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第四話 首はいらぬ

「殿!!!!殿!!!!!!御免!」




 バチン!




「痛っ!」




 津久見は飛び起きた。


「殿!如何なされた!今日は何かご様子が変でございますぞ!」


 聞きなれた声だ。


 痛む右頬を抑えながら声の主を見ると、そこには左近がいた。


「あ~左近ちゃん…。」


 と、今にも泣きそうな顔で言う。


「左近…ちゃん?」


 訝しめな表情で左近は聞き返す。


「あ。いや大丈夫だ。左近。」


 舞台俳優の様な声で、津久見は答えた。




「ささ、お座りくださいませ。」


 と、津久見の両脇を抱え、椅子に座らせた。


「殿。なかなかの均衡にございます。わが部隊も順調に攻略しております故、その報告に伺ったら、泡を吹かれて倒れておりましたので。」


「いや。うん。大丈夫だ。心配かけてすまぬ。」


 と、さっき会ったばかりのこの髭のおじちゃんに異様に親近感が湧いた声で言った。


「先程の手前の軍の首実検は如何でございましたか。」


 と、例の箱を持ってこようと左近が振り返ろうとした。


「左近!!!」


 今日一番の声である。


 左近は、ビクッとして津久見の方へ振り向きなおした。


「如何いたしましたか?」


「ん~。首はもう良い!」


「なんと?これから続々と、あの憎っき徳川軍の諸将の首が届きますぞ!それは、我が軍の功労でございますぞ!」


 と、また振り返り、箱を取ろうとした。




「左近!!!!!!!」




 さっきより大きな声で呼ぶ。


「首は良い!!分かったか!!」


 人間の生首なんて物は見たことが無い。見たくもない。


(普通気絶したら夢から醒めるっていうのが、大体の夢のオチなのに、気絶した上に、左近ちゃんに平手打ち喰らっても、まだこの世界なんだ。そんなんもう見たくないよ…)


 左近は呆然と立ち尽くしている。


「分かったか!!??」


 と、さっき殴られた恨みも晴らすように大きな声で津久見は言った。


「分かったか!と聞いておる!」




 …。


 ………。




「…。……。なるほど。なるほど!!!さすがは殿!!!」


 と、左近は沈黙を破り、目をキラりと光らせてこちらに近づいて来る。




「首は不要。首は打ち捨て。狙うは家康の首のみ。家康さえ討てば、功労として家康の領地を分配するぞ。という、命令でございますな。」


「え?」


「おい!誰か!誰かおらぬか!」


 左近は陣幕の外に向かって叫ぶ。


 するとすぐさま一人の男が


「は!ここに!」


 と、入って来た。その男に左近は


「その首を持っていけ!」


「はっ!」


 入って来た男が、箱を持って出て行った。更に左近は人を呼んだ。


 別の男が入ってきてその男に左近は伝える。




「全軍に伝令じゃ。首は討ち捨て!狙うは家康の首のみ!決着の折には各家存分に領土を分け与えるぞと伝えい!」


 伝令を受けた男が外に出て行くと、左近は津久見の方へ向きなおし、


「殿!さすがでございますぞ。」


「いや…。ん~。」


 意図せぬ発言で、この髭おじちゃんに褒められたのは少し爽快だった。


 すると、先程の伝令が伝わったのか、


「お~~~!!!」


 と各所から聞こえて来た。所謂、士気が上がったのか?


 津久見は爽快の次に、尿意をもよおしてきていた。


 もぞもぞと動く。


「殿。如何なさりましたか?」


「いや。あの。トイレってあるの?」


「といれ?戸入れ?なんと?」


「いや!あのなんだ!あの~あっ厠!」


「厠?戦場に厠なんぞございませんぞ!」


「え?」


「あ~、何か私も少し尿をたしたくなってきました。御一緒致します。」


(森の中とかで隠れてすんのかな?)


 言われるがままに、左近の後をついて行く。


 陣幕を出た側に立つ一本の木の前に左近は仁王立ちし始める。


「え?ここ?」


 そこら中に、人がいる。しかし、尿意には勝てない。


 慣れない甲冑から小便をするのにてこずったが、何とか準備ができた。


 が、周りの人が気になって小便が出ない。


(無理だよ。こんな所で…。)


 すると、隣から


「バチバチバチバチバチ!!!バチバチバチ!!!!!」


 と、轟音が聞こえて来た。


 津久見は驚き、そちらを見た。


 そこには左近の股間から、木に一直線に斜め45度程で勢いよく、ホースから水を出すように小便をする左近がいた。




 津久見は、白目を向いて後ろに倒れた。


 第四話 完



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