迷惑な依頼主 第5話 将官
「 アンタんちの家宰でもなけりゃ軍人でもない私が、領軍を使うだって?そんなの無理無理 」
前金を払ってるからといって、幾ら何でも無茶ぶりが過ぎる。
カテナが欠伸をしながら、後脚で耳の辺りをかいている。そんなにめくじら立てなくてもと言っているように。
「 お姫様、良く聞きな。軍隊ってのは、命令に従う兵士がいて初めて成り立つんだ。それこそ、階級に従った普段からの規律が戦場でものを言う。
領軍の軍法すら知らない私が、今日からお前達の上官だ!なんて出ていってみろ、袋叩きに会っちまうよ 」
全く困ったお姫様だ。自分が決めた上官なら、領軍も従うと思っているのか?
下級兵士のほとんどが徴兵されてきた農民だろう。
ただでさえ、無理やり連れてこられて兵士をやらされてるんだ。そこに何処の馬の骨とも分からない奴が来て、生殺与奪の権をチラつかせりゃあ誰だってブチ切れる。
「 あら、そうかしら?マーベルさんがやる気を出せば、どうにでもなると思うのだけれど 」
「 やる気の問題じゃないってば! 」
あー!イライラくるなあ!!
「 半年ほど前、我が領地でおかしな出来事が起きました 」
今度はなんだ?
天使が舞い降りて御告げでも聞いたか?誰がオルレアンの少女なんだ?
「 我が領地からローラントのキャンベルタウンにかけて、魔獣が一切合切いなくなったと云うものです。調べさせたところ、それには或る冒険者が関わっていて 」
「 . . . . . . . 」
カネナが、私に擦り寄ってみゃあと鳴いた。
「 その冒険者は、周到に準備をして罠を仕掛け、魔獣を巧みにその場所に誘導し、罠にかかった所を一匹たりとも逃さず屠ったそうです。例え、それが大きな群れであっても 」
やべ . . . . . . . 。
「 そういう事が何度か報告されました。
兵士の中には、魔獣の被害から救われた村の出身者も多くいるのだとか。その冒険者は、今では我が領内ではブラウンデッドの守神と崇められていて . . . . . 」
「 . . . . . もういいよ 」
はぁ〜、因果は巡るか。
「 私が、ギルド規約を破らせてでも、貴女を欲しがったのが解りましたでしょ? 」
この女といると、敗北感しかないな。
私は目的があって冒険者になった。
金と力と技術が必要だったのだ。
目的達成のため、短期間でスキルを磨き大金を稼ぐには冒険者になるのが一番手っ取り早くて確実だったからだ。
冒険者を始めてから2年経たずしてソードマスターになった。
これには訳がある。剣士職を始めると同時にとったのが鍛治スキルだ。
職業のレベルは依頼の達成数、その難易度によって上がっていく。
受注ギリギリ可能な依頼を幾つも請けた。当時の私のレベルでは達成するのが困難だと思われる依頼まで、立て続けに請けたのだ。
一つ、二つの難易度の高い依頼なら、達成する奴はザラにいる。
だけど立て続けとなると疲れが溜まり、何処かで大きなミスをやらかして、それが命取りとなる。
ならば、どうして私にそれが出来たか?
此処で鍛治スキルの出番だ。
剣士職といえ、剣だけでそれだけの依頼をこなしていくのは困難だ。
身体を酷使すれば疲れや怪我は半端ないからね。
だから使ったのだ、罠とか、罠とか、罠とか。
罠を使っても、剣でトドメを刺せば剣士としての経験値は得ることができる。
鍛治スキルは、罠を作ればつくるほどスキルが上がっていく。
そして今では、ソードマスター兼上級鍛治師だ。
但し、剣と罠があっても、それを使いこなせるだけの頭がなければ役に立たない。
数もこなせない。
そこで大事になってくるのが戦術だ。
どういう罠を使うか、獲物をどうやって見つけ、どうやって罠まで誘き出すのか、どうやって罠にかけるか、どういう武器を使って仕留めるのか等々。
それを2年間考え続けた。いや、冒険者になる前からだから、5年くらいだろうか?
そういうのを誰かが見ていたという訳だ。領地の守神は大袈裟だけど。
「 領軍を使えと言うのは分かったよ。だけど、数も判らないほどいる魔獣を、どうやって根こそぎ見つけ出すんだ? 」
サマースノーことイングリットは、顔をのけ反らせて甘い微笑を浮かべると言い放った。
「 あら、お得意なんでしょう?誘き出すのは 」
くそ〜、此奴には敵わねえなあ。
森の中で野営を重ね、オーバンを出て三日目に森を抜けた。
道中、グレーターウルフなんかの魔獣や、ゴブリンやオークといった魔物の群に襲われたが、護衛が10人もいたから私の出る幕はほとんどなかった。
まあ、勿論、加勢はしたけどね。
大剣を振るうまでもなく、もう一方の佩刀、『小狐丸』で一刀両断にしてやった。
『小狐丸』の名は謡曲の『小鍛冶』から拝借した。
大剣の方は『龍殺し』。こちらの方は説明は要らないだろう。
そう、私は転生者だ。
だから、歳不相応な知識を持っている。