迷惑な依頼主 第4話 王族
さすがは貴族と言うべきか。
4頭立ての豪奢な馬車に、騎馬の護衛が10人も就くのはやり過ぎとは思うが。
私は、その馬車に乗せられてドナドナ状態になっている。
広い馬車の中を跳び回りカテナはご機嫌だけれど。
目立つ事この上ない。
「 おい、ついに『斬血姫』も年貢の納め時らしいぞ 」
「 何をやったのかしらね 」
「 また、領主様の代官をぶっ飛ばしたんじゃね?! 」
聞こえてるぞ。私が帰ってきたらぶっ飛ばされるのは、お前らだ。
あの日、ゼギルは席に戻って来るなり、何やら言い難そうに説明した。
「 ローラントとスペイサイド、それと両国の冒険者ギルドの間には協定があってな、冒険者本人が承諾するなら、戦争・犯罪への協力以外であれば王族からの依頼は内容を確認することなく請けても構わない、というものがある。今回はそれに該当するな 」
「 王族? 」
「 まあ、それは道々お話しさせて頂きますわ 」
サマースノーが2人の会話を遮った。
どこまでもうん臭い女め。
「 でも、未だ請けるとも何とも言ってない 」
「 これで如何でしょうか? 」
すかさず、マリエルさんが紙にスラスラと何か書いて私に見せた。
「 50万ベリル!? 」
「 しーっ!声が大きいです 」
彼女に口を押さえられてしまった。
50万ベリルといえば金貨50枚だ。
この世界には、銅貨、銀貨、小金貨、金貨がある。
銀貨が5、6枚あれば晩飯付きの宿に泊まれるのだから、銀貨1枚の価値はだいたい現在の地球でいうところの千円程度。
銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚で小金貨1枚、小金貨10枚が金貨1枚の十進法。解り易ね。
つまり、金貨50枚だと500万円!この世界じゃあ相当の金額だ。
「 うっ . . . . 」
金で顔を張られているみたで釈然としないが . . . . . 。
割りの良い依頼には裏があるのだが . . . . . 。
一度の依頼でこれだけの額は、これからも拝めないだろう。な、悩む!
カテナを見ると、ニマっと笑っている。
「 私達は、貴女への依頼にはこれぐらいが正当な対価だと思ってますわ 」
「 . . . . . . . . . . 」
「 それに、依頼を請けて下さるなら、ギルドにも幾ばくか寄付も致しましょう。冒険者の皆さんにボーナスが出たりなんかしますかもよ 」
私達の周りに集まり出した奴らの視線が痛い。
「 . . . . . どんな依頼なんだよ? 」
勝ち誇った様な顔を向けるサマースノー。
ちょっと悔しい。
営利稼業である冒険者をゃってる以上、金には敵わない。
別に信条を変える訳じゃないし。
「 下級から中級の魔獣の討伐とでも申しておきましょうか。お得意でしょう? 」
「 それなら、他に請ける冒険者が幾らでもいるだろう? 」
「 数が数ですので。それに、一挙に殲滅にして頂かないと困ります。マーベル様は、そういった事がお得意だとうかがっております 」
どこまで本当なんだか。
中級魔獣じゃなくて、特級だとか?だったら、請ける奴が見つからないだろうから、秘匿したいというのも頷ける。
「 依頼が達成できなければ? 」
「 前金で半額お支払いします。達成できなければ、残りは無しですわ 」
マジか?!頭金抱えてとんずらしたらどうするんだ?
「 依頼の履行が全くされなかった場合は、ローラントとスペイサイド両王国から追っ手がかかりますわよ 」
私の心の中を読んだのか?マリエルさん。
まあ、常識っちゃあ、常識の範疇だ。
いずれにせよ、全く無茶な依頼だったら、途中で放棄しても問題ないだろう。
多分。
そう願いたい。
結局、金にも釣られて、私は根負けしてしまった。
そして今は、馬車の中でドナドナだ。
みゅうの呆れ果てた視線が怖い。
私達はギルドのある辺境都市オーバンを出て、スペイサイド王国にある都市バルブレアに向かっていた。
バルブレアは、スペイサイド王家に連なる公爵が治める領地にある。
王弟とか王様の従兄弟とかかね?
辺境から辺境への移動だから、目に見える風景は牧歌的とは言い難い。
7人の小さなオッサンが駆け出してきそうな鬱蒼とした森が続く中を、ポクポクと馬は進んで行く。
脇差を両脚の間に立て、杖の様にして抱く私の向かいにサマースノーがいる。
大剣は馬車に収まらないので、他の荷物と一緒に屋根の上だ。
隣にはマリエルさん。
マリエルさんに敬称をつけて、どうしてサマースノーには付けないのかって?
そりゃ、此奴が腹黒いからだよ!
「 そろそろ身分を明かしてくれてもいいんじゃないかな? 」
私達の他に誰も聞いてやしないから、そろそろ依頼の全容を教えて欲しい。
冒険者の守秘義務はちゃんと守るよ。
それに、此処までずっと会話がなかったから手持ち無沙汰でもある。
「 そうですね。それでは、お教え差し上げましょう。先ず、申し上げておかなければなりません。私の名前は、イングリット・スペイサイドと申します 」
おいおい、本当に王族かい?!
「 スペイサイドと言っても、公爵家の方ですけれどね 」
王様も公爵様も、私にとっちゃあ大して変わりはない。
どちらも大貴族様だ。
「 それで、依頼の方は? 」
「 それは、ギルドで申し上げた通り、下級・中級魔獣の討伐ですわ 」
どうも、信用できないんだよねえ。
「 本当に? 」
「 本当ですとも。但し、数が問題です 」
イングリットは、眉一つ動かさず、何か恐ろしい事を言おうとしている。
「 どれぐらい? 」
「 いっぱい、としか申し上げられませんですわ 」
マジか?!数えられない程の数の魔獣だって?
これは、依頼を解約した方が良いのではないだろうか?
「 数が解らないくらい無数の魔物が討伐対象なんて、無茶ぶりが過ぎるんじゃあないかなあ?幾ら何でも私独りじゃあ、どうする事も出来ない 」
「 あら、何時、貴女独りでやって下さいって言いました 」
此奴は何を言い出したんだ?他にも冒険者を雇っているのか?
「 それはどういう . . . . ? 」
「 我が公爵家にも領軍というものがあります。貴女には、それを使って頂きますわ 」
. . . . . そう来たか。