牛がそこらかしこで草を食み、馬が自由に駆け廻る平和そのももの風景。


アカン、眠たくなってきた。

カテナは馬車の中ではほとんど眠っている。猫はいいなあ、どこでも眠れて。


「 魔物なんて、何処にもいないじゃない? 」


「 マーベル様、ローラントとスペイサイドの国境付近に魔物は滅多に出て参りません。

誰かさんが狩り尽くしてしまわれたので 」


マリエルさん、森の中で出てきたのはレア物だったんかい?!


「 私達が問題視しているのは、王家直轄領ハイラントとの境界にある森なのです。現在そこは、魔物で充満しているといって過言ではありません 」


魔物で充満する森?もっと北や南の未開地帯ならいざ知らず、人族の領土でそんなものがあり得るのだろうか?


私の疑問を察したのか、イングリットが説明する。


この世界には、魔物と人族、その他亜人が共生している。

もっとも、ゴブリンやオークが人族と一緒に暮らしている訳じゃない。


但し、そこには政治があり、経済がある。


冒険者は魔物を狩る事で金を得る。

領主も、魔物から護ってやるからという理由でその分の税を取り立て、兵を養い権力の基盤を強化する。


一方で魔物の方も、人間を滅ぼしてしまうと食糧事情に大きな影響が出てしまう。

野生の動物を狩るより、戦闘能力の低い村人や家畜を襲う方が楽だからだ。

村人を食べてるところを想像したら、ホラー以外の何物でもないが。


だから、魔物が人間を根絶やしにてしまうことはなく、村を全滅させるようなな襲撃は、自分の知る限りではこれ迄一度もない。


冒険者は魔物がいなくなると金が稼げない。

領主も税を取り立てる理由が希薄になくなる。


だから、森の奥深くに逼塞する魔物まで狩ろうとはしない。

一旦は森の奥に追いやっても、数を増やして再び現れてくれる方が長い目で見れば食いっぱぐれなくてすむ。権力を維持できる。


変な言い方だけど、魔物と領主と冒険者は持ちつ持たれつなのだ。

領民には迷惑な話なのだけれど。


ところがだ、ブラウンデッドでは事情が変わっていた。

私が拠点にしてるオーバンの街はローラント王国の辺境にある。

いわゆる辺境伯領というやつだ。領主は侯爵だけど。


キャンベルタウン侯爵という、その偉いおっさんが治める辺境伯領のお隣も、これまた辺境だ。国を跨ぐが、それがブラウンデッド・スペイサイド公爵領。


その辺境を治める領主様が代替わりした。

これが、イングリットの兄という奴だな。


王国に数多ある爵位持ちの貴族の領地に比べてど田舎の辺境に赴任してきた若様は、これまで過ごしてきた王都に比べて悲惨極まりない己が領地の田舎ぶりに我慢がならず、ブチ切れてしまったらしい。


王族に最も近しい自分が、何故、そんな田舎に住まねばならないのか?!と。

多分、王様の嫌がらせなんだと思うけれどね。


そして、己の領都を王都の如くにするという野望をもって、猛烈なスピードで領地を開発し始めた。


動機はどうあれ、領地を開発して領民が豊かになるならば、彼は偉大な領主として称えられることだろう。


しかし、やり方に問題があった。


急激に環境を変えるには痛みが伴う。


領民は森の伐採に駆り出されて畑は荒れ果てるし、森林の伐採で自然災害が頻発する。


それに加え、開発に邪魔な魔物を、軍隊を動員し、冒険者を雇い集めて殺して廻った結果、最初は逃げ惑っていた魔物達も集団化しだしたらしい。


魔物が種族を跨いで集団化するなんて驚きだ。


これで、魔物と公爵の全滅戦争になったら、どちらかが淘汰されるまで続くパターンだよね。

公爵の金が続かなくなるんじゃないだろうか?

財政難だからって魔物討伐を途中で放っぽりだしたら、魔物が歯止めを失ってスタンピードを始めるかも知れない。


イングリットの要求は、集団化した魔物の討滅だった。


そんなのを狩りに行くのか?


「 王国政府に援軍を出して貰えないのか? 」


「 そんなことをすれば、他の貴族達が待ってましたとばかりに公爵家を糾弾しますわ 」


貴族は嫌だねぇ。助け合いの精神の欠片もない。


まっ、最悪は王国軍が出っ張ってくることになるだろう。





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