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迷惑な依頼主 第3話 依頼主

困ってるのは判るが、それに就いてはこっちも困る。


「 マーベル様、お嬢様はとても義理堅い方です。貴女にとって不利益を働く様な事など決してなされはしませんわ 」


マリエルさん、あんたもちょっとはふざけろよ。

私は貴族に飼われる気なんかさらさらない!


「 マーベル殿、私と一緒に来ては下さらないでしょうか? 」


さっきから私は、サマースノーと名乗るお嬢様から口説かれている。

普通なら唯の指名依頼なのだが、ギルドを通したくないという無茶振りが話をややこしくしてしまっているのだ。


ギルドは、冒険者と依頼主を護る為の互助組織だ。

これがなくなれば冒険者は依頼料を買い叩かれ、依頼主は詐欺紛いの悪徳冒険者に騙される。


ギルドが仕事を斡旋する替わりに、冒険者はギルドを通してしか依頼を請けないことで依頼と請ける冒険者を事前に評価し、仕事のクオリティと依頼の適正金額が護られる仕組なのだ。


それを逸脱した冒険者はギルドから除名されてしまう。


集団からはぐれた個人は弱い。私だってバカじゃないんだ、場合によっちゃあ大樹に寄り添うこともわきまえている。


依頼なんて簡単に見つかるもんじゃないよ。ギルドの後ろ盾のない冒険者が何を売ろうにも買い手を見つける事自体が難しい。

そこらかしこに国中から商人が集まってくる大市場があるんじゃないのだから。

そして、例え見つける事ができても買い叩かれるのがオチだろう。


冒険者とギルドは、互いに利用し合っている持ちつ持たれつの関係なのだ。


サマースノーの提案を受け入れるってことは、貴族に寄生して生きていくことに他ならない。

お貴族様の顔色を窺って生きていくなどまっぴら御免だ。



暫く押し問答が続いていたが、どうやら天は私に味方した様だ。

依頼の受注手続きを終えた冒険者達がチラホラと目につき始めたのだ。


私が、貴族臭を醸し出しているこの2人と押し問答をしてればその内、人が集まってくる。


大勢の冒険者達の前で、ギルドの掟破りは話し辛かろう。


「 マーベル、手頃な依頼は粗方売れちゃって、あとはハードなのしか残ってないよ。そろそろ行ったら? 」


早速、見知った顔が現れた。

エブリ、ちょうど良いところに来た。もそっと近う寄れ。


依頼の売れいきを教えに来てくれたエブリを手招きする。

彼女とは以前、同じクランに参加したことがあったので良く知っている。


「 どうしたの? 」


何一つ訝しむ事のない天真爛漫な彼女だが、この状況を見れば理解はできるだろう。

彼女にウィンクをして合図を送る。


( 私は今、すごく困っている。そして困らせているのはこのお嬢様方だ )


彼女は私の手を握って離さない白銀色の髪の美少女に目を見張り、次いで私に視線を移した。


「 えっ、マーベル!?貴女、そっちなの?! 」


ちがーう!そっちじゃない!!なんで、そう思うかなぁ!?


「 このお嬢様から直接依頼を請けるよう強談されてるんだよ! 」


「 ああ、最近、良く来るヤツね 」


直接依頼をしてくる奴はいるにはいるが全部断っている。

意味深な言い方はやめてくれ。変に誤解されるだろう!


「 私は直接依頼は請けないし、貴族の雇われにもならないってアンタからも言ってやってよ! 」


勿論、彼女は解っている。私が自由を愛する人間だと言うことを。

彼女はテーブルの席に就くと、カテナを撫でながら話し出す。


「 うん、そうね。マーベルも、『斬血姫』なんて言われていい気になってるけど、そんなの若い内だけなんだからね 」


えっ?


「 今の内に真剣に将来の事を考えた方が良いと思うの 」


何言ってんの!?


「 貴族の従者なら安定した職業だし、病気になった時や歳をとった時のことを考えたら、安心できると思うのよ 」


お前は私のオカンかぁ〜っ!!

心なしか、カテナが笑っているように見えた。


「 おお〜、冒険者の中にもこのように、貴族に仕えるのが安定した職業だと理解されている方もいらっしゃるのですね。どうか、マーベル殿に我が家に仕えるよう説得頂けないでしょうか? 」


嬉々としてエブリを持ち上げるサマースノー、そして、それに応えるエブリ。


「 ギルドの中にだって、不安定な冒険者を辞めて堅気の職につきたいって思ってる人はたくさんいるのよ。贅沢を言っちゃあダメ! 」


それはそうだろうが、私にだって選択の自由はある。

目的があるから冒険者をやっているんだ。



いかんっ!サマースノーを調子づかせてしまう。


2対2になったと思ったのも束の間、一挙に3対1と形勢は不利に。


一方、辺りは冒険者達で満ち始めていた。

野次馬根性の滲み出た顔で此方をうかがう奴らもちらほらいる。

これは、これで助かったのではないだろうか?


「 マーベル、これは何の騒ぎだ? 」


不意に渋みがかった声が私を呼んだ。

いつもなら聞きたくないところだが、この場に於いては天からの声に聞こえる。


「 ギルドマスター!助かった 」


かなり薄くなった白髪をオールバックにした、壮年というには少しお年を召した偉丈夫が近づいて来る。

ギルドマスターのゼギルは、サマースノーと揉める私を見つけ何事かと思って様子を確かめに来たようだ。


「 ちょっと、このお嬢さんを説教してやってくれよ。直接依頼を請けろって言うんだぜ 」


「 直接依頼だと!?そりゃ聞き捨てならんな 」


ゼギルが直接依頼を許すはずがない。

サマースノーがゴネればギルド会館から叩き出すだろう。


しかし、当の彼女はギルドマスターの出現にも慌てる様子はない。

どんだけ肝が据わってんだか!?


「 此処のギルドのマスターでいらっしゃるのかしら? 」


「 そうだが。さっきウチのギルド会員から、何やら不穏な言葉を聞いた様な気がするんだが 」


いいぞ、おっさん。もっと言ってやれ!


「 気のせいですわ 」


この後に及んでしらばっくれるのか?

もう詰んでるんだから、さっさと帰りゃあいいのに。


「 困りますな、ギルド会員に規約を破る様に求められては 」


「 さて、何のことでしょう? 」


あくまでシラを切り通す積もりらしい。


通常の指名依頼なら請けなくもないが、その時はアンタの素性は暴露させる。


ゼギルと対峙していたサマースノーは、おもむろに彼を手招きした。


「 あの、少し2人だけでお話しをしたいのだけれど、よろしいかしら? 」


そう言うと、彼女はゼギルの手をとって食堂の隅に引っ張っていく。


暫く話し合った後、にこやかに微笑むサマースノーを先頭に2人は私達の許に戻ってきた。


どういうこと?


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