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迷惑な依頼主 第2話 冒険者ギルド


周りの冒険者に巻き込まれる様にして、私はギルド会館に入っていった。


どいつもこいつも他人より条件の良い依頼を請けたくて、周りの奴らを押し退けて会館の奥にある掲示板に向かって突き進んでいく。

お陰で私についてきた飼い猫のカテナが、雑踏に放り出されそうになった。


割りの良さそうな依頼ほど裏があるとは思わないのか?!


依頼者にも事情があるんだ、公に晒したくない秘密なんかがね。

なんでそれに思い当たらないかなあ?


誰にだって公にしたくない事がある。地位や名誉を重んじる輩だと特に。

そういうお偉いさんは金は出すけど、冒険者如きには詳しく依頼の背景を説明してくれない。

臭い物には蓋をするってかさ。


予想だにしないイベントが起こって依頼が達成できなければ、違約料をとられてまる損だ。

パーティーを組んでる奴は仲間に怪我人が出るかも知れない。


結局、報酬の額は依頼の難易度に比例するんだ。

楽して稼げるなんて思ってたら痛い目を見る。

ほら、カテナもそう思ってるようじゃないか?可愛い声で私に擦り寄てきてる。


ギルド会館に押し込まれると人混みがバラけ、漸くカオスから解放された。

掲示板には向かわず食堂に入ってテーブルに就き、依頼の争奪戦を高みの見物と決め込むことにする。

カテナが私の肩から降り、テーブルの上をウロウロとしている。


掲示板の前では、魔法士職の帽子が飛んだり盾を振り上げたりで大騒ぎだ。


ギルド会館には、冒険者達が食事する為の食堂がある。

私が今いるのがそれ。

酒はエールぐらいしか出ないけど、食い物は安いし量が多いから貧乏冒険者には人気があった。

その内、泊まりの依頼を達成した奴らが帰ってきて、ここも祝杯をあげる冒険者でいっぱいになるだろう。


依頼には、日帰りで達成できるものもあれば、数日掛けないと達成できないものもあってまちまちだ。

これからやってくるであろう奴らは後者の方。

まっ、彼らが戻って来る迄には、こちらもとっくに依頼を請けて出て行ってるけどね。



馬鹿騒ぎを眺めていたら突然、自分に話しかけてくる声が耳に入った。


「 あのお、失礼ですけれど、マーベル・ファムさんですよね?ソードマスターの 」


振り返ってみると、すぐ隣のテーブルに女の二人組が座っている。


席に就いた時にはいなかったから、私に用があって近づいて来たのだろう。

だが、そんなことは噯にも出さず相手の問いに応えてやる。


「 そうだけど、そっちは? 」


「 私はマリエル。それとあちらは一緒にパーティーを組んでいるサマースノーです 」


エナン(鍔広のとんがり帽)の端から、目の醒める様な緋色の髪を垂らすマリエルとは対照的に、見事な白銀色の髪が帽子を脱いでお辞儀をするサマースノーの背中でフワリとなびいた。

