表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/104

第12話 小早川秀秋

「おっと。治部殿。」

津久見の身体をその美青年が支える。


「うっ。」

津久見は何とか気を保つ。

「あ、ありがとうございます。」

と、改めてその男を見る。

高身長に鼻が高く、細く切れた目。

街を歩けば一瞬で人だかりができてしまいそうなイケメンである。


(こ、この人が小早川秀秋???)


意外な容姿に見惚れていると、

「治部殿?」

と、良い声でこの男は問いかけてきた。

「あ、はい。」

我を取り戻し、津久見は答える。


「少し歩きましょう。治部殿。」

「え。はい。」

と、二人は歩き出した。


道中無言のまま、二人は松尾山から関ヶ原全体が見渡せるような丘に着いた。


「ふう。歩きましたな。」

「そうですね。ここは全体が見えますね。金吾さん。」

「はい。ここはこの戦の要所も要所。東軍が本隊に深入りすればするほど、我が軍が横を突けば、袋の鼠でございますからな…。」

と、その秀秋は言う。

「そうですね…。」

津久見は複雑な面持ちで言う。


歴史ではこの青年の裏切りにより、大谷隊は敗走。

脇腹を突かれる形で石田本隊も打撃を受け、結局は敗走する事となる。


津久見の心境は複雑だった。

(この青年の葛藤は計り知れない。多分先程平岡ちゃんが言ってた、徳川の伝令は裏切りの催促…。そこに俺が来たんだから…。)


平野では今も激突が繰り返され、爆発音や叫び声が聞こえる。


その音を消すように秀秋は口を開いた。

「先程の伝言…。心に刺さりましたぞ。」

「そうですか。」

「知っておられるのですね?治部殿は。」

「はい。」

「でしたら何故、あのような伝言を?」

「…。」

「わたしはてっきり、早く家康公へ攻め入れ、との催促かと思っていましたので、伝言を聞いたとき、驚きました。そして、あの言葉は貴方が、全てをご存じで、何か優しささえも感じました…。」

「…。」

「重臣たちの意見はほとんど、家康公につくようにと進めてまいりました。」

「そうですか…。」

「治部様へ付くように進言して来た者もおりましたが、その者達は重臣たちに連れていかれました。多分殺されました。」

「それは、なんとも…。」

「そんな中治部殿のあの伝言。それまで私は自分の意志がありませんでした。あの時までは。」

と言うと、その精悍な顔を津久見に向ける。

「私は…」


と、その時である。

「パンパーン!」

と、銃声が聞こえた。

二人とも、銃声の方を見る。

「パンパーン!!」

また撃ってくる。


そこは、東軍・家康の部隊からのものであった。


(始まったか…。)

と、津久見は思った。

(秀ちゃん。どう出るかな…。)


しかし、その瞬間である。

その銃声をも遥かに超える声が西軍側から聞こえて来た。


「きえ~~~~!!!」

「きえ~~~~!!!きえ~~~~!!!」

異常な程気合の入った声が、戦場に鳴り響く。


「おっちゃん…。」

津久見は笑顔になる。


小早川の目を優しく見る。

「金吾殿…歴史が変わり始めましたぞ。」

「ん?」

「誠実さは届くもののようです。」

津久見は歩き出した。


小早川はまだその声の方を見ている。

目を細め、遠くその部隊を見てみると、

丸坊主の髭男が大声で笑っているようだ。

その周りの約1500の兵が太鼓に合わせて、叫んでいる。

手には何も持っていないが、今にも突撃していきそうなほどな勢いである。



「あれは薩摩の…。」



第12話 完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