自分より少し歳上と思われる少女達は、属性は判らないものの格好からすると魔法士職なのだろう。


「 余裕ですのね。急がないと割りの良い依頼が無くなってしまいますわよ? 」


マリエルと名乗った少女に余計なお世話だと言ってやりたいところだったが、彼女の言葉には棘がない。

本当に心配してくれてるのか、または依頼を請けて欲しくないのか . . . 。


取り敢えず、適当にあしらっておくことにしよう。


「 残り物には福があるって言うからね 」


「 . . . . え、ええ、そういう考え方もありますわね 」


的外れなことを言ったかなと不安になるけど、一応、気にしないでおこう。


「 あんた達も余裕かましてるみたいだけど . . . それとも私に何か用なのかな? 」


そうそう、こっちが本題。


「 え? . . . 判りますか 」


そりゃ判るだろう。


あっちでは依頼の争奪戦をやってるんだ。

朝早く来てそれに参加せず、じっと様子を窺っているのは、残り物の渋めの依頼を狙ってるか、よっぽどの暇人だ。

テーブルでうずくまっていたカテナも、そうじゃないかと大きな欠伸をしている。


それ以外は、特定の人物に用があるか . . . だよね。


それに、粗野の展示会みたいな冒険者ギルドで、こういう御上品な喋り方をする奴は二種類しかいない。

育ちの良い奴か、もしくは詐欺師かだ。


「 で、どこの貴族からの使いなのかな? 」


「 . . . . . . . . . . . 」


あらら、マリエルさん、固まっちゃたよ。図星だったみたい。

やっぱり詐欺師の類じゃないね。


一方のサマースノーの方は肝が据わってるのか端からこうなると判っていたのか、つんっと澄ました表情は変っていない。


マリエルもサマースノーも、暇を持て余して世間話をしたいから此処にいる風には見えないから、多分だけど、やんごとなきお方からの指名依頼だろう。


この前のレギオン戦でちょっと目立ってしまったから、最近この手の依頼には事欠かない。


「 お見通しなんですね 」


残念だけど、あんたのカバーが見え透いてただけ。口に出して言わないけど。


「 失礼しました。私は或る貴族家からの使いでやって参りました、マリエル・ライヒと申します 」


やっぱりそうだ。

家名が名乗れないのは訳ありだろうね。


「 で、どういった依頼なの? 」


ギルド会員をやっている以上、依頼は直接請けられない。指名依頼であってもギルドを通す必要がある。


「 それは、此処では明かせません。ご同行頂けたないでしょうか? 」


おっ、そうきたか。


「 あんた達、知らないんだろうけど直接依頼は請けられないよ。先ずはギルドを通してもらわないと 」


マリエルは困惑した顔になってしまった。

そんな顔されてもルールは破れない。ギルドから除名されて食いっぱぐれるのはこっちなんだから。


「 . . . . どういたしましょう? 」


同僚だと思っていた白銀色の髪の少女に問いかけるマリエルさん。

お伺いを立てているところを見ると、サマースノーがマリエルの主人なのだろう。


ご主人様はおもむろに立ち上がると、私のテーブルまで歩いて来て隣の椅子に腰掛けた。


「 お気づきになられているかと思いますが、私達は此処では身元を明かせないのです。どうかご理解下さい 」


謙った態度から本当に困っているだろうことは判るし、目的の為には冒険者なんぞというヤクザ者にだって頭を下げるその姿勢には好感が持てる。

だけど、これとそれとは違う話だ。


「 だったら、話はここまでだね。ギルド以外を当たってもらうしかない 」


お願いは早々に切って捨てた。

お互いのために、こういうことは早々にハッキリさせておいた方が良い。


最後通牒の積もりだったけど、彼女には諦める気はないらしい。

紫色の、信念を込めた力強い瞳で私を見つめている。


不自然な沈黙が続いた。困ったもんだ。自分が頭まで下げているのだから叶わないはずはないとでも思っているのだろうか?


残念だけど、そのうち受注手続きを終えた冒険者が気づいて寄ってくるだろう。

そうしたら彼女達も此処に長居は出来ない。



サマースノーは同じことに思い当たったのだろう。

時間をかければ自分達に不利だと。


此奴は案外、世間知らずのお嬢様ではないのかも知れない。


彼女は不意に椅子から立ち上がると私の前に跪き、両手で此方の手を包み込んだ。

整った綺麗な顔が目の前にある。女の私から見ても惚れぼれする美しさだ。


おっと、いかん、いかん。仕事に私情を差し挟んでは。


それでも不本意ながら、いや、役得か?二人で見つめ合う形になって柄にもなく照れてしまった。

離れた所で誰かが気づき、笑ってやがるだろう。

見つけたら〆てやる。


色々と想いを巡らせていると、彼女が懇願する様に声を絞り出した。


「 たとえ冒険者を辞める事になっても、私が貴女を養ってさしあげます。一生をかけて 」



なんじゃそりゃあ!?



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